大きさの知覚

セミナーの意図に反して、視覚研究に直接的な関連を持つ実験の例を少なからずありました。なかなか自分の興味と視覚を結び付けた実験というのが思いつかない場合や、紹介した視覚現象の強い興味を持ってそれに関連したことをやりたいと強く思った場合などです。H君は、シェパードの机の錯視(R. N. Shepard の「視覚のトリック」にある机の絵)について検討しました。図は同じ机の面が、一方が長く見えるもので、これが同じであると信じることは簡単ではありません。あるところでこれを見せたときに画面上で長さを測って確認した方がいましたが、研究者はそうでなければいけないと関心しました。

 H君は、大きさの恒常性の図形とシェパードの机を使って、見え方が変わらないようにすることができるか調べました。大きさの恒常性図形は、牛の絵でしたが、原典がわかりませんので、私の利用している図を載せます。シェパードの机の方も、ここでは私が書いたものを載せます。

 大きさの恒常性の絵は、背景がなくても位置の効果のみでも少し大きさが変わって見えます(H君の図ではもっと顕著に差が見えました)。上の方が遠くに見えるために、同じ網膜像を与える人が距離を考慮した処理の結果大きく見えるという一般的な説明で理解できます。横に並べると同じに見えます。

 問題はシェパードの机で、この配置のままなんとか同じに見せる方法はないかと考えていろいろ試したようです。レポートにあるのは、顔を貼り付けたものです。シェパードの机は、画面で上下に長く配置されると長い机に見えるわけですが、その理由は上記の背景なしの大きさの恒常性の例と同様に画面の上方が遠くに知覚されることによると考えられます。顔は回転しても奥行き変化は生じないので、それが四辺形の面に張り付いて見えれば、この錯視は生じないかと予想しての実験です。しかし、そんな様子はほとんどみられません。顔が机の面に張り付いて見えていないなら、顔の影響はなくてもよいのですが、見たところ必ずしもそうともいえません。顔はそれなりに机に張り付いているように見えます。もう少し考えてみたら、よい方法がありそうな気もしますが、その後特に検討してはいません。北岡先生(立命館大)のページに「蛇の回転入りシェパード錯視」というのが掲載されているのを見つけましたが、机が上にある人物の縦横比を変える錯視を示しています。机の形状への錯視効果が優勢になるということかと思います。いろいろな図形で試してみる価値があるのではないかと思います。