色順応と視力

どんな実験をするかについて話している中で、パソコン画面を長時間みると目に悪いとか、目に悪い色やよい色があるなどと言う話がでてきます。おそらくT君の実験はそんな話をきっかけにしていたと思います。レポートの記述は短く、詳細も記憶していないので、実際の動機はわかりません。この実験の結果はあまりおもしろみのないものですが、そういう背景を考慮すると実験の意義が見えてきます。実験の目的は、同じ色を見続けると視力に影響を与えるかを調べることです。T君には、視力が落ちるのではないかとの予想があったと思います。私としては、それなら調べて見てはどうかとう話をしたと思います。視力の測定にはいろいろなフォントサイズのCを印刷して視力票を作り、Cのかけている方向を見分けられる最小サイズを視力としてを測定しました。条件は、通常の測定と色のついたPC画面を5分見続けたあとの測定です。画面の色は、赤、青、緑の3原色(おそらくそれぞれの最大値)と白です。視力は左右眼で測定しました。読み取れる最小フォントは、右眼ではすべての条件でサイズ9、左眼ではすべての条件で11でした。T君の結論は色を見続けることは視力に影響しないです。全く影響しないかどうかについてはわかりませんが、はっきりした効果があるほどには影響しないことは確かでしょう。5分間同じ色の画面を見続けるのは色に対する順応としてはかなり大きな効果を与えるはずで、実際赤画面を見た後は視界が緑がかったと報告しています。色順応の効果は十分にあったに対して、視力が変化しなかたという事ですから、色の長時間観察が視力に影響しないというのは妥当な結論といえそうです。実際に空間解像度の低い色覚処理が、空間解像度の限界を示す視力に影響する理由はなさそうです。

 この実験結果は、ネガティブなものですから強い結論を引き出すことはできませんが、漠然ともっともらしく思っている事について実験的に確認したことは意義が大きいと思います。真っ赤な画面を見続けることが目に悪いだろうと漠然と感じる人は多いかもしれませんが、そこからそれを実証するという態度が重要でしょう。もちろん、視力に影響がないからといって、目に悪くないということにはなりませんし、視力にしてもこの測定で取り出せなかっただけかもしれないので問題ないというつもりもありません。念のため。