憲法-目次

第1章 「憲法改正」論についての素朴な疑問集

今まであまり憲法を意識しなかった人でも、昨年の安保法案をめぐる国会での紛糾を目にして、新たに憲法とは何かを考え始めた人も多いことでしょう。また、メディアによって報道されるたびに、今の憲法の在り方を考え始めた人もいるのではないでしょうか。そこで第1章では、日ごろ政治に無関心な人々から聞こえてきたさまざまな声を集めてみました。

なぜ今、憲法改正なのか、そもそも憲法改正とはどんなことか、そして、その前に現行憲法とはどのようなものか、といった素朴な疑問にお答えします。

疑問① 最近、憲法改正が話題になっているが、なぜ今、これが持ち上がったのでしょうか。

疑問② 現行憲法は古くなったからというが、そうした理由で憲法を改正する必要があるのでしょうか。

疑問③ 憲法改正とはどんなことでしょうか。

疑問④ この憲法のもとで戦後70年もの間、平和が続きました。ここで憲法改正をするということ自体に不安を感じるという市民、危険だと指摘する有識者が大勢います。それはなぜでしょうか。

疑問⑤ 現行憲法は戦後すぐにできたもので、現在は世界情勢も変わっているから通用しないというが、どこが問題なのでしょうか。

疑問⑥ 安倍首相はどのような内容の憲法に変えたいと思っているのでしょうか。

疑問⑦ 憲法9条が問題になっているが、そもそもどんな条項でしょうか。

疑問⑧ 「平和的生存権」について説明してください。

疑問⑨ 憲法改正をするとしても、中国や北朝鮮などの周辺国、あるいはISなど、他国からの脅威が大きくなっているので、9条だけを変えればよいのではないでしょうか。

疑問⑩ アベノミクスによって経済が好転したという見方があります。この政権の経済政策と改憲案とは別問題だと思いますが、関係があるのでしょうか。

疑問⑪ 憲法改正するとしたら、国民一人一人の意見が反映するのでしょうか。

疑問⑫ 万一、憲法が改正されたら、国民の生活はどのように変わるのでしょうか。

疑問⑬ 現行の法整備だけで済むというのに、わざわざ憲法を改正する理由は何でしょうか。

疑問⑭ 日米同盟は現行憲法の枠内でのみ有効でしょうか。

疑問⑮ 改憲すると日米同盟はどう変わるのでしょうか。

疑問⑯ 現時点でアメリカは日本の改憲、とりわけ「9条改正」を肯定的にみているのでしょうか、あるいは否定的でしょうか。

疑問⑰ 自民党は、国会議員の3分の2以上の賛成が憲法改正の発議に必要だと規定している憲法96条の改正を提案しています。この規定は、他の国に比べて厳しすぎるのでしょうか。

疑問⑱ 自民党は「お試し改憲」という言葉を使っています。たとえば96条を改正したあと、順次改めて、全体を変えるのでしょうか。

疑問⑲ 安保法案の際にもすでに解釈改憲ということで成立させました。これが認められるのなら、今の憲法を変える必要はないのではないでしょうか。

疑問⑳ かなりの数の地方議会が「国会に憲法改正の早期実現を求める」意見書を提出しています。十分に議論が尽くされた上でのことでしょうか。

疑問㉑ 「日本会議」とはどんな団体でしょうか。

第2章 現行憲法について一般に流布している言説+自民党「漫画政策パンフレット」で説明されていることに関する質問集

最近の世界の動きをみて、今の憲法のここを変えたらいいのではないかと思っている人や、与党のいう改憲を少し考え始めた人もいることでしょう。しかし、来たる7月の参院選で、与党は改憲問題を争点には挙げてはいません。ですが、万一、与党や改憲勢力が勝利した場合、改憲の方向へ向かうことは確かです。これまでにも選挙で多数を占めるたびに、選挙前の公約には表に出さなかった特定秘密保護法や安保法制などを強行採決していることを思い出してください。そして、改憲への動きが進むとすれば、おそらく新しい憲法は自民党が2012年に発表した「自民党改憲草案」に近いものになると思われます。またこれをわかりやすい漫画の形にしたものが、「漫画政策パンフレット」です。これらはあまり知られてはいないようですが、内容を見るとさまざまな思いを抱かれることと思います。

自民党改憲草案 漫画政策パンフレット

そこで第2章では、現行憲法について一般に言われていること、および自民党「漫画政策パンフレット」で描かれていることが本当にそうなのか、自民党は一体何をめざしているのかを検証します。「自民党改憲草案」の問題点については第3章で詳しく解説します。

【2.1 】現行憲法の成立過程と改憲について

質問① 現行憲法は、終戦直後にアメリカの憲法専門家でない人が、「日本を無力化する」ために作り、日本に押し付けたものだというのは本当ですか。

質問② 漫画(p.11) に,前文が翻訳口調であることが憲法そのものの問題点であるかのように書いてあります。条文の文体と憲法の中身に関連がありますか。

質問③ 漫画(p.21)には、「“敗戦国”日本のままってことなのか」とありますが,占領下で公布された憲法があると「“敗戦国”」になるのですか。

質問④ 漫画(p.9)には、「ケータイもネットもなかった時代の憲法」だと「今の社会についてこられない」というようなことが書いてありますが,本当にそうですか。

質問⑤ 日本人が自身の手で作ったものではないため、日本人の意見が反映しておらず、日本人の精神が生かされていないという意見がありますが、本当ですか。

【2.2】現行憲法の内容について

(1)軍隊について

質問① 日本のように経済的に自立した独立国家は、普通は軍隊を持っています。日本が軍隊を持っていないのはおかしいのではないでしょうか。

質問② 軍隊を持たないという決断は、外国から押し付けられたものではないのでしょうか。

質問③ 最近、日本を取り囲む国々(中国、韓国、北朝鮮など)の軍事的な動きに不安を感じます。現行憲法ではそれらの国が軍事行動を起こしてきたときに立ち向かえないのではないでしょうか。

質問④ 最近、世界的にみるとISなどの武装集団の脅威が増大しています。現行憲法ではそれらの国を抑え込もうという国際社会の合意に沿う協力ができないのではないでしょうか。

質問⑤ 永世中立をうたうスイスも軍隊を持っており、徴兵制があります。日本も検討すべきではないでしょうか?

質問⑥ 今の国際環境では「戦争の放棄」は現実的ではないとも思われます。「戦争に加担しないことにすれば平和は守れる」と考えることはできないのではないでしょうか。

質問⑦ 国防軍を持つことは戦争をしようという意味ではありません。自ら戦争はしないが、「抑止力」としての軍事力は持つべきではないでしょうか。

質問⑧ 万一の場合(有事の場合)に誰が対処にあたるのでしょうか。自衛隊員以外の一般国民が徴兵されることはないのでしょうか。

質問⑨ 日本の現行憲法9条には、国を守る「自衛権」とそれを行使する軍隊を管理する規定がありません。これは憲法の「不備」と考えるべきでしょうか。

質問⑩ 多くの国では軍隊について「文民統制」があることが書かれているが、日本の現行憲法ではどうなっているのでしょうか。

質問⑪ 日本に求められている国際貢献を考えると、自衛隊の活動範囲を世界に広げるために、憲法の解釈を大きく変えるか、憲法改正を考える必要があるのではないでしょうか。

質問⑫ 日米同盟の恩恵を受けている限り、日本も米軍の力にならなければ義理を欠くのではないでしょうか。

質問⑬ 現在は日米同盟によって、日本は守られているが、たとえばトランプ氏が大統領になったら日本を守ってくれないので、日本は独自の軍隊を持つべきだと思うのですが。

質問⑭ もしどこかの国が攻めてきたら、現行憲法では「自衛権の行使」を認めているのでやむをえず戦うことになります。しかし憲法9条は「戦力の放棄」をうたっているので、自衛隊は「戦力」ではなく自衛のための「実力」だという解釈で今まで来ています。これは苦しい解釈ではないでしょうか。

(2)緊急事態条項について

質問① 解釈を変更して成立させた安保法は、外国からの攻撃を受けたときの解決にどうしても必要な制度なので、憲法上認められるはずではないでしょうか。もしも現行憲法で認められないならば、憲法改正をしてでも認める必要があるのではないでしょうか。

質問② 国内で起きる大震災などの大災害に対処するには、憲法に緊急事態条項を設けることが必要ではないでしょうか。

質問③ 「緊急事態条項」は他の国の憲法にもあります。日本の憲法にないのはおかしいのではないでしょうか。

質問④ 大きな自然災害などが生じた場合のことを考えて,いわゆる緊急事態条項を加えるために改憲を行う必要があると説明されることがありますが,そのような目的での改憲は必要なのですか。

(3)天皇と愛国心について

質問① 日本が「立憲君主国」なら、天皇を元首としてもよいでしょうし、日本に元首がいないのはおかしいと思いますがどうでしょうか。

質問② 日本には国歌や国旗を明確に定めた規定がありません。国歌斉唱をしないのは愛国心の欠如ではないでしょうか。

質問③ 統計によれば、「日本人には他国に比べ自国に対する誇りが少ない」そうです。これは自虐史観に基づいた戦後教育のせいではありませんか。

(4)国民の権利および義務について

質問① 漫画(p.59)では,現行憲法では「男女平等が謳われ女性の地位は向上したが、個人の自由が強調されすぎて、家族の絆とか地域の連帯が希薄になった」とありますが,家族の絆とか地域の連帯が希薄になったのは本当に「個人の自由が強調されすぎ」たからですか。また仮に「個人の自由が強調されすぎ」たとしたら,それは現行憲法に原因があるのですか。

質問② 漫画(p.12)に,今の憲法で「プライバシーもストーカーも環境問題も」考えることができないと書いてありますが,本当ですか。

質問③ 現行憲法について,漫画のp.28では「公共に反してなきゃ個人の幸福を追求するためなら何でもやっていいってこと?」、p.31では 「日本じゃ国の安全に反してもワガママOKってこと!?」と書いていますが,本当ですか。

質問④ 漫画(p.29) に「どんなに危険な結社や宗教団体でも簡単に解散させられないんだ」とありますが,そういう危険な結社や団体を規制するために憲法を変える必要があるのですか。

質問⑤ 現行憲法は個人主義的と言えるのではないでしょうか。

第3章 現行憲法と「自民党改憲草案」についての解説

自民党は野党時代の2012年4月に「日本国憲法改正草案」を発表しました。自民党は2005年にも改憲草案を発表しています。2012年の改憲草案は2005年のそれと比較するといくつか違いがあります。まず名称が、2005年のものは「新憲法草案」となっていましたが、2012年のものは「日本国憲法改正草案」となっています。2005年のものは、現在の日本国憲法に代えてまったく新しい憲法を制定するという趣旨でこのような名称にしたと思われます。他方で、2012年の改憲草案は、一応いまの日本国憲法をもとにして、その改正という形をとっています。

しかし、以下にみるように2012年の改憲草案は、日本国憲法の基本原理である、国民主権、平和主義、基本的人権の保障のいずれの原理・原則を、形をとどめないほど変形、改定をしたものです。その意味で、これは「憲法改正」でなく、憲法改正の限界を突破した、「壊憲」の試みとしかいいようがありません。このような内容のものを、正面から憲法改正として発議することはないでしょうが、いま「改憲」を唱えている政権政党の本当の考えを知っておき、主権者国民として改憲問題を真剣に考えていく際の、参考資料とすることが大切だと思います。

3.1 立憲主義の軽視

3.2 「天皇を戴く国家」と国民主権の形骸化

3.3 「戦争をする軍事大国」を目指す9条の改憲

3.4 基本的人権の形骸化(1)

3.5 基本的人権の形骸化(2)

3.6 緊急事態規定の新設

3.7 憲法改正条項の改悪