㈱実用技術研究室
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
収差-1 (May 3, 2017)、収差-2 (May 7, 2017)、F-θレンズ (May 10, 2017)、ディジタルガルバノスキャナ (May 14, 2017)、レーザー出力のトリガー制御 (May 17, 2017)、レーザー出力のゲート制御 (May 21, 2017)、ディジタルガルバノスキャナの各種ディレイ (May 24, 2017)、マークディレイ (May 28, 2017)、マークディレイの影響 (May 31, 2017)、レーザーオンディレイ (Jun. 4, 2017)、レーザーオフディレイ (Jun. 7, 2017)、マークディレイの制約 (Jun. 14, 2017)、レーザーオンディレイの最適化 (Jun. 18, 2017)、レーザーオフディレイの最適化 (Jun. 21, 2017)、マークディレイの最適化 (Jun. 25, 2017)、ポリゴンディレイの最適化 (Jun. 28, 2017)、ジャンプディレイの最適化 (Jul. 2, 2017)、モードロック-1 (Jul. 5, 2017)、モードロック-2 (Jul. 9, 2017)、モードロック-3 (Jul. 12, 2017)、光と物質の相互作用-基礎 (Jul. 16, 2017)、通常の光学の範疇における光と気相材料の相互作用 (Jul. 23, 2017)、通常の光学の範疇における光と固相材料の相互作用 (Jul. 30, 2017)、金属表面の吸収スペクトル (Aug. 6, 2017)、高温における材料の吸収スペクトル (Aug. 13, 2017)、非線形光学の範疇における光イオン化 (Aug. 20, 2017)、多光子励起光電子放出、結合欠陥生成 (Aug. 27, 2017)、光電子放出の仕事関数 (Sep. 3, 2017)、共有結合材料の結合・解離エネルギー(推定) (Sep. 10, 2017)、熱拡散 (Sep. 17, 2017)、材料の熱特性 (Sep. 24, 2017)、単発入熱の熱拡散 (Oct. 1, 2017)、繰返入熱の熱蓄積 (Oct. 8, 2017)、熱拡散経路の断面積の影響 (Oct. 15, 2017)、レーザー波長 (Oct. 29, 2017)、パルス幅 (Nov. 5, 2017)、繰返し周波数 (Nov. 12, 2017)、直径の定義 (Nov. 19, 2017)、集光スポット直径,M2 (Nov. 26, 2017)、焦点深度 (Dec. 3, 2017)、加工位置(焦点位置) (Dec. 10, 2017)、偏光 (Dec. 17, 2017)、平均出力 & パルスエネルギー (Dec. 24, 2017)、パルスフルエンス (Dec. 31, 2017)、加工閾値 (Jan. 7, 2018)、照射パルス間隔、Line & Space (Jan. 14, 2018)、組みレンズ、合成焦点距離 (Jan. 21, 2018)、ガリレオ型ビームエキスパンダ (Jan. 28, 2018)、レーザー結晶 (Feb. 4, 2018)、Q-sw DPSSレーザーのパルスエネルギーとパルス幅 (Feb. 11, 2018)
色収差は、屈折率の波長分散により生じる。レーザー光は単色光であるので、レーザー光の集光においては色収差は無視できる。
ザイデルの五収差は、結像に関する研究である。結像では、集光レンズの全面を光は通過する。主に二つの理由により、結像において収差は生じる。一つは、レンズの中心部分しか結像(集光)のための理想曲面を有していないこと。もう一つは、集光レンズの軸と平行ではない光線が存在することである。
レーザー加工のためのレーザー光の集光は、結像ではない。レーザービームの断面積は、集光レンズの面積よりも十分に小さい。レーザービームは集光レンズに垂直に入射され、またレーザービームは、集光レンズの中心を通過させる。従って、レーザービームの集光においては、ザイデルの五収差は無視して構わない。
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レーザー加工用のガルバノスキャナを使う場合、レーザービームはF-θレンズの中心部分だけでなく、任意の場所を通過する。
このような場合、「レーザービームはレンズの中心部分のみを通る」と云う前提が崩れる。
ガルバノスキャナを用いた加工の場合は、収差は明らかに現れる。
一般に、凸レンズの機能は円筒座標で記述される。
レーザービームの特性もまた円筒座標で表されるならば、凸レンズを用いたレーザービームの集光において、顕著な収差は現れない。
レーザービームのM2や拡がり角が、水平方向と垂直方向で異なる値を持つような場合、凸レンズによる焦点は、水平方向と垂直方向で場所が異なる。
このような場合、焦点の形状変化は「ザイデルの球面収差」に似る。
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F-θレンズの付いたガルバノスキャナは、レーザー加工を広い面積に行うのに、大変に便利である。
F-θレンズでは、原点からの焦点の変位量が、レンズの焦点距離とガルバノミラーの角度の積で与えられる。
二種類のF-θレンズがある。
一つはテレセントリック型であり、他方は非テレセントリック型である。
テレセントリック型では、集光ビームが焦点面に垂直に入射する。
非テレセントリック型では、集光ビームは焦点面に、直角ではない角度を成して入射する。
レーザー微細加工用には、テレセントリック型を用いる。
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ディジタルガルバノスキャナの制御には、二つのプロトコルがある。
XY2-100は、16ビットディジタル制御用の一般プロトコルである。
20ビットディジタル制御用のプロトコルは、精密制御用で、SL2-100と呼ばれる。
16ビットディジタルガルバノスキャナを焦点距離が100 mmのF-θレンズとの組合せで用いる場合、焦点面上での位置決め精度は約1 μmである。
20ビットディジタルガルバノスキャナを用いれば、16ビットディジタルガルバノスキャナよりもさらに精密な加工が可能になる。
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ガルバノスキャナの制御ボードは、二つの役割を担っている。一つはガルバノミラーの制御であり、もう一つはレーザー出力の制御である。
レーザー出力の制御用に、ガルバノスキャナの制御ボードは二種類の信号出力を用意している。一つは「トリガー」信号であり、もう一つは「ゲート」信号である。
Q-swは、ナノ秒レーザーパルスを得る一般的な方法である。
「トリガー」は、Q-swを作動させるための信号である。一般に、TTL 信号が「トリガー」に用いられる。一つの「トリガー」信号が、一つの「ナノ秒レーザーパルス」を生み出すきっかけになる。
ナノ秒パルスレーザーは、内部クロックを持っている。内部クロックは、指定された繰返し周波数でTTL信号を連続的に生成する。
任意のパターンのパルストレインを出力として利用したい場合は、外部クロックによる「トリガー」制御の利用が便利である。ファンクションジェネレーターやガルバノスキャナの制御ボードを外部クロックとして用いる。
超短パルスレーザーに対しても、外部「トリガー」制御が利用できる。
然しながら、超短パルスレーザー出力の外部「トリガー」制御は、幾つもの制約のもとに許されている。
若し、超短パルスレーザー制御の十分な知識や技能がないのであれば、「ゲート」制御を利用する方が良い。
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ナノ秒パルスレーザーの場合は、「ゲート」信号は「トリガー」信号に作用する。
「ゲート」が開いている間は、Q-swは「トリガー」信号を受け取ることができる。一方、「ゲート」が閉じている間は、如何なる「トリガー」信号もQ-swを作動させることができない。
この手法では、「トリガー」信号は連続的に内部クロックにより生成され、ナノ秒レーザーパルスの生成と出力が「ゲート」信号により制御される。
超短パルスレーザーにおいて「ゲート」信号は、出力窓近くに設置された光学的な出力シャッタに作用する。
光学的な出力シャッタは、レーザー出力の「ゲート」として働く。レーザービームの出力は、「ゲート」信号によって制御される。
この手法では、超短レーザーパルスは連続的に生成され、レーザー内部は熱的に安定である。
この手法は、「トリガー」制御よりも安全である。
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ガルバノスキャナを用いて高品質なレーザー微細加工を実現するには、各種ディレイの調整が必須である。
「レーザーオンディレイ」は、レーザー照射の開始のタイミングを、描画の開始のタイミングに同期させるためのパラメータである。「レーザーオフディレイ」は、レーザー照射の終了のタイミングを、描画の終了のタイミングに同期させるためのパラメータである。
描画長さの欠損を防ぐために、「マークディレイ」パラメータは次の描画動作の開始を遅らせる。角の丸まりを防ぐために、「ポリゴンディレイ」パラメータは多角形描画における次の辺の描画の開始を遅らせる。「ジャンプディレイ」パラメータは、前の描画終了点から次の描画開始点への「ジャンプ」によって生じるミラーの振動の影響を極小化するために、次の描画動作の開始を遅らせる。
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ガルバノモータが「描画」信号を受けたとしても、ガルバノミラーは瞬時に動き始めるわけではない。加えて、指定速度に達するのは、ガルバノモーターが「描画」信号を受けてから、ある時間が経ってからである。
これには主に二つの理由がある。ガルバノモーターは静止状態の後に動き始める。また、ガルバノミラーは質量を持っている。
ガルバノモーターが同じトルクを持っているとして、指定速度に達するのに、重いミラーは軽いミラーよりも時間がかかる。同様に、ガルバノモーターは、指定された位置で描画を終えるように減速しなければならない。従って、描画終了位置に達すると予測される時間よりも、実際に達する時間は遅れている。
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現在の「描画」の終点への到着予定時間に、次の「描画」動作が始まるならば、描画長さの欠損が生じる。
描画長さの欠損を防ぐために、「マークディレイ」パラメータは、次の「描画」動作の開始を遅らせる。
「マークディレイ」パラメータが適切な値よりも短い時には、描画線の端は指定位置に届いていない。
一方、「マークディレイ」パラメータが適切な値よりも長い時は、問題は生じない。
然しながら、「描画」動作に要する時間は、適切なパラメータの値の場合よりも長くなってしまう。
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次の二つのタイミングは、厳密には一致しない。
- ガルバノスキャナの制御ボードからガルバノモーターへの「描画開始」信号の送信タイミング
- ワーク上での実際の描画の開始のタイミング
多分、次の二つのタイミングも、厳密には一致しない。
- ガルバノスキャナの制御ボードからレーザーへの「照射開始」信号の送信タイミング
- 実際のレーザー照射の開始のタイミング
「レーザーオンディレイ」パラメータは、レーザー照射開始のタイミングと、描画開始のタイミングを同期させる。
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「レーザーオフディレイ」パラメータは、レーザー照射の終了のタイミングと、描画の終了のタイミングを同期させる。
「マークディレイ」パラメータが最適化されていたとしても、「レーザーオフディレイ」パラメータが調整されていないと、描画長さの欠損が生じ得る。
「レーザーオフディレイ」パラメータに”0”が与えられていると、線描画の終了が予定されるタイミングで、レーザー照射は停止される。
然しながら、実際の描画は、線描画の途中の状態にある。
従って、描画長さの欠損が生じる。
この問題を回避するには、実際の描画が終了位置に到達するまで、レーザーの照射が継続されなければならない。
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レーザー照射は、ガルバノスキャナ制御ボードからレーザーへの「レーザーオン」信号の送信によって、開始される。
レーザーが照射されている時に、新しい次の「レーザーオン」信号が送信されても、これは無視される。同様に、レーザー照射が停止されているときに、新しい次の「レーザーオフ」信号が送信されても、これは無視される。
もし「マークディレイ」+「レーザーオンディレイ」<「レーザーオフディレイ」であるならば、二番目の「レーザーオン」信号はレーザーが照射中に送信されることになり、無視される。
「レーザーオンディレイ」「レーザーオフディレイ」は、最適値を用いねばならない。「マークディレイ」の値には、尤度がある。
従って、「マークディレイ」パラメータは、次の関係を満足するように調整される;「マークディレイ」>「レーザーオフディレイ」-「レーザーオンディレイ」 。
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「レーザーオンディレイ」パラメータは、レーザー照射開始のタイミングと、描画の開始のタイミングを同期させる。
「レーザーオンディレイ」パラメータは、実際のレーザー描画によって最適化される。
前もって、「マークディレイ」「ポリゴンディレイ」及び「ジャンプディレイ」パラメータに、十分長い値を与えておく。
もし、「レーザーオンディレイ」パラメータが適切な値よりも短ければ、描画開始位置にレーザーの過剰照射によるダメージが観察される。
もし、「レーザーオンディレイ」パラメータが適切な値よりも長ければ、描画長さの欠損が観察される。
「レーザーオンディレイ」パラメータの最適値は、試験描画と顕微鏡観察の繰返しによって行われる。
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「レーザーオフディレイ」パラメータは、レーザー照射終了のタイミングと、描画終了のタイミングを同期させる。
「レーザーオフディレイ」パラメータは、実際のレーザー描画によって最適化される。
前もって、「マークディレイ」「ポリゴンディレイ」及び「ジャンプディレイ」パラメータに、十分長い値を与えておく。
もし、「レーザーオフディレイ」パラメータが適切な値よりも短ければ、描画長さの欠損が観察される。
もし、「レーザーオフディレイ」パラメータが適切な値よりも長ければ、描画終了位置にレーザーの過剰照射によるダメージが観察される。
「レーザーオフディレイ」パラメータの最適値は、試験描画と顕微鏡観察の繰返しによって行われる。
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「マークディレイ」パラメータは、描画長さの欠損を防ぐために、次の描画操作の開始を遅らせる。
「マークディレイ」パラメータは、実際のレーザー描画によって最適化される。
前もって、「レーザーオンディレイ」と「レーザーオフディレイ」パラメータを最適化しておく。
また、次の関係を守る;「マークディレイ」>「レーザーオフディレイ」-「レーザーオンディレイ」 。
もし、「マークディレイ」パラメータが適切な値よりも短ければ、描画終了位置近傍で「描画長さの欠損」「余分なヒゲ状の線分」「過剰照射ダメージ」が観察される。
「マークディレイ」パラメータが適切な値よりも長くても、描画上の問題は生じない。不必要に長い「マークディレイ」は、総合的な描画所要時間の長時間化に繋がる。
「マークディレイ」パラメータの最適値は、試験描画と顕微鏡観察の繰返しによって行われる。
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「ポリゴンディレイ」パラメータは、多角形の角の丸まりを防ぐために、次の「辺」の描画操作の開始を遅らせる。
「ポリゴンディレイ」パラメータは、実際のレーザー描画によって最適化される。
前もって、「レーザーオンディレイ」と「レーザーオフディレイ」パラメータを最適化しておく。
もし、「ポリゴンディレイ」パラメータが適切な値よりも短ければ、角の丸まってしまった多角形が観察される。
もし、「ポリゴンディレイ」パラメータが適切な値よりも長ければ、多角形の角で過剰照射によるダメージが観察される。
「ポリゴンディレイ」パラメータの最適値は、試験描画と顕微鏡観察の繰返しによって行われる。
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「ジャンプディレイ」パラメータは、ジャンプにより生じるミラーの振動の影響を抑制するために、次の描画操作の開始を遅らせる。
「ジャンプディレイ」パラメータは、実際のレーザー描画によって最適化される。
前もって、「レーザーオンディレイ」と「レーザーオフディレイ」パラメータを最適化しておく。
もし、「ジャンプディレイ」パラメータが適切な値よりも短ければ、次の線描画の開始位置近傍で振動が観察される。
「ジャンプディレイ」パラメータが適切な値よりも長くても、描画上の問題は生じない。不必要に長い「ジャンプディレイ」は、総合的な描画所要時間の長時間化に繋がる。
「ジャンプディレイ」パラメータの最適値は、試験描画と顕微鏡観察の繰返しによって行われる。
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一般的に、レーザー加工用のナノ秒パルスレーザーの出力ビームは、ガウシアン型の強度分布を持っている。これは、出力ビームの横モードがTEM00に固定されていると言い換えることもできる。
レーザー加工の観点では、レーザーは十分な出力を期待する。この十分な出力を持たせるために、加工用レーザーの出力ビームは、縦モードも初期位相も固定されていない。
超短レーザーパルスを得るための手法として、Q-sw法は用いることができない。「モードロック」法を用いることで、超短レーザーパルスを得ることができる。「モードロック」法では、横モードと初期位相が固定される。縦モードは固定されない。
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左図は、Q-swナノ秒パルスレーザービームの電場を示している。縦モードが異なると、初期位相も異なっている。(実際には、縦モードが同じであり且つ初期位相が異なる電場の共存も許される。)
右図は、モードロックレーザービームの電場を示している。時刻0における電場の位相を見よ。全ての縦モードにおいて初期位相は同一である。
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個々の縦モード間の波長の差は極僅かである。「波長依存は無視できる」と仮定することは適切である。
個々の縦モードの電場の総和をとってみよう。上の二つの図は、電場の総和である。下の二つの図は、光電場の自乗に比例する光強度である。
「モードロック」法によって超短レーザーパルスが得られる。「個々の縦モードの初期位相を同一の値に固定する」と云うことは、「モードロック」法の理解において重要である。
「モードロック」法において、自然放出光のスペクトル幅がより広いレーザー媒体を用いると、より短いレーザーパルスを得ることができる。
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p.s.
来週より、毎週1回、日曜日の書き込みに変更します。
相互作用を二つに分類すると、光と物質の相互作用の理解の役に立つ。一つは線形光学の範疇における相互作用であり、もう一つは非線形光学の範疇における相互作用である。
線形光学は古典的な光学である。光誘起誘電分極は、照射光の電場に比例する。
非線形光学は、非常に強い光の電場の下での光学に関する研究分野である。光電場の累乗に比例する誘電分極成分に基づく現象が非線形光学の研究対象である。
光が紫外(UV)から近赤外(NIR)の領域の波長をもつとき、主たる相互作用は光と電子の間で生じる。
光が深紫外やX線の波長をもつ場合を除いて、通常の光学では、電子は電子軌道のいずれかに居なければならない。
ある電子軌道から別の電子軌道に電子が移動することを「遷移」と云う。
低いエネルギー準位の電子軌道から高いエネルギー準位の電子軌道に遷移することを「励起」と云う。
高いエネルギー準位の電子軌道から低いそれへ遷移することを「緩和」と云う。
原子の場合、電子軌道の代わりに「原子軌道」の言葉を用いる。
また分子の場合は、「分子軌道」の言葉を用いる。
気相の原子・分子において、より低いエネルギー準位の電子軌道に空きがない電子配置を「基底状態」と呼ぶ。
より低いエネルギー準位の電子軌道に空きがある電子配置を「励起状態」と呼ぶ。
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通常の光学の範疇における、光とガス状の物質との相互作用を考えよう。
最高エネルギー準位の被占有電子軌道と最低エネルギー準位の空電子軌道のエネルギー差を、△Eとする。
光子のエネルギーが△Eに等しいとき、最高エネルギー準位の被占有電子軌道にある電子は光子のエネルギーを受け取り、最低エネルギー準位の空電子軌道に遷移する。我々はこの遷移を「光吸収」と呼ぶ。
励起された電子は、励起寿命の間高いエネルギー準位の電子軌道に留まる。その後、低いエネルギー準位の電子軌道に遷移する。
緩和には、二つの種類がある。一つは「発光」と呼ばれる。二つの電子軌道のエネルギー差は、光として開放される。もう一つは「非輻射遷移」と呼ばれる。エネルギーは振動(熱)として開放される。
光イオン化は、基底状態における最高エネルギー準位の被占有電子軌道から自由空間への遷移と考えることもできる。自由空間への遷移とは原子(分子)への束縛から電子が自由になることを意味し、自由空間のエネルギー準位を真空準位と呼ぶ。
通常の光学の範疇では、光イオン化に必要なエネルギーは、深紫外からX線領域の光子によってのみ用意できる。したがって、浅い紫外から近赤外の範囲の光子による光イオン化の発生は無視できる。
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通常の光学の範疇における光と固体状の物質との相互作用の場合、電子はエネルギー帯のいずれかに居なければならない。エネルギー帯は、それぞれの原子・分子の個々の電子軌道からなっている。
金属材料では、光のエネルギーを吸収した電子は、伝導帯中で低いエネルギー準位から高いエネルギー準位へ遷移する。電子は、しばしば電気抵抗によってエネルギーを失う。エネルギーを失った電子は伝導帯の低いエネルギー準位へ遷移する。電子が失ったエネルギーは熱になる。この熱を「ジュール熱」と云う。
金属材料が吸収することができる光は、固体金属の伝導電子のプラズマ周波数よりも大きな周波数である必要がある。金属材料のUV-VIS-NIR吸収スペクトルは、伝導電子のプラズマ振動によって与えられる。
物質が共有結合材料である場合、価電子帯にいる電子が光のエネルギーを受け取り、空乏帯に遷移する。励起された電子は、励起寿命の間空乏帯に留まり、その後価電子帯に遷移する。平均的な励起寿命は、数ピコ秒からサブナノ秒の範囲である。価電子帯にいる電子は、レーザーパルスが照射されている間、励起上準位の電子軌道への滞留・緩和を、何度も経験する。緩和が非放射緩和である時、固体材料の温度は緩和の度毎に上昇する。
共有結合材料のUV-VIS-NIR吸収スペクトルは、基底状態と各励起状態との関係より与えられる。
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固体金属内には多くの伝導電子があり、その固体形状を金属結合により保持している。
固体金属中で、伝導電子は集団で振動している。この集団的振動は、固体金属への光の侵入を阻止する。これが、金属が光沢表面を持つ理由である。
固体金属中の伝導電子の集団的振動はプラズマ振動と呼ばれ、その振る舞いはプラズマ振動数によって特徴づけられる。光の振動数がプラズマ振動数よりも小さい場合は、この光は固体金属に侵入できない。
金属に光を吸収させるには、固体金属の伝導電子によるプラズマ周波数よりも大きな周波数の光である必要がある。
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吸収スペクトルは、初期状態と励起状態の間の関係を示す。室温では、光吸収の初期状態は基底状態である。通常の光学の範疇では、室温における高いエネルギーレベルの電子軌道にある励起電子による光吸収の発生は無視できる。通常の光学の範疇の光吸収でも、高温における励起電子による光吸収の発生は無視できない。
物質が熱平衡状態にあるとき、エネルギーの流入・流出は釣り合っている。光によるエネルギーの流出入の場合を考えよう。この場合、物質の光吸収スペクトルと発光スペクトルは同一になる。
黒体輻射あるいはプランクの輻射法則は、よく知られている。これは、温度Tの熱平衡状態にある物質の発光スペクトルを示している。またそれは、光吸収スペクトルでもある。
プランクの輻射法則によれば、吸収スペクトルのピーク波長は、材料温度の上昇に伴い短波長化する。
物質の温度が高いとき、多くの(熱)励起電子がエネルギーレベルの高い電子軌道に居る。したがって、高温においては、励起電子による光吸収が頻繁に生じている。
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線形光学は、一つの光子により生じる現象に関する光学である。
主要なレーザー出力波長は, 1064 nm, 532 nmと355 nmである。これら三つの波長では、一つの光子で光イオン化を生じさせることは難しい。波長が266 nmのビームを用いると、多くの材料において、一つの光子で、光イオン化を生じさせることができる。我々は、深紫外のビームを用いる場合を除き、線形光学の範疇では、電子は電子軌道のうちのどれかに居るように制限されていると考えることができる。
非線形光学は、非常に強い光電場における光学である。
強い光電場とは、光子密度が高い状態である。光子密度が高いと、複数の光子を伴う現象を生じさせることができる。我々はそれを「多光子過程」と呼ぶ。光子密度が高いので、しばしば複数の光子が、時空的に同一の場所を占有する。そのような場合、これらの光子は、これらの光子の持つエネルギーの総和を持つ一つの光子のように振る舞う。光の波長が1064 nm, 532 nm或いは355 nmのどれかであっても、多光子誘起光イオン化によって、電子は真空準位に遷移できる。非線形光学の範疇でのレーザー加工では、電子は、原子(分子)からの束縛を断ち切って自由になることができる。
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一般に、固体材料に対して「イオン化」の言葉は用いない。この言葉は、気相の材料に用いる。
固体金属に対しては、「光電子放出」の言葉を用いる。
金属固体には、沢山の伝導電子があり、固体状態を金属結合により保っている。例えば固体の銅は、N個の伝導電子とN個のCu+イオンからなる。電気的な中性を保つために、N個のCu+イオンが、N個の伝導電子を共有している。これが金属結合である。
集光させた強い超短レーザーパルスを金属表面に照射すると、同時発生する幾つもの光電子放出の結果として、電気的中性が局所的に破れる。これがアブレーション過程の引き金になっていると思われる。
共有結合固体材料に対しては、「光誘起結合欠陥生成」の言葉を用いるのだろう。
超短レーザーパルスを利用した多光子吸収によって、HOMO(最高のエネルギー準位の被占有分子軌道)にある電子は真空準位に遷移できる。シリカや樹脂などの共有結合性材料は、その固体状態を、大きな分子量によって保っている。大きな分子は、共有結合によって形作られている。物質が、共有結合の透明な固体であったとしても、結合欠陥は多光子過程によって発生させることができる。発生した結合欠陥によって、新たに可視光境域に光吸収が生じる。従って、初期の結合欠陥の発生後は、新たな結合欠陥を初期よりも容易に発生させることができる。
結合欠陥の発生は、より小さな分子への分解に等しい。分子サイズが十分に小さくなると、それらは固体表面から揮発していく。
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表は、多くの金属材料の光電子放出の仕事関数を示している。
波長が、1064 nm、532 nmおよび355 nmの光子のエネルギーは、それぞれ1.17 eV、2.33 eVおよび3.50 eV。
これらのω、2ω、3ωの光子のエネルギーは、一光子で光電子放出を生じさせるには不十分である。
非線形光学の範疇での多光子過程は、浅い紫外から近赤外に至る範囲の光子による、光電子放出を可能にする。
光との相互作用で、電子の存在が電子軌道内に限定されている場合は、光子は二つの電子軌道のエネルギー差に丁度等しいエネルギーを持つ必要があった。
光イオン化や光電子放出により放出された電子は、多くの場合真空準位で運動エネルギーを持っている。光電子放出の場合、光子の持つエネルギーについての制約は緩い。光子は光電子放出の仕事関数よりも大きなエネルギーを持っていれば良い。
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表は、幾つかの共有結合材料の結合・解離エネルギーを示している。
カプトンを除き、これらの材料では、一光子で光誘起結合欠陥形成を生じさせるには、1064 nm、 532 nmおよび355 nmの波長の光子はエネルギーが足りない。
非線形光学の範疇の多光子過程は、浅い紫外から近赤外の波長範囲の光子による、光誘起結合欠陥形成を可能にする。
線形光学の範疇でのレーザー加工では、我々は材料の光吸収に合う波長の光を選ばねばならない。
非線形光学の範疇のレーザー加工では、我々は光の波長選択に関する制約から解放される。
高次の非線形過程の発現確率は、低次の非線形過程の発現確率よりも低い。
したがって、非線形過程の発現に必要な非線形性の次数を下げるために、短い光の波長を用いるのが良い。
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材料加工において、熱損傷は重要な問題の一つである。加工点で加工熱が蓄積すると熱損傷が現れる。熱損傷は、色変化、酸化、溶融-流動-再凝固などとして現れる。熱損傷のない良好な加工結果を得るには、加工熱を慎重に取り扱わなければならない。加工手法が、超短パルスレーザーを用いた非熱的なものであったとしても、熱損傷から完全に逃れることは難しい。
二点間に温度差がある時、熱エネルギーは高温部から低温部に流れる。この現象は、熱拡散と呼ばれる。
熱拡散によるエネルギーの流れは、電流に類似している。熱エネルギーの流れは、材料の熱伝導率、時間、流路の断面積、温度差に比例する。またそれは、拡散距離に反比例する。
熱伝導率および/または流路の断面積が大きいと、熱エネルギーの流れも大きい。大きな熱エネルギーの流れは、加工点において加工熱が蓄積する速度を減速させる。
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主要な金属、無機物及び有機物の熱特性を、表にまとめた。
一般に、電気伝導率の高い材料は、また、高い熱伝導率を持つ。例えば、金、銀及び銅は良導体であるが、数百W/mKの熱伝導率である。一方、絶縁物であるガラスや樹脂の熱伝導率は、数W/mKかあるいは1W/mKよりも小さい。材料の種類によって熱伝導率の値は大きく変化する。
熱拡散が効果的である時、現れる熱損傷は僅かであろう。熱拡散がゆっくりであるならば、熱損傷は深刻になる。
アブレーション加工において、金属の加工条件と樹脂の加工条件が同じになることはあり得ない。加工条件は、それぞれの材料の熱特性にそって応じて調整されねばならない。
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材料に温度(エネルギー)分布が生じたときに、時間とともにそれがどのように変化するかは、計算によって求めることができる。
材料形状は平行平板で、厚さ1 mm、面積は無限とする。片面の中央の半径約15 µmの半球領域の温度を時刻t = 0 secに瞬時に沸点とした後の、時刻t = 10 µsec、100 µsec、1 msecの温度分布を計算で求めた。但し計算において、比熱の温度依存、融解熱、融液の流動は無視した。またカプトンの場合は、沸点の代りに熱分解温度を用いた。このモデルは、材料表面にレーザーパルスを1ショットのみ照射した場合に相当する。
熱伝導により周囲に熱エネルギーが拡散されることによって、熱を与えた領域の温度は低下する。熱伝導率の高い材料程、早い時間で半球領域の温度は室温近くまで低下する。半球領域の温度が50~100℃程度まで低下するのに要した時間は、< 10 µsec (Cu)、数十µsec (Fe)、数百µsec (Quartz)、約1 msec (Kapton)である。
計算に用いた半球サイズは、レーザー微細加工で用いられる集光スポット直径にほぼ等しい。従って、ここで算出された値は、レーザー微細加工において必要となる熱拡散時間の目安にできる。
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実際のレーザー微細加工においては、固定繰返し周波数でレーザーパルスを繰返し照射する。このような場合に、照射点にどのように熱が蓄積されるかを、計算によって求めた。
材料形状は平行平板で、厚さ1 mm、面積は無限とする。片面の中央の半径約15 µmの半球領域の温度をパルスレーザーの繰返周波数に相当する時間間隔で瞬時に沸点とした場合の、入熱半球領域の 温度の経過時間に対する変化を計算で求めた。但し計算において、比熱の温度依存、融解熱、融液の流動、体積の減少は無視した。図に、材料が鉄(Fe)の場合の計算結果を示す。
先の単発入熱の場合の熱拡散により室温程度に温度が低下するのに要する時間は、数十µsecであった。これはレーザーパルスの繰返し周波数が数十kHzの場合の時間間隔に相当する。
レーザーパルスの繰返し周波数が1 MHz、500 kHzの場合は、数ショットの照射で入熱半球領域の時間平均温度は材料の融点を越えてしまう。繰返し周波数が100 kHzでは、加工所要時間が十分に短いならば、入熱半球領域の時間平均温度は融点以下に留まる。十分に長い加工時間でも、入熱半球領域の時間平均温度を融点以下に抑えるにはレーザーパルスの繰返し周波数を数十kHzに留めなければならない。
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熱伝導は電気伝導に似ている。電位差は温度差、電気伝導率は熱伝導率に相当する。電気伝導経路の断面積が広ければ、大きな電流が流れる。同様に、熱伝導経路の断面積が大きければ、大きな熱エネルギーが流れる。
レーザー微細加工の多くの場合は、加工対象材料の体積に対して、加工により除去する体積の割合は僅かである。著しい形状の変化はないので、加工を通して、熱伝導・熱拡散の様子に大きな変化はない。
材料が薄い場合、時として材料体積に対する加工除去体積の割合が大きく、形状が著しく変化することがある。厚さ100µmのSUSの薄板に形成した、100µm幅200µmピッチのスリット、254メッシュの光学顕微鏡写真を示す。加工形状を除き、同じ加工条件を用いた。スリットには熱影響は現れていない。一方、メッシュには溶融・再凝固の痕が明瞭に観察されている。
加工されたスリット(桟)の断面積は100µm×100µmである。一方メッシュの桟の断面積は15µm×100µmである。メッシュの場合、熱伝導路(桟)の断面積がスリットの場合の約1/6になってしまっている。従ってメッシュ加工では、加工熱を効率的に加工点から排除することが出来ずに、溶融・再凝固が現れてしまった。
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波長は重要なプロセス・パラメータの一つである。レーザー微細加工には、熱加工と、非熱加工の二つの加工法がある。
熱加工では、波長は材料の光吸収スペクトルから選択される。吸収された光エネルギーは、非輻射緩和を経て熱エネルギーに変換される。微細加工の品質を保つには、熱損傷を避けねばならない。先ず行うのは、吸収される光パワーの制御である。材料の光吸収スペクトルは、加工中に僅かながら変化する。若し弱い吸収の波長を使ったならば、加工に必要なパワーは大変大きくなる。吸収スペクトルの変化によって生じる吸収されるパワーの変化もまた大きい。このことは、深刻な熱損傷の発生に繋がる。一方、強い吸収の波長を使うならば、加工に必要なパワーは十分小さい。従って、加工中の吸収スペクトルの変化に伴う吸収パワーの変化もまた小さい。
非熱加工では、短い波長を選ぶ。長い波長を選んだならば、加工のために、高次の多光子過程が要求される。高次の多光子過程の発生確率は、低次よりも小さい。発生確率を大きくするには、大きなパワーのビームを照射しなければならない。非熱加工においても加工中に材料の光吸収スペクトルは僅かに変化する。熱損傷を避ける観点で、大きなパワーを必要とする長い波長の選択は得策ではない。
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熱加工の場合は、1 ns よりも持続時間の長いパルスを選ぶ。この持続時間範囲のパルスを用いた加工は、熱過程に基づいている。大きなパルスエネルギーを用いた加工の場合には、ms パルスのようにより長い持続時間のパルスを用いるのが良い。然しながら、大きなパルスエネルギーを用いた加工は、熱影響を避けることが難しい。ns パルスは、熱微細加工に適している。より持続時間の短いパルスを用いることで、加工点への入熱の繊細な管理が可能になる。
非熱加工の場合は、1 ns よりも持続時間が短いパルスを選択する。この領域のパルスを、「超短パルス」と呼ぶ。非熱加工に関し、超短パルスを使用することは「必要条件」である。「十分条件」は、繰返し周波数、パルスエネルギーなどを含む加工パラメータの最適化によって満足される。
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基本的に、熱加工に対しては高い繰返し周波数は用いない。一般的に、熱加工と微細加工は両立しない。熱影響は、微細加工の質を低下させる。若し熱過程を用いて微細加工を行いたいならば、加工点への入熱を慎重に制御しなければならない。
パルス・フルエンスが適切な範囲にあるならば、非熱加工において高繰返し周波数を利用することができる。適切なパルス・フルエンスである時、支配的な加工は「アブレーション」である。適切でないパルス・フルエンスを高繰返し周波数で用いると、深刻な熱損傷を引き起こす。
繰返し周波数の効果の確認は、桁を変えて行う。繰返し周波数を少し変えた程度では、加工結果に明確な変化は現れない。
非熱加工においてスループットを向上させるには、パルス・フルエンスを一定に保ったまま、繰返し周波数を増加させる。パルス・フルエンスを増加させると、熱損傷が現れるだろう。
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ガウシアン・ビームの断面内のエネルギー密度分布は、正規分布である。 ガウシアン・ビームの集光点のエネルギー密度分布も、また、正規分布である。正規分布は無限遠点においても零でない値を持つ。従って、ガウシアン・ビームとその集光点の直径に関する適切な定義が必要になる。
ガウス分布の最大値は中心にある。Imax をガウス分布の最大値とする。ガウシアン・ビーム及びその集光点の直径は、値(高さ)がImax/e2 である分布の幅として定義される。
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ガウシアンビームの集光スポット直径は、ビームの波長λ、集光レンズの焦点距離f、レンズ位置でのビーム直径D1/e2、モード因子M2の関数である。
αは比例係数である。ガウシアンビームの凸レンズ集光の場合は、α = 4/π= 1.27である。ガウシアンビームのF-θレンズ集光の場合は、α = 1.83である。
同じλ、f、D1/e2を用いて得られた集光スポット直径d1/e2が 、理想的なガウシアンビームで得られた集光スポット直径の「n」倍である時、そのビームのモード因子M2は「n」である。
レーザーの波長λ、モード因子M2の値は、出荷検査報告書に記載されている。
ビームの横モード表記、TEM00は、それがガウシアンビームであること意味している。
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焦点深度は、焦点からの変位である。
比例係数 α は、ガウシアンビームの集光スポット直径の場合と同じである。
ガウシアンビームの場合、焦点深度内では以下の条件が満足される。
・ビーム直径は、集光スポット直径の√2倍よりも小さい。
・ビーム断面積は、集光スポット面積の2倍よりも小さい。
・ビーム断面内のエネルギー密度は、焦点におけるエネルギー密度の50%よりも大きい。
トップハットビームの焦点深度の定義は、ガウシアンビームについての定義と異なる。
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特別の理由のない限り、加工は焦点を用いて行う。
我々はこの配置を、「ジャスト・フォーカス」と呼び、焦点を加工対象の材料表面に位置させる。
伝搬方向に沿ったビーム直径の変化は、焦点において最小になる。ビーム断面内のパルスエネルギー密度の変化も、焦点において最小となる。従って、ワーキング・ディスタンスの変動が加工に及ぼす影響は、「ジャスト・フォーカス」配置を用いることで極小化できる。
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特別の理由のない限り、加工は円偏光を用いて行う。
深い穴のような高アスペクト比形状の加工を考える。エネルギー反射率の入射角度依存は、s-偏光とp-偏光で異なる。直線偏光を用いて加工された高アスペクト比形状の壁の傾斜角は、壁と直線偏光の間の角度で変化する。この場合、材料表面の加工形状と穴底の形状とは異なってしまう。
この現象を避けるために、高アスペクト比形状の加工では円偏光を用いる。円偏光が一回転するのに要する時間は数フェムト秒である。ひとつのレーザーパルスの持続時間の間に、円偏光は何回も何回も回転するので、偏光が加工に及ぼす影響を平均化できる。
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レーザー加工条件の管理に、レーザー発振器の出力窓における平均出力の計測は役に立たない。加工の再現性を得るには、加工点における平均出力を測定することが大切である。 平均出力 Pave、繰返し周波数 Frep パルスエネルギー epulseの間には次の関係がある。
Pave = Frep x epulse
従って、加工点における平均出力を測定することで、加工点に照射されるレーザーパルスの持つエネルギーを知ることができる。
次は、ある日本の映画の有名なセリフである。「事件は会議室で起きているのではない。事件は現場で起きている」。我々レーザー加工屋のために次のように言い換えよう。「加工はレーザー発振器の出力窓近くで行われているのではない。加工は材料表面で行われている。」
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加工の再現性において、最も重要なパラメータはパルスフルエンスである。パルスフルエンスとは、照射パルスエネルギー密度である。またパルスフルエンスは、一つのレーザーパルスの照射によって除去される深さに比例している。
パルスフルエンスは、集光スポットの面積とパルスエネルギーとから計算される。ガウシアンビームにおいては、1/e2直径の集光スポット円内に、照射パルスの約86%のエネルギーがある。従って、ガウシアンビームに対しては、以下の式が用いられる。
パルスフルエンス= 0.86 x パルスエネルギー / 集光スポット面積
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実際の加工において、閾値パルスフルエンスは重要である。パルスフルエンスが閾値よりも小さい場合、材料除去は生じないか、或は除去率は極めて小さい。パルスフルエンスが閾値よりも大きければ、我々は有効な材料除去を期待できる。従って、個々の材料の閾値パルスフルエンスを知ることは大変重要である。
図は、矩形窪みの加工深さのパルスフルエンス依存を示している。波長やパルス幅、集光スポットサイズ、繰返し周波数、走査速度、走査回数などの条件は一定である。閾値よりも小さいパルスフルエンス領域での加工条件検討は、明らかに役に立たない。加工条件検討では第一番に、材料の閾値パルスフルエンスを探索する。
閾値パルスフルエンスは、波長やパルス幅に強く依存する。閾値パルスフルエンスの、集光スポットサイズや繰返し周波数への依存は弱い。
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殆どの場合、レーザー加工ではガルバのスキャナと自動ステージが用いられる。我々は、それらの機器に対して走査速度を指定しなければならない。さて、走査速度は独立変数だろうか? 実際のところ、走査速度は繰返し周波数と照射スポット間隔から導かれる。
照射スポット間隔とは、連続照射される集光スポットの、隣り合うものとの間隔(距離)である。従って、走査速度は次のように算出される。
走査速度=繰返し周波数×照射スポット間隔
面走査の場合は、もう一つのパラメーターが必要になる。ライン&スペース(Line & Space)であり、隣り合う走査線の間隔(距離)を意味する。
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時として、ビーム直径を変えたい場合がある。ビームエキスパンダは、そのような目的で用いられる。然しながら、市販されているビームエキスパンダは、高エネルギービームを用いたレーザー加工機には適さない。そのような場合は、凸レンズと凹レンズを用いて、ビームエキスパンダを自作する。
ビームエキスパンダは、二枚かあるいはそれ以上の多くのレンズから成っている。我々はそれを組みレンズ系と呼ぶ。組みレンズ系の焦点距離、主点などの特性は良く理解されている。図は、二枚のレンズから成る組みレンズ系の焦点距離、主点を示している。若し三枚よりも多くのレンズから成る組みレンズ系の特性を得たいのであれば、二枚の組レンズ系についての解析を繰り返す。
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二つのタイプのビームエキスパンダがある。一つはガリレオ型と呼ばれ、もう一つはケプラー型と呼ばれる。ケプラー型のビームエキスパンダは、レンズ間に焦点を持つ。従ってケプラー型は、高エネルギービームを用いたレーザー加工機には適さない。
ガリレオ型のビームエキスパンダは、一枚の凸レンズと、一枚の凹レンズから成る。ビームエキスパンダの基本機能は、ビーム直径の変換である。入射ビームと出射ビームの両方は、コリメートされている。このことは、この組みレンズ系の合成焦点距離が無限遠でなければならないことを意味している。f1 + f2 – d = 0 である時、出射ビームはコリメートされている。また、ビーム直径の拡大倍率は f2 / (- f1) である。
注: 凹レンズの焦点距離は負の値と定義される。
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少量のNd3+を含有するYAG結晶がレーザー発振に用いられ、その出力ビームの波長は約1064 nmである。レーザー発振の基になるのはNd3+である。然るに、理由は良く分からないが、多くの人達はこれを「YAGレーザー」と呼ぶ。「Ndレーザー」と呼ぶのが相応しいように思う。
現在三つの主要なNdレーザーがある。一つはYAGをレーザー結晶に用いるレーザーである。他の一つはYLF結晶を、最後の一つはYVO4結晶を用いる。レーザー結晶とは、レーザー活性物質を含有する結晶を意味する。これらの場合、レーザー活性物質はNd3+である。
Nd3+をドープしたYLF結晶(Nd3+:YLF)は、大きなパルスエネルギーを得るのに用いられる。然しながらこの結晶は数十kHzを超える繰返し周波数では用いることができない。 Nd3+:YVO4結晶は数百kHzに及ぶ高繰返し周波数のレーザー発振に用いられる。一方で、この結晶は大きなエネルギーのレーザーパルスを生成することができない。 Nd3+:YAG 結晶は、熱特性とレーザー出力のバランスにおいて優れている。
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DPSS (Diode Pump Solid State) レーザーとは、半導体励起固体レーザーを意味する。
Q-sw DPSSレーザー出力の、パルスエネルギーとパルス幅の繰返し周波数依存を図に示す。この図には、主要な三つのQ-sw DPSSレーザーからの三つの出力がある。一つはNd3+:YLF レーザーからの第二高調波出力、もう一つはNd3+:YAGレーザーからの第二高調波出力、最後の一つはNd3+:YVO4レーザーからの第三高調波出力である。すべてのレーザーは定格運転されている。
Nd3+:YLF レーザーは、数kHzの繰返し周波数で大きなエネルギーのパルスを生成できる。 Nd3+:YVO4レーザーは、数百kHzの繰返し周波数で作動させることができる。然しながら、そのパルスエネルギーはNd3+:YLF レーザーよりも小さい。 Nd3+:YAGレーザーは、Ndレーザーの平均的な性能を持つ。
平均出力が一定であるとしたとき、パルスエネルギーは繰返し周波数に反比例して減少する。従って、パルスエネルギーの周波数依存は理解しやすい。多くの人々は、パルス幅の変化に注意を払わない。パルス幅は一定ではない。
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