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⑧「平和的生存権」について説明してください。

日本国憲法の前文のなかに、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と規定があります。これが「平和的生存権」です。

その起源は、「欠乏からの自由、恐怖からの自由」を含むルーズヴェルトの「四つの自由」宣言(1941年)と、それを受け継いだ大西洋憲章(1941年8月)です。これが第二次大戦後の国際連合憲章、世界人権宣言、国際人権規約にも受け継がれ、日本国憲法前文の「平和的生存権」もその流れに沿っています。

人類の知性は、数々の悲惨な経験を通して、戦争はあらゆる人権侵害を引き起こすこと・平和はあらゆる人権保障の土台になることを学び、その意味で「平和」がもっとも重要な「人権」であるという考え方に到達しました。個々の人間の生命や人権が、国家よりも上にあるのだ、という思想が、その核心にあります。「恐怖と欠乏のない世界」を「法の支配」によって実現することが国際人権の考え方ですが、日本国憲法の「平和的生存権」は、こうした世界の努力と連携しながら、その国内的保障の徹底を目指したものです。

現在、多くの憲法研究者によって、平和的生存権の権利の中身を明確にする努力がなされており、裁判所の判決の中には、平和的生存権の具体的権利性を認めたものもあります(自衛隊イラク派兵差止等請求事件・名古屋高裁2008年4月17日判決。ここでは、「憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の遂行、武力の行使等や、戦争の準備行為等によって、個人の生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には、平和的生存権…の表れとして、裁判所に対し…救済を求めることができる場合がある」と述べられています)。

平和的生存権を「人権」として明文化したことの意味は、平和の問題を政府・政策にまかせてしまうのではなく、国民一人一人に確実に保障されるべき権利の問題として考えていく、というところにあります。

現在、国連人権理事会では、「平和への権利」を国連総会で宣言として採択しようという大きな取り組みがあり、その実現には、上のような日本国憲法の平和的生存権の考え方が決定的な意味を持っています。

※参考:平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会(編)『いまこそ知りたい 平和への権利 48のQ&A』合同出版、2014年を参照ください。

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