【第104回会員研修会 開催報告】
令和7年6月21日(土)に札幌市中央区のカタオカビル5階マルチルームにおいて北海道子供の歯を守る会第104回会員研修会が開催されました。今回の研修会は北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学分野准教授の廣瀬 弥奈先生をお招きし、「口腔に分布するブドウ球菌の薬物耐性状況と分子疫学特徴」と題してご講演いただきました。廣瀬先生は1988年東日本学園大学(現 北海道医療大学)歯学部を卒業後、1993年同大学大学院歯学研究科を修了されました。1996年に米国ボストンにありますThe Forsyth Dental Center留学、1998年同大学大学院歯学部小児歯科学講座講師を経て、2007年同大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学分野准教授にご就任され現在に至っています。今回は「お口の中にもいる“薬が効かない菌”って?」― 口腔内ブドウ球菌の薬剤耐性とその意味 ―について最新の知見を交えて解説いただきました。
講演 「口腔に分布するブドウ球菌の薬物耐性状況と分子疫学特徴」
講師 北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学分野
准教授 廣瀬 弥奈 先生
(講演要旨)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と聞くと、皮膚感染や食中毒の原因菌として知られていますが、実はお口の中にも保菌されていることがあるのです。特に注目すべきは、抗生物質が効かない「薬剤耐性菌(MRSAなど)」が、健康な子どもや医療スタッフの口腔内にも見つかるという研究結果です。廣瀬先生は、子ども、大学生、歯科スタッフの口や手指から採取したブドウ球菌の菌種を調べ、それらがどのような性質(遺伝子型や薬剤耐性)を持っているかを分析されました。その結果、健康小児でも約1.7%がMRSAを保菌していることがわかり、さらに大学生では約32%がS. aureusを口腔に保菌していたことが報告されました。特に興味深かったのは、黄色ブドウ球菌は手指よりも口腔に多く存在しているという点です。一般には手が感染源と思われがちですが、近年の研究では口腔が“見えにくいリスク”として注目されています。こうした耐性菌は、普段は無症状でも、抜歯やインプラント治療などで感染を引き起こすリスクがあります。さらに、入院や施設での生活が長くなるほど、体の免疫力が下がったときに感染しやすくなります。特に小児や高齢者では、周囲の環境や家族からの菌の伝播にも注意が必要です。
では、どのように対策すればよいのでしょうか?廣瀬先生は、感染症を防ぐうえで「標準予防策(スタンダードプリコーション)」を徹底すること、抗菌薬の使い方を見直すことが重要と話されました。例えば、「風邪のときに抗生物質を飲んだほうがよい」と思われがちですが、ウイルス性の風邪に抗菌薬は効きません。むやみに使用すると、薬が効かない菌(耐性菌)を増やしてしまう危険があるのです。また、歯科医院では患者ごとに器具をしっかり滅菌し、マスク・グローブを適切に使用することで、院内感染を防ぐ努力が続けられています。さらに、家庭や学校でも「お口の清潔」が耐性菌対策につながることを、子どもたち自身にも伝えていくことが必要です。近年では、ブドウ球菌が抗生物質に強くなる一方で、口腔内の常在菌が作り出す“自然の抗菌物質”にも注目が集まっています。廣瀬先生の研究チームでは、新たな抗菌成分「6TG(硫黄プリン類)」を作る菌を発見し、今後の感染症対策への応用が期待されています。
今回の講演を通じて、「お口の中にも病気の原因になりうる菌がいること」「抗菌薬の正しい使い方」「歯科と医科の連携の大切さ」など、私たちの生活に直結する学びが多くありました。歯科保健を通じた感染対策は、今後ますます重要になると感じます。子どもたちの健康を守るために、私たち大人ができること――それは、お口の中から始まる“見えない感染”を知り、正しく対策することなのかもしれません。最後に、貴重なご講演をいただきました廣瀬弥奈先生に心より感謝申し上げます。先生の研究と熱意は、私たちの子どもの口腔保健活動に大きな示唆と希望を与えてくださいました。今後のご活躍を一同、心より応援申し上げます。 (報告:広報部 松岡)