パノラマ撮影の予備知識
パノラマ雲台の設計製作、パノラマ撮影、パノラマ合成で、これまで積み重ねてきた知識やノウハウを公開します。
パノラマ雲台の設計製作、パノラマ撮影、パノラマ合成で、これまで積み重ねてきた知識やノウハウを公開します。
全周撮影では、1枚のパノラマ写真の中に、明るい所、暗い所があります。すべてに露出を合わせることは不可能なので、
見せたい所に露出を合わせる
全体的に露出を合わせる
などの対応を行いますが、見せたい所と、見たい所は違う場合もあり、どこを見ても見やすい画像が求められます。特にストリートビューは地図や航空写真と連動したパノラマなので、地図や航空写真では良く見えない部分を見たい(何があるか見たい、何もないなら、ないことを確認したい)、という要望があります。
広いダイナミックレンジで撮影し、HDR処理(トーンマッピング)により、8bit*3色の画像に見やすく圧縮します。要求されるのは、忠実な表現でも、印象的な表現でもなく、白飛びや黒つぶれを押さえた、見やすい脚色です。
撮影手法よりも、HDR処理による脚色が重要、と感じています。
単純にダイナミックレンジを圧縮すると、コントラストが低い、眠い画像になります。HDR処理では、トーンマッピングにより、局所コントラストを維持しながら画像全体のダイナミックレンジを圧縮します。あまり不自然にならない程度に、彩度やコントラストを上げることで、くっきりと見やすい脚色を行います。
古典的なパノラマ撮影手法です。
広いダイナミックレンジが得られ、明暗差の大きな室内での撮影に向いています。
単純計算のダイナミックレンジは、
2EVで3枚なら、Jpeg=8bit、2EV*2=2bit*2、より、8+2*2=12bit
2EVで5枚なら、Jpeg=8bit、2EV*4=2bit*4、より、8+2*4=14bit
Jpeg撮影で、カメラのダイナミックレンジ拡張機能を使用すれば、さらに拡大できます。カメラのダイナミックレンジ拡張機能では、画角内の被写体や構図で処理内容が変化する(最適化される)可能性があり、パノラマ合成で不自然な接続にならないか、気になる所です。
Jpeg撮影からのHRD合成の場合、倍率色収差が気になる場合があります。ストリートビュー上のパノラマを拡大して見ると、大きな倍率色収差が残ったパノラマ画像も多いようです。HRD合成時に、鮮やかな領域が優先して採用されることで、色収差が強調される可能性があります。
風に揺れる草木、寄せる波、移動する人や車などがあると、合成ブレになり、屋外では不便です。高解像度のパノラマでは、HRD合成により解像度が低下する感じがします。
RAWデータ1枚からのHDR現像も、カメラのダイナミックレンジが改善され、RAW現像ソフトが進歩したことで、パノラマ撮影用として実用的なダイナミックレンジが得られるようになりました。
露出ブラケット撮影よりも、短時間に簡単に撮影でき、撮影ミスも少なく、屋外での高解像度パノラマに向いています。
ダイナミックレンジの広いカメラの選定も重要になります。Best Cameras for Landscape (dxomark.com) などを見ると、APS-C機よりもフルサイズ機が有利で、
14bitRAWのフルサイズ機で、ダイナミックレンジは14bit前後
この値だけ見ると、2EVで5枚ブラケット撮影と同等ですが、ブラケット撮影のjpeg画像はノイズに余裕のある範囲から切り出した8bitなので、RAW1枚ではノイズの点で原理的に不利になります。室内撮影では、窓の外が非常に明るい場合など、RAW1枚で対応が困難なシーンもあります。あきらめるか、露出を変更して追加で撮影することになります。
それでも、RAW現像ソフトの進歩の恩恵は大きく、彩度やコントラストなどのパラメータ調整により、不自然にならない程度の、くっきりと見やすい脚色を加えやすく(ブラケット撮影+HDR合成よりも調整しやすく)なりました。倍率色収差も、きれいに補正できます。
(参考)
RAW現像ソフトには、CaptureOne(Sony用の無料版)を使用し、パラメータを試行錯誤中です。最近の設定は、
基本特性.カーブ=Film High Contrast
露出.コントラスト=10
露出.彩度=30
ハイダイナミックレンジ.ハイライト=-100
ハイダイナミックレンジ.シャドウ=100
クラリティ.方法=パンチ
クラリティ.クラリティ―=20
クラリティ.ストラクチャ=10
1ピクセルの合わせズレを気にする場合、パノラマ合成ソフト上で、レンズの歪曲を正しく補正する必要があります。
パノラマ合成ソフトでの歪曲補正には、いくつかの前提条件があり、パノラマ合成ソフトで正しく扱えるようなJpeg画像を用意することで、正確な補正が可能になります。
パノラマ合成ソフトでは、歪曲を直接検出することはできないので、コントロールポイントの誤差が最小になるように、歪曲の係数を最適化します。
最適化(歪曲補正)の前提として、
レンズは回転対称に設計されるため、歪曲も回転対称になっている(非回転対称の歪曲は補正できない)
2次、3次、4次の歪と、歪曲の中心座標=レンズ中心(光軸)座標を最適化する
1つのパノラマ内で、同じレンズで撮影した画像は、同じ歪曲パラメータ(歪、歪曲の中心座標)を持つ
歪曲を補正する場合、画像内のコントロールポイントが、画像全体に分散しているほうが正確に計算できます。歪曲の大きなレンズでは、オーバーラップ領域が大きくなるように(広い範囲でコントロールポイントを抽出できるように)撮影段数や1周の撮影枚数を決定するとステッチが容易になります。(魚眼レンズは大きなオーバーラップが必要)
(補足)
パノラマ合成ソフトを使用することで、歪曲の大きなレンズでも、正確なパノラマ合成が可能ですが、実際に撮影/合成を行うと、歪曲の小さな広角レンズは、パノラマ合成が容易で、最適化の誤差数値を小さくしやすい感じがします。レンズの組み立て誤差により、非同心円の歪曲が若干あり、歪曲が小さいレンズでは、その影響が小さいため、と推測しています。
撮像素子の中心と、レンズ中心(光軸)にはズレがあり、歪曲は、レンズ中心(光軸)を中心とした回転対称になっています。
歪曲を正確に補正するためには、歪曲の係数と一緒に、歪曲の中心座標=レンズ中心座標も、最適化する必要があります。
ズレが大きくても、固定値のズレであれば、最適化できます。
1つのパノラマ内の画像で、ズレが異なる場合には、最適化での誤差が発生します。
撮像素子上のレンズ中心座標のズレには、
カメラ設計上の、撮像素子のオフセット
一眼レフでは、ミラー機構やAF機構のスペースのため、撮像素子を上下にずらして設計する場合があるようです。
(補足)
固定値のズレなので、パノラマ合成での最適化は問題ありませんが、かなり大きい(0.5mm以上)場合、NPP調整に影響します。パノラマ合成してみないと判断できないため、カメラの新規選定では、ミラーレスカメラのほうが無難な感じがします。
手振れ補正による、撮像素子や像の移動
カメラの撮像素子の組付け誤差
レンズの組み立て誤差
重力等による、レンズのたわみ
数値を確認していませんが、カメラの向きを上下に回すと、重力でレンズ鏡胴が変形し、像が移動する可能性があります。高倍率ズームレンズでは、不利になる可能性があります。
マウントの遊び
カメラを固定してレンズに力をかけると、マウントの遊びでレンズがスライドします。個体差もありますが、0.2mm程度(30~50ピクセル相当)動くレンズもあるようです。
などの要因があります。パノラマ合成ソフトでの最適化結果を見ると、ミラーレスカメラでは、10~50ピクセル程度(0.04~0.3mm程度に相当)のズレが発生する場合が多いようです。
(補足)
NPP調整が必要なパノラマ雲台では、カメラを真下に向けて、回転軸が画像の中心になるように、カメラの固定を調整しますが、画像の中心とレンズ光軸のズレが10~50ピクセル程度(0.04~0.3mm程度に相当)あることを考慮する必要があります。
西ノ沢工房の雲台では、レンズ光軸に合わせて設計製作しているため、画像の中心から少しズレがあります。
カメラ内での歪曲補正や、RAW現像での歪曲補正は、補正パラメータが少なく、レンズ中心座標のズレは考慮していないようです。カメラ内やRAW現像で歪曲補正を行うと、レンズ中心座標のズレが原因で、回転対称ではない歪曲が発生してしまいます。回転対称ではない歪曲が含まれると、パノラマ合成ソフトでも補正できなくなるため、カメラ内やRAW現像での歪曲補正をOFFします。
カメラ内手振れ補正は撮像素子を移動させて、レンズ内手振れ補正は撮像素子上の像を移動させて、手振れ補正を実現しています。撮影画像上のレンズ中心座標を固定するため、手振れ補正をOFFします。
(補足)
カメラ内手振れ補正をOFFしても、ときどき合わせ誤差が大きくなるカメラもありました。確認のため、三脚に固定して、有線リモコンや2秒タイマーで、同じショットを何枚も撮影すると、10~20枚に一枚程度、少しシフトされた画像になるため、手振れ補正をOFFしても、ときどき、撮像素子が移動していると判断しました。手振れ補正をOFFしたときの動作は、仕様として公開されていないため、実際に撮影してみないと判別できません。カメラの新規選定では、カメラ内手振れ補正なし、が無難ですが、選択肢が狭くなるのは悩ましいです。
レンズ内手振れ補正は、使用経験が少ないのですが、今の所、OFFで運用すれば問題を感じていません。
同じレンズで撮影した画像は、同じレンズ中心座標を持つという前提で最適化を行うため、マウントの遊びにより、撮影途中で歪曲中心座標が変化すると、うまく最適化できず、合わせ誤差になります。
カメラを雲台に固定した場合、撮影途中でレンズに力をかけない(触らない)
レンズ台座を雲台に固定した場合、撮影途中でカメラに力をかけない(触らない)
カメラを持って雲台を回したり、手でシャッターを押すと、不利になります。マウントの遊びの大きさや、固さにも依存しますが、経験上は、大きな力がかからないように注意すれば問題なさそうです。
マウントアダブターを使用すると、マウントの遊びが2重になるため、特に注意して撮影する
カメラ出力のJpg画像では、画像内部データの向きは同じで、Exifデータに含まれる向きデータ(0度、90度、180度、270度)で画像の向きを指定するため、パノラマ合成ソフトはExif情報も読み取って正しく最適化できます。
RAW現像ソフトでは、RAWデータ内のExifデータに含まれる向きデータを読み取って、画像内部データを回転させたJpg画像を作成する場合が多いようです。
Hugin(パノラマ合成ソフト)では、画像内部データの縦/横が異なる画像は、異なるレンズで撮影した画像として認識します。同じレンズとして処理できるように、カメラの向きによらず、同じ向きに統一してRAW現像を行います。
また、縦/横が統一されていても、180度回転した画像が混ざると、ステッチズレになります。Huginでは、同じレンズで撮影した画像には、歪曲の係数とレンズ中心座標も、同じ値を適用します。180度回転した画像は、レンズ中心座標も180度回転しますが、回転していない画像と同じレンズ中心座標を適用して計算することが、誤差発生の原因です。
画像の向きは、RAW現像での編集時に変更できますが、真上、真下、三脚消し画像、三脚影消し画像では180度回転に注意が必要です。
真上や真下に向けて撮影すると、誤った向きデータ(0度、90度、180度、270度)がRAWのExifに記録される場合がある
真上や真下に向けて撮影した画像を見ても、向き(0度、90度、180度、270度)を判断しにくい
RAW現像前に、RAWファイルのExifデータの回転情報を書き換えて統一しておくと安心です。
(補足)
底面合成で、3ピクセル程度の合わせズレが発生し、コントロールポイントを追加しても改善しない場合がありました。三脚下の画像が180度回転していたことが原因で、正しい向きに修正してRAW現像し、きちんと合うようになりました。
屋外晴天でのパノラマ撮影は、太陽が画角内に入るため、ゴーストやフレアが問題になります。小さなゴーストは、発生する位置によっては、パノラマ合成時にマスク処理で消去できますが、消去を意識して撮影するのは難しい感じです。太陽付近を1枚追加で撮影すれば、ある程度対応できそうに思えるのですが、太陽の角度の影響が大きく、成功していません。
パノラマは、F8程度に絞って撮影するため、逆光には、前玉が小さいレンズが有利と思われます。前玉が小さければ、原理的に、レンズに入射する直射日光が少なくなり、レンズ内で反射しながら撮像素子へ到達する光も少なくなるはずです。小口径レンズなら、収差の補正も楽になり、レンズ枚数の削減により、レンズ内での反射も軽減できそうです。小型軽量のレンズなら、機材を軽量化でき、パノラマ撮影精度の点でも有利です。
パノラマ撮影には、大口径レンズは必要ありませんが、実際には、反射防止コートの影響が大きく、高価な(大口径の)レンズのほうがゴーストが小さい場合も多いようです。
通常撮影での逆光サンプルからは、パノラマへの影響を判断しにくいため、実際に撮影して確認する必要があり、レンズ選定は難しい問題です。実績のあるレンズを選ぶのが無難、になります。
ゴーストの例
α7+11mmF2.8 → https://goo.gl/maps/pVz5iBxUnhouCGpTA
α7+18mmF2.8 → https://goo.gl/maps/37WGTDDp31TnGAFF6
α7+20mmF1.8 →
α7R+21mmF3.5 → https://goo.gl/maps/gCzP3pTmWJKth8M96
α7+28mmF2 →
20mmF8くらいで、解像度と逆光耐性に特化した小型レンズを開発してほしいところです。F8では完全なパンフォーカスにならないため、近くなど少しボケた所が、絞りによりガサついた感じになりやすいのですが、F8が解放なら問題ありません。F10くらいに絞って、きれいな光芒が出るような絞り枚数/形状なら、さらに便利に使えます。