北へ行く旅人たち 新十津川物語1 川村たかし

Post date: Jul 15, 2018 3:55:44 AM

明治22年(1889年)8月に奈良県十津川村に未曽有の長雨により大災害があった、雨が上がった後も川下の晴れ上がった新宮市に鉄砲水が襲い多くの死者が出ている、谷間には地形が変わるほどの土砂崩れが起こり、土石流や流木で川は氾濫しせき止められた村落や畑は跡形もなく流されて消えた。十津川村あたりは奈良県内にありながら周囲を山に取り囲まれた谷川にあって北の奈良市都市部や南の和歌山方面からも隔絶され古くから独特の風土を持っていた。勇猛果敢で知られた十津川郷士は一朝ことあれば朝廷からいただいた菱に十の字の旗印のもとに軍団となって京都御所へはせ参じ、時には天皇の先兵となって各地に転戦したという、そうしたこともあってか長く租税免租になっていたし、明治に入ってからも全村が士族に叙せられている。幼い主人公フキはこの災害で両親を亡くしたが、嫁いで地元に残る姉と別れて兄とともに開拓団として北海道へ渡ることになる。長い旅路は歩きと船と、たどり着いた地は極寒の森林地帯。今でこそ砂川市近くの新十津川町は本村の十津川村よりも大きな町になっているが、南からの旅人たちには病虫害や寒さと闘いながら開墾するだけではなく土地を見捨てて出ていく村人もあれば日清日露の戦争で働き手が奪われていくなどの長い生活の道のりの始まりであった。全10巻、高校の教師をされながらこの物語を書き上げた川村たかしさんは多くの方に取材をされたのだろうと思われる、新版の新書サイズにはあとがきなどがないが親版のほうには著者自身のあとがきに加えて各巻に違った方々の作品解説も入っている。この本は橿原ビブリオバトル部の読書会で年1冊10年がかりで読み上げるのに取り上げられたことがきっかけとなって読ませていただいた。今の子供たちにも是非読んでいただきたいと思う1冊です。この親版は現在入手できませんが大和郡山市立図書館から借りました。20180715記庫本善夫