ギターと読書

何かをしながら楽器を弾く実験のひとつです.O君はギターを弾きながら読書をしました.彼は曲ではなく,短い6種類のパターンを利用しました(図1).それを繰り返しながら本を読み.ミスの回数と読書の時間を測定しています.また,演奏速度を100, 125, 150 beat/sの3種類設定しました.図2は,演奏のみ,読書と演奏のそれぞれの演奏速度での1分間のミスの回数を示します.また,読書をしながら演奏したときの1行を読むのにかかる時間(秒)も一緒に示す.縦軸は,単位はそれぞれで異なるが,ミス回数と読書時間とも同じ数値で表している.いずれの速度でも読書をすることによって,1分あたりミスがおよそ2回増加したことがわかります.明らかに演奏に読書が影響したといえます.また読書の方は,演奏なしの場合は1.8/秒程度であることから,演奏によって読書速度が低下(時間が増加)していることがわかります.つまり読書へも演奏の影響があります.ここまでの結果は,演奏と読書の二重課題の効果を定量的に示せたという意味で評価ができます.O君は実験結果をすべてのパターンについて平均するということはやっていません.そして,パターン3,4,5は,他に比べて顕著な読書の影響を受けている点を指摘しています.これらは.変則的リズムで右手と指を動かしていて,1,2のような一定のリズムで右手を動かし左手の指を動かしているのと違うことをその原因としてあげています(6についてはなにもいっていません).この考察を考慮して,パターン1,2,6とパターン3,4,5を別々にまとめてみたのが図3です.確かにパターン3,4,5では,読書することによって,1分間あたりのミスの数が4回程度増加しています.それに対して,パターン1,2,6では,ミス回数の増加はおよそ0.2回です.読書速度の方も,パターン3,4,5においてより大きな低下が見られる.ただし,パターン1,2,6でも明らかな読書速度の低下(読書時間の増加)が見られます.演奏の難易が,演奏と読書の相互作用に大きく影響することがわかったといえると思います.

 図3を見ると,パターン1,2,6とパターン3,4,5の間の興味深い違いが見えます.前者が演奏速度の増加に伴い,ミスが増えるのに対して,後者は減少しています.読書と演奏を同時に行うときにその傾向は顕著ですが,演奏のみでも同様な傾向が見られます.これは,今回O君のデータを図示してみて初めて気がついた点です.原因は特定できませんが,自動的行動の速度依存性のようなこととと関連するようにも思います.難しいパターンでは,ある程度早い速度での演奏をすることが,他の課題との干渉を減らすことになるということなのかもしれません.