原発事故から5年が経過しても、以下のような課題が残ります。
避難者が前向きに新たな地域で生活をスタートできるためには、地域で暖かく受け入れられることが最大のポイントとなると考えます。
制作者は、平成26年9月に、昭和61年4月に事故が発生し、今年の4月26日で事故後丸30年を経過する、ウクライナのチェルノブイリ原発事故に伴い、首都キエフ等に避難した自助グループや避難者を7か所訪問しました。
その際に強く感じたことは、地域が暖かく迎えてくれた避難者は、その後の生活を楽しく過ごしており、避難後の生活を前向きに捉えていました。一方で、地域との折り合いが付かなかったり、差別的な扱いを受けたと感じた避難者は、あの事故さえなければ、と、今でも思い続けていました。
このことからも、避難者以上に、受入側コミュニティの受入態勢が、避難者の今後の人生を左右するものと、強く感じています。
福島県からつくば市に避難している多くの人が、住民票を避難元自治体に残したままです。家族によっては、家族内の誰かだけの住民票を「試し」に避難先自治体に移しながら、様子を見ている状況も少なからず見受けられます。
その理由は、故郷への愛着、住民票を移すことでデメリットが生じることへの懸念、などが挙げられます。そして、今後も、長期的にこの状況は続くものと考えられます。このことにより、避難先での各自治体独自の住民サービスを受けられないことが、課題となっています。
例えば、自治体によっては、行政や自治会からの広報誌などによる情報提供がない、家を新築するに当たり、ソーラーパネル設置や上下水道管設置に対する補助金が出ない、など、自治体独自のサービスを受けられない状態が続くことになります。
二重住民票制度がない中で、どこまで受入自治体が避難者にサービスを提供するかは、各自治体に委ねられている状況であり、とても健全な状態とは言えません。国の制度設計が定まらない限り、原発事故避難者のみならず、今後の行政をまたいだ広域避難の際には、必ず付きまとう課題ともなると考えます。
平成29年3月末で、国の指示に基づく強制避難区域外から自主的に避難をしている、いわゆる自主避難者に対して、福島県からの仮設住宅の無償提供が期限を迎えます。
これに伴い、仮設住宅に避難する避難者への支援が、低所得世帯を除いて終了します。
自主避難者は、放射線への見えない恐怖から、子連れでの母(父)子避難世帯が多いために、二重生活による精神的・経済的負担、子どもが転校せずに暮らせるアパートの確保、自主避難者の判断の尊重、などが重要になってきます。
自主避難者の中には、自己責任と考え、声も出さず、表立って出てくる人も限られている実情もあります。あと1年程で、重大な決断を迫られるため、より丁寧なサポートをしていく必要があると考えます。
今後順次、強制避難区域の見直しが行われ、放射線量の高い帰還困難区域以外の地域に対する避難解除が行われる予定となっています。
平成27年9月5日には、楢葉町全域に同様の措置が取られましたが、除染が十分になされていないこと、町中に散在する放射性廃棄物への不安、インフラ整備が十分でないこと、買い物など生活の不便さ、などから、家に戻った人たちは、一握りの数に過ぎません。今後も、徐々に区域再編がなされるのに伴い、上記3.とは違うタイプの自主避難者が増え、重大な決断を迫られる避難者が数多く出てくることが容易に推測されます。これらの避難者に対しても、丁寧なサポートをしていく必要があると考えます。
復興庁によると、避難者の定義は、「東日本大震災をきっかけに住居の移転を行い、その後、前の住居に戻る意思を有するもの」、となっています。避難者数の把握は、全国各自治体に委ねられていますが、「前の住居に戻る意思」を把握するのはとても困難なことであり、自治体によっては、住居購入時、又は、住民票を移した時などに、避難者名簿から外す自治体も見受けられ、自治体によって避難者の捉え方が様々なのが実情です。
そこで、避難者が知らないうちに支援対象から漏れることのないように、避難者を正確に把握できる定義・仕組みが不可欠であると考えます。そのためには、「意思」という曖昧な定義ではなく、きちんとした「避難終了の手続き」を踏むことが重要であり、結果、今後の混乱を防げるものと考えます。
現在、仮設住宅、及び、茨城県内避難先と福島県内への高速道路の無料化措置がなされています。
ただし、毎年更新のため、また、来年も更新がされるのか、多くの避難者が、毎年心配をしながらこれらの支援策についての決定を待ってきました。
「先行きが見えない」、という状況が避難者にとっては非常に辛いことです。
これだけ甚大な事故であるため、毎年更新ではなく、避難者がじっくり長期的に生活設計をしやすい期間での施策決定がこれまでも、今後も不可欠であると考えます。
(文責:武田直樹)