鏡の中の手書き文字

レポートの冒頭に、無意識下の自動書記ではなく、鏡を通して字を写した実験であると書いてある。H君は自動書記に興味があり、最初はそれに関連する実験を考えていたのだったと思います。視覚に関連するという条件を受け入れて、鏡を見ながらの実験をしました。さて実験は、さまざまな文字や記号を見ながら隣にそれを書き写すものです。その際に、鏡を立てて、鏡に映った文字を鏡に映った手を見ながら書きました。最初の実験では、紙の左端に鏡をたてて、左側をのぞき込む形で行っています。図1は実際の書いた文字です。定量的な評価はできていませんが、何点か興味深い報告をしています。まず、左右の反転が難しいと思い実際それは難しかったが、その点は徐々に慣れたとのことです。一方で慣れなかったのが、上から下に引く縦線だったとのこと。左右にずれないように線を引くのは最後まで難しかったということです。

 また、紙面で右に来るほど形がくずれるが、それは鏡を通してみたとき遠くなる点の問題だと考察しています。結果だけを見せられたらすぐに思いつかないですが、こういう内省は重要だとと思います。

 次に彼は鏡を紙の上において実験をしました。左においたのとは逆に縦線よりも横線が曲がったといっています(2)。しかし最初の実験と文字を比べてもそれほど明らかではありません。そういうこともあり、3番目の条件では単純な図形を用いて、鏡を左においた場合と上においた場合を比較しています(図3)。縦線と横線の話は、+と△をみると、確かに左鏡条件で縦線が(図3下)、上鏡条件で横線(図3上)がずれやすいといえそうです。その原因は、左鏡条件では左右にずれた場合は、左右に補正をする必要があるのに対して、左右の線は一度引き始めれば、上下のずれは鏡と関係なく補正できるということのようです。同様に上鏡条件では上下のずれの補正が難しいのだといえそうです。視覚と行動の対応をくずす実験はいろいろありますが、エラーが生じたときの補正機能に対して効果が大きい場合には、その状態に順応することは難しいということかもしれません。