【第101回会員研修会 開催報告】
令和6年2月24日(土)に北海道建設会館において北海道子供の歯を守る会第101回会員研修会が開催されました。今回の研修会は北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学講座 予防歯科学教室教授の岩崎正則先生をお招きし、「オーラルフレイルをライフコースの観点から考える」と題してご講演いただきました。
岩崎先生は2006年北海道大学歯学部を卒業後、ミシガン大学留学を経て、2010年に新潟大学大学院医歯学総合研究科(口腔生命科学専攻)博士課程を修了されています。その後は新潟大学医歯学総合病院医員・助教、九州歯科大学准教授、東京都健康長寿医療センター研究所専門副部長・研究副部を歴任され、2023年4月に北海道大学大学院歯学研究院教授にご就任されています。先生はこれまで様々な教育研究機関で予防歯科学、口腔衛生学、疫学に関する教育・研究に従事され、新潟大学に在籍されていた時はフッ化物洗口の普及にも深く関わられました。今回は少子高齢化社会の進展に伴いその重要性が増しているオーラルフレイルについて簡明に解説いただきました。
講演 「オーラルフレイルをライフコースの観点から考える」
講師 北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学講座
予防歯科学教室教授 岩崎 正則 先生
(講演要旨)
8020運動は最も成功した国民運動であり、高齢者の一人平均現在歯数は増加してきている。その成功を土台として老年歯科医学会を中心として、次は歯を残すと言う形態の事だけではなく「口の機能の維持」にも関与して行こうという機運が高まり、2015年「オーラルフレイル」を新たな国民運動として展開させてゆく事が日本歯科医師会定例記者会見にて発表されました。
国際歯科連盟(FDI)、世界保健機関(WHO)も高齢者の口腔保健対策の中での口腔機能の重要性を認識しプロモーションを進めるなか、千葉県柏市における高齢者の大規模健康調査(柏スタディ)や日本政府の骨太の方針にもオーラルフレイルが取り上げられ世間に認知されるようになってきました。2022年日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会、日本老年歯科学会の合同ワーキンググループが発足しオーラルフレイルを理解・評価しやすくするため新たな指標「OF-5(Oral flailty 5-item Checklist)オーエフファイブ」が開発され、国民啓発推進のため今年4月1日に3学会合同ステートメントが発表されました。
オーラルフレイルの概念は「口の機能の健常な状態」と「口の機能低下」の間にある状態。口の機能低下の危険性が増加しているが改善も可能な状態とされます。OF-5は ①歯数減少 ②咀嚼困難感 ③嚥下困難感 ④口腔乾燥感 ⑤滑舌低下 の5項目のチェックを行い2個以上あてはまる場合にオーラルフレイルと判定されます(診断ではない)。評価が可能であればオーラルディアドコキネシス(「た」音を速く10秒間連続で発音させ1秒あたりの回数を測定)も行います。
東京都板橋区の65歳以上1,206名の高齢者に対してOF-5を用いた調査では36.7%がオーラルフレイルに該当しました。オーラルフレイルの男女差は見られませんでした。オーラルフレイルに該当した人の方が口腔機能低下症の有病率は高いことがわかりました。またオーラルフレイル該当者の半数以上に食品摂取多様性の低さ(DVS3点以下)を認めました。
柏スタディでの最大9年間の追跡調査ではオーラルフレイル該当者は身体的フレイル発症のリスク1.69倍、要介護になるリスク1.40倍、死亡リスク1.44倍との結果が出ています。OF-5は場所を選ばず実施可能なため、高齢者が自分の口腔機能の些細な衰えに早く気付き周りの人・専門職に積極的に相談するようになります。また医療・介護などの専門職がハイリスク者と早めに接点を持ち、健診の受診勧奨や通いの場の紹介が出来る等の活用が期待できます。
日本口腔衛生学会は「生涯28(歯)」の実現を目指すとの声明を採択していますが、「ある程度歯が残っている状態=8020」よりも「歯を全く失わない状態=生涯28」の方が望ましいとする根拠を考考えました。そのため高齢期にどの様に歯が失われてゆくのかを可視化しようと思い、新潟コホート研究におけるベースライン時70歳で20本以上の現在歯を有する者のデーターを対象として10年間の追跡調査を行いました。その結果、加齢による現在歯数の減少パターンは一様でなく、28本の歯をそのまま維持する群、22本の歯が減少していく群、前期2つの群の中間の軌跡をたどる群の3つの群に分れる事がわかりました。そして3群間に70歳の時点で存在する歯数格差が後期高齢者になる頃にはさらに拡大する事も解析でわかりました。
3群について生存率の解析を行なうと28本の歯を維持する群の生存率が最も高く、歯数が少なくなるにつれ生存率も低くなってゆく傾向が見て取れます。この様に70歳時点ですでに差ができていてそれが生命予後に影響している事がわかります。
小児〜若年〜成人〜高齢とライフコースで口腔機能の発育課程を観察してゆくと、小児・若年期における口腔機能の健康がその後の全身の成長発育に重要であると分かります。歯だけではなく全身の健康を含めて、より早期の時点での健康づくりやヘルスプロモーションが高齢期における健康の大きな差になってきます。小児・若年期の口腔の健康・機能の健全な成長と発達には齲蝕予防が基盤となるため、フッ化物応用によるエビデンスに基づいた小児・若年期の齲蝕予防は生涯に渡る健康につながると確信しています。
(報告:広報部 矢口)