原口弥生さん(茨城県内への避難者・支援者ネットワーク「ふうあいねっと」 代表)インタビュー
「ふうあいねっと」代表の原口と申します。茨城大学の教員をしております。
1.支援活動の経緯について
「ふうあいねっと」という団体は、震災直後に茨城県内の各地で立ち上がっていた団体、当事者の方、あるいは茨城県の支援団体の方たちが自然と集まって情報を共有できる場、そういう組織を持った方がいいのではないか、ということで立ち上がったネットワーク組織です。当初は茨城県内のNPOの中間支援団体、NPOコモンズに事務局代表があり、そこで県内のグループが集まって、ふうあいねっと全体として活動してきました。
2.支援活動について
ふうあいねっとは、福島の“Fu(ふう)”と茨城の“I(あい)”を取ってふうあいねっと、と言います。現在、茨城に約3,500~4,000人の方が、震災が原因で生活しておりますので、その方たちの生活再建を一番の目的として活動しています。具体的には、茨城で生活する福島の方たちのために情報を提供しようと、「ふうあいおたより」を年に4回発行しています。おたよりには、茨城で生活するための必要な情報とか、あるいは茨城ではなかなか入ってこない福島の情報を掲載しています。また、特に一番の被災者でありながら声の発信が難しい子供たちの声をなるべく拾おうという努力をしてきました。そういう福島の方への情報提供とともに、私たちはネットワーク団体ですので、当事者団体であれ支援団体であれ、活動する中で孤立感を覚えることもあります。ですから、定期的に「ふうあい会議」を開いて、お互いの活動の状況ですとか課題、どうやったら克服できるのか、ということを議論して、活動の継続に繋げてきました。
あとは、昨年度に関しては、先例から学ぼうと茨城で生活する福島の方たちと神戸に行ってきて、先進地でどういう活動をしているのか見てきました。福島から茨城に来ている方たちには情報提供、特に交流会の情報などを、「ふうあいおたより」を通じて出します。そして支援団体、当事者団体に対してはネットワーキング、そこでも情報や課題を共有し、活動の継続を目的として活動しています。
3.支援活動での工夫
先ほど言いました「ふうあいおたより」ですが、当初は事務局スタッフがおたよりを作っておりました。これまで茨城で生活していて、当事者ではない、避難を経験していない事務局の者が作っていました。そうなると、もう少しで震災から5年目になりますけれども、どんどん状況も変わってきていて、本当に必要とされる情報を提供しているだろうか、という思いもありましたし、やはり当事者目線で作らないと良い誌面にならないという思いがありました。そこで、途中から当事者の方に誌面作りに参加しませんか、という呼び掛けをして、それに応えて下さった方と共に誌面作りをしています。茨城で生活されるそれぞれの状況というのがありますので一概に言えませんが、持っている情報量が支援団体とか茨城で生活する私たちよりも、親戚の方などもいらっしゃったり、いろんなところで皆さん避難されている状況をご存知です。ですからそういう情報を持ち寄って、プラス少し先を考えて今こういう情報を出すべきじゃないか、あるいはこの情報を出してしまうとちょっと誤解を招くかもしれないなど、集めるべき情報や出さない方がいいなど、どこに焦点を当てるのか、ということを当事者の方と一緒に議論してきた、というのは途中で変えた大きな点だと思います。
あとは、ふうあいねっとはネットワーク団体ですので、30近い団体が各自で活動しています。例えば大学の学生であったり、あるいはNPOだったり。もともと福祉の活動を20年近くずっとNPOで活動されていたなど、いろんな方がいらっしゃいます。あるいは避難をしてきて避難先で立ち上げられたグループがいくつかあります。いろんな団体があり、そういう方たちの状況、グループについては、それぞれ地域や子育て家族が中心など色々ありますが、ふうあいねっととしては全県域に及んでいますので、各市町村と協力し、または茨城県、福島県とも協力して活動しています。
具体的には、今年は2回目になりましたけれども福島県、茨城県、そしてふうあいねっとの共催によって県内の市町村連絡会議を開催しました。そこでは、茨城県内の各市町村で広域避難を担当されている福祉の部署の方、市町村によって担当の課はあるのですが、そういう方たちに集まっていただき、今福島の方たちがどういう状況にあるとか、ふうあいねっととして活動していきたいけれども、ここがネックになっているから改善してもらえないかということ。特に人数の把握、あるいは避難者の誰を支援の対象とするかというリストをどう作っていくか、または誰を削除していくかということは今後すごく重要な課題ですので、そのあたりについて市町村の方と意見交換をして、支援の継続をお願いしました。市町村の方も最初のケースですので、すごく悩みながらされていると思うんですけれども、その市町村連絡会議で茨城県内の広域避難担当の方が一堂に会し、お互いの情報交換、他の市町村ではこうやっているとか、情報交換ができたことは私たちにとっても市町村の方にとっても良かったのではないかと思っています。
ふうあいねっとが発行するおたよりも、事務局では個人情報を持っておりませんので、各市町村に発送をお願いしています。そういう意味では、県内で活動する団体のネットワークと、かつそれを活かして県内の市町村との連携を図りながら信頼されるような組織づくりをしてきたのは工夫している点です。震災以降、いろいろな問題が発生していて、ふうあいねっとに様々な団体からお声掛けをいただきました。例えば原発問題など、いろんな意見を持っていらっしゃる方、もちろん団体内にも原子力に対していろんな意見を持っている方はいらっしゃいますし、外部からもお声掛けをいただいたりします。さまざまな議論がある中で、ふうあいねっとというのは茨城で生活される広域避難者の支援を行う、生活再建をするということが一番の目的なので、そこから少し外れるような話題は扱わない、ということは意識して行ってきました。原発でいろんな意見を持つのはもちろんいいと思います。原発で働いている方もいらっしゃるし、グループ内でも脱原発で頑張っていらっしゃる方、いろんな人が集まっていますが、それでもここまで活動を継続し、お互いの意見を尊重しながら活動しているということは、社会の在り方としても一つの良いケースなのではないかと思っています。
またこれは個人的なことですが、ふうあいねっとは支援団体と言いますけれども、私は当事者でないことが個人的にはネックだと思っています。本当ならば、ふうあいねっとの代表も当事者の方にやっていただくのがいいのではないかと思っています。いろんな状況があって代表を務めているんですけれども、会の運営ということに関しては責任を持ってやるのですが、おたよりを作る過程において、どのような誌面作りがいいのか、どういう情報を載せるのか、先ほども言いましたけれども、当事者でしか分からないような感覚もありますので、そのあたりはおたよりの企画会議で、避難されている方のお話を聞きながら情報の収集を行っていきたいと思います。個人的にはこれは大事だろうと思っていても、避難者の方からはこれを載せるとちょっと違うかもしれないということもあるので、細かいレベルですが当事者の方の意見を聞きながら進めているという状況です。
4.支援活動での課題
課題はいろいろありますが、ふうあいねっとの課題としては、運営上はネットワーク団体という強みをお話ししたのですが、逆に弱みもあります。各団体の代表の方がふうあい会議に参加されますが、それぞれの団体の方が自分の団体を持っていらっしゃいます。それは通常のお仕事だったりNPOだったり、プラス支援活動をされているので、自分が代表となる団体を持つだけでもすごく大変なわけです。それプラスふうあいねっとの活動にすごく積極的に参加していただくということは、ちょっとハードルが高い。ネットワーク団体であるからこそ事務局への余力がある人が来るわけですけれども、ボランティアも含めて人を集めること、強くお声掛けすればイベントの時などはもちろん集まるのですが、日常の活動においては難しいのかなと思っています。
あとは、人、お金ということで資金面においても、震災直後は2年間、福島県から助成金をいただいて活動してきました。人件費もそこから賄うことができました。人がいないと、専属の方がいないと動かないことがあります。おたよりを発送するにしても44市町村となんとかやり取りをして、おたよりを発送するということもありますし、原稿集めもそれなりの労力を使いますので、責任を持ってやってくれる人が必要です。ですが、もうすでに福島県からの助成金は今年は切れていますし、現在いただいている助成金も来年はないと言われています。助成先を探すということ、自分たちの活動を理解していただいて、市民の方の協力、茨城の地域社会からサポートされる団体となって企業などから活動資金を得るという仕組みを作っていかなければならないと考えています。それは少し行っていて、協力的な印刷所さんを見つけたり、この前のおたよりでは初めて広告を載せました。住宅メーカーの広告ですが、福島の方はこういう状況で家を買われている方がいらっしゃいますよ、ということで大手の地元のメーカーということもあって広告を出してくださいました。その広告費で印刷費を賄いました。ですから、お金の集め方といいますか、助成金頼りだったところをもう少し地域社会に目を向けていくということが必要だと思います。しかし、震災から5年ということで風化というか、皆さんの関心だとか被災されている方への理解や共感というもの、それも私たちの仕事ですが、風化させないようにしていかないと寄付金も集まっていきません。ですから結局私たちが情報を発信して、(被災者の方が)今どういう状況だということをお伝えしながら、活動を理解していただいて寄付金を募るということをやっていくということが、今後はさらに必要なのかなと思っています。
あとは、震災直後から動かれている人は丸々5年くらいやっている方もいらっしゃいます。茨城県内だけではないですけれど、ちょっと疲れていらっしゃる方もいますので、震災直後のペースとか、交流会の頻度も落ちてくるのは仕方がないと思います。ですが状況が変わっていく中でもニーズに即し、集まる場を持つとか、おたよりとかそういうものは細くなってもいいので続けていく、ということがとても大事なのではないかと思います。ですから細く長く活動していくためにはどういうやり方があるのか、それは今後の模索ですけれども、それはみんなで考えていく必要があるのかなと思っています。