眼をつぶってシュート

テーマは目をつぶってシュートできるかです.もちろんシュートはできますが,どの程度入れることができるかが問題です.目をつぶってシュートできるかという問いに対して,セミナーでの事前の議論では「できない」,「慣れによる」などの意見が多かった.O君は,目を閉じる時間を変数とする実験1と片眼を閉じる実験2を行いました.これはこのシリーズの眼を閉じてスポーツをするの最初の実験で,その後も同じ範疇に含まれる実験が行われました.図1は,実験1の結果です.時間はその時間だけ目を閉じた後にシュート動作を開始した結果です.ただし0秒の位置の結果は.ボールを話す瞬間に目を閉じた条件です.結果はO君本人のものでおよそ2mの距離からのシュートで.目を開けた状態で10本中9本成功しています.はずれた時については,2秒,5秒では大きなずれはないが,10秒,30秒では大きくずれたとのことでした.レポートでは.10秒,30秒での成功試行については,まぐれだと表現をしています.

 さてここで時間の効果を取り入れたのは,ドライビングシミュレータの実験の結果を意識しています.ドライビングシミュレータの運転中に制御できなくすると,その結果がおよそ800ミリ秒程度後に現れるというものです.O君の実験1の結果をみると,目を閉じた効果は,1秒程度の短時間でも生じるかもしれないけれども,目を開けていたときに得た視覚情報は10秒程度保持される(徐々に劣化はしますが)ことを示しています.これは数百ミリ秒の視覚感覚記憶のようなものではない記憶の効果であることを示します.視覚そのものの記憶ではなく,視覚運動系の記憶なのかもしれません.この種の視覚短期記憶の存在は知られていますが,詳細はほとんど明らかではないのではないでしょうか.しかもこの実験は,運動系に利用される視覚情報の保持という点でも興味深い実験だと思います.

 実験2では,距離を4およそ4mとして,両眼を開けていてる状態で10本中7本の成功することができる条件で行っています.その結果.右眼を閉じた場合に5本,左眼を閉じた条件では4本の成功がありました.これは両眼立体視機能の欠場によって,片眼では正確さが低下したものと考えられるような結果です.しかし,O君は,左眼を閉じた場合には左に,右眼を閉じた場合には右にずれる傾向が強く,片眼での試行での失敗は連続10回の試行の初期試行で多いことに注目しました(最初の2本はどちらの眼を閉じた場合も失敗).そしてこの結果は,新しい環境に慣れるために必要な失敗試行の影響だと考察しています.これは両眼立体視の問題というよりも,単眼観察時,両眼観察時の視方向の問題に思えます.O君はこの事態をゴールの高さが変わったときに似ているといっています.

 ちなみにO君はその後,4年生で私が指導することになり視覚的注意の研究をして修士の学位を取得して卒業しました