【第103回会員研修会 開催報告】
令和6年12月7日(土)に札幌市中央区のカタオカビル5階カンファレンスルームにおいて北海道子供の歯を守る会第103回会員研修会が開催されました。今回の研修会は北海道大学大学院歯学研究院・微生物学教室教授の長谷部 晃先生をお招きし、「最近注目の常在菌叢と全身の健康の関係について」と題してご講演いただきました。
長谷部先生は1996年北海道大学歯学部を卒業後、2003年米国ユタ大学留学、2007年同大学大学院歯学研究院・口腔分子微生物学教室助教を経て、2020年同大学大学院歯学研究院・微生物学教室教授にご就任されています。先生はこれまで一貫して細菌学に関する研究・教育に従事され、口腔内細菌や腸内細菌と疾患の関わりなどについて多くの研究を行っています。今回は最近注目されてきている腸内・口腔内常在菌と全身の健康の関係性について最新の知見を交えて解説いただきました。
講演 「最近注目の常在菌叢と全身の健康の関係について」
講師 北海道大学大学院歯学研究院・微生物学教室
教授 長谷部 晃 先生
(講演要旨)
人間における常在菌数は40~100兆個くらいあり、このうち、口腔は100~1,000億個、小腸1兆個、大腸は40兆個くらいとされています。常在菌がいることのメリットは①外来病原菌の侵入・定着を防ぐ。②生体の免疫系を賦活化し、感染防御力を高める。③宿主が消化できない成分の消化・分解・ビタミン合成を腸内細菌が行う。などがあり、デメリットとしては①易感染性宿主では感染を引き起こすことがある。②抗菌薬の長期投与で菌交代症を引き起こすことがある。などが挙げられます。
腸内細菌と肥満の関係について、C minuca、A muciniphila等が関係していると報告されていますが、日本人では持っている人は少ないとされています。日本人にもみられるBlautia属菌が多いと内臓脂肪が少ないという報告もあります。また、自閉症と腸内細菌の関係ではLactobacillas reuteri(ロイテリ菌)が注目されています。さらに腸内細菌と運動能力の関係をみると一流アスリートではベイロネラ属菌が注目されています。この菌は乳酸を代謝してプロピオン酸を産生する能力があり、そのプロピオン酸がアスリートの運動能力を向上させると言われています。
当研究室と北大小児歯科の共同研究において健常児と自閉症児の腸内細菌と口腔内細菌を比較すると、その細菌叢に明らかな違いがあることがわかりました。その違いが原因を示すものなのか、結果を示すものなのかは今後の研究が待たれるところです。
また口腔内細菌とがんの関係についてみると歯周病菌の一つであるフソバクテリウムと大腸がん・食道がん・舌がん・子宮内膜症との関係が疑われています。また膵臓がんと口腔内細菌・腸内細菌の関係についても研究が進められています。さらにう蝕原因菌であるS.mutans菌の一部が脳出血と関係している可能性や歯周病菌であるP gingivalisがアルツハイマー型認知症に関与している可能性も報告されています。
最後に常在菌叢は変えることができるのか?についてですが、①抗菌薬を使用した場合、すぐに変わりますが服用をを止めるとすぐに戻ります。また長期服用で菌交代症が生じます。②食生活の改善では高脂肪食ではすぐに変わり、逆に低脂肪食の長期摂取は長寿の日本人に似た細菌叢になると言われています。③プロバイオティクス、例えば乳酸菌製剤を服用しても常在菌叢を大きく変えることはないと言われています。④逆にプレバイオティクス、例えば食物繊維や発酵食品の摂取は常在菌叢を変える可能性があるとされています。
以上、結論としましては口腔内細菌や腸内細菌は様々な面で種々の疾患と密接に関係していることが明らかになってきています。その意味からも口腔衛生の管理は全身の健康の維持や増進にとても重要であるということができます。 (報告:広報部 丹下)