F君は,楽器を弾きながら計算できるかについて調べました.読書ができるかと同じ流れの実験ですが,F君の興味は演奏と歌唱の違いです.ピアノを弾く場合と歌を歌う場合で計算の影響が異なるかということです.問題は別の人に口頭で出してもらう簡単な計算で,歌を歌う場合は,計算結果が偶数なら右手,奇数なら左手をあげるという二重課題,ピアノ演奏の場合は,偶数なら0,奇数なら1と口頭で答える二重仮題でした.結果の数値は報告されていませんが,歌の方は簡単であり全く問題なくできたが,ピアノの方は難しかったということでした.あまり慣れていない曲の場合に計算ができても答えを言う際に演奏を間違えることが多かったとのこと.F君の結論は,「歌うのと計算は独立な脳処理である」でした.演奏についてはなにも結論づけていないですが,話の流れからは,演奏と計算は共通の過程を含んでいるということになるでしょう.もちろん,課題の難易の統制には問題があり,歌う歌と演奏する曲が同程度に難しいかどうか不明ですし,計算は同等であってもその答え方の難易がそろっているとはいえないでしょう.それでも興味があるのは,「歌唱と計算&手の上げ下げ」の干渉と「演奏と計算&口頭での回答」の干渉では,前者の方が弱そうである点です.後者の問題がどこにあるかはわかりませんし,実際にそういう違いがあるかについて要検討ですが,歌唱に比べて演奏には多くの処理が関わっていることを示しているのかもしれません.もっといろいろな条件で実験をすれば良かったとのF君の感想がありましたが.この点は同感です.ただし,定量的なデータを取ることの方が重要性が高かいだろうとも思いました.