盲牌での視覚と触覚

K君は,麻雀牌を触って当てる盲牌に興味がありました.そこで,利用する指による能力の違いや視覚との比較を調べる実験をしました.実験では,字牌のみを利用し,人差し指,中指,薬指の腹で触ってそれを当てる実験と視覚を用いてただしぼかした条件での実験をしました.視覚でのぼけはメガネをはずして行ったものであったと思います.各条件で,それぞれの字牌を5回ずつ計45回,盲牌による牌当てを行いました.図1は,読み取り条件による正当率の差を示します.指の中では,人差し指がもっとも正当率高く,中指,薬指と続きます.視覚条件は,薬指より少し低い正当率となりました.視覚条件の結果はぼけ具合によるでしょうから,とりあえずおいておきます.触覚条件の中で,人差し指がもっともよい結果であるというのはなんとなく予想できます.人差し指はもっともよく利用している指(親指とともにでしょうが)で,その動かし方もより自在にできそうな感じを受けます.しかしこの結果を考える上では.もっとも単純な考え方は,(動かし方の効果も含めた)それぞれの指による形状認識の解像度の違いでしょう.ここで行った実験は,9種類の触覚(あるいは視覚)を区別することであるので,より詳細な特徴を見分けることができるほど,より高い認識率を得ることができると考えられます.もし触覚研究から,解像度が人差し指は中指より,中指は薬指より解像が高いことがわかっていれば,K君の実験結果はその反映であるといえそうです.さらに,視覚刺激のぼけ方から触覚の解像度がどの程度かを視力に換算することもできるかもしれません.眼が悪い人にとっては,触った方がものの形がよくわかることもあり得るわけです(ただし,目で見る場合は対象を近づけることで,相対的に解像度を上げることは可能ですから,単純な話にはなりませんが).

 その解像度が問題であるということは,牌の種類による正当率の変化からも支持されます.図2は,各字牌に対する正当率をすべての条件の結果からもとめたものです.伍や六といった複雑な牌で正当率が低い傾向があることがわかります.これらの文字の詳細を知覚するためには,より高い解像度が必要であろうことは容易に想像できます.そのように考えたとした場合に,図2の結果には面白いものがあります.それは四の正当率が三よりも高いことです.個別の条件でみても,2つの条件(左手薬指と視覚)で同じであった他は四の方が高い正答率でした.四の方が画数も多いし細かい部分も多いのに三の方が間違いが多いのは不思議な気がします.これは,この実験が9種類の牌の区別する能力を調べていることと関連すると思われます.四は周囲が四角形ですが,他にそれに似た牌はありません.一方,三は3本の線の間隔が狭いため,複数の線があることはわかるけれどもそれが二のように感じられ,誤って二と答えることが多かったようでした

図2 各字牌に対する盲牌とぼけた視覚像による読み取り正当率.すべての条件の結果から求めた正当率

 さて触覚の解像度の研究では,2点弁別という実験を行います.2本の細い棒を準備し,それで皮膚を押します.その間隔が広ければ,2カ所が押されていることがわかりますが,狭くなると1カ所だけが押されているように感じます.これは視覚でもテレビなどのひとつひとつの画素が見えず数カ所の光が平均化されるのと同じようなことです.三という牌の溝が2点弁別できる最小の間隔よりも狭ければ,三は二として認識される可能性はあるわけです.

 残された資料(提出されたレポート,図3)は限られていて,不明な点もありますが,実験は指の影響と牌の種類の影響をとらえたものだと思われます.

図3レポートの説明図