計算幾何学

Computational Geometry

Hiroshi FUKUDA

(Since 1994)

I. 一般化ゴスパー曲線

Generalized Gosper space filling curves

下の図形はゴスパーの怪物曲線を一般化して,発見した13本の線分から成る一般化ゴスパー曲線のジェネレーターです。13本の線分の1本1本を13本の線分全体を1/13に縮小したものに置き換える操作を繰り返すと,平面をべったり敷き詰めるフラクタル次元2の一般化ゴスパー曲線が得られます。図形の上でマウスをクリックすると再帰が進み,右クリックすると戻ります。我々は,このような一般化ゴスパー曲線が無数に存在することを示しました。

一般化ゴスパー曲線は,黒丸から白丸へ至る折れ線で,その折れ線は 1) 途中で交差しない一筆書きで, 2) 線分を辺とする三角格子の全頂点を通る という性質を持っています。 この美しい性質が怪物曲線と呼ばれる所以ですが,美しいばかりでなく文献6では平面アンテナに,文献7-8ではセンサーなどへの応用も試みられています。

ジェネレーターの線分の本数を次数と呼びます。次数7がゴスパーの怪物曲線です。文献4に次数37までの全ての図が掲載されています。文献9は,それらに基づくMathematicaによるグラフィックスプログラムです。

文献10はケンブリッジ大学博士論文で,単に,ゴスパー曲線を説明するために引用されています。 

未解決問題

一般化ゴスパー曲線の次数はn=6k+1, k=1,2,3,...に限られるという予想。

参考文献

II. ポリオミノとポリイアモンドのアイソヘドラルタイリング 

Isohedral tilings of polyominoes and polyiamonds

パータイルとタイリング

平面上の閉じた領域をタイル,タイルを隙間も重なりもなく並べることをタイリングといいます。図II.1に示すタイルは,そのタイルと同じ形の小さなタイルをタイリングして作られています。このようなタイルをパータイル(完全タイル)といいます。

図II.1

パータイルは,それをタイリングすればより大きなパータイルを作ることができます。そして,この操作は何回でも繰り返すことができます。したがって,パータイルを構成するタイルは,このように,平面全体をタイリングすることができます。リンク先の図は図II.1(a)のパータイルによる平面のタイリングです。

タイリングの対称性

タイリングは対称性を持つ場合があります。対称性とは,図形の形を変えない操作,合同変換に対する不変性です。例えば,正三角形は120度回転という合同変換に対して不変なので,120度回転に対する対称性をもつといいます。平面図形に対する合同変換は,平行移動,回転,鏡映とその組み合わせです。

もっとも規則的な対称性をもつタイリングをアイソヘドラルタイリングといいます。アイソヘドラルタイリングの数学的定義は,任意の2つのタイルをタイリングを不変にする合同変換によって重ね合わせることができるタイリングです。アイソヘドラルタイリングは,2方向の平行移動に対して不変であることが知られています。

2方向の平行移動に対して不変な図形のもつ対称性は,結晶構造の理論で詳しく調べられており,p1, p2, pm, pg, pmm, pgg, pmg, cm, cmm, p4, p4g, p4m, p3, p31m, p3m1, p6, p6m と記される17通りの対称性の何れかになることが知られています。この17通りの対称性を表す記号は,含まれる対称性を表しています。pはprimitiveの頭文字で,必ず含まれる平行移動の対称性,mはmirrorの頭文字で鏡映対称性,gはglideの頭文字で,鏡映してから平行移動する映進(glide)対称性,数字は回転角2π/数字の回転対称性を表します。

ポリオミノによるpgパータイリング

図II.2に示す図形は,正方形を辺で接合した図形で,ポリオミノと呼ばれます。ポリオミノは,構成要素の正方形の数を示す場合には,正方形の数をnとしてn-オミノともいいます。図II.2のポリオミノはそれぞれ9個の正方形で構成されるので,9-オミノです。同じように,正三角形を辺で接合してできる形はポリイアモンドといい,ポリイアモンドを構成する正三角形の数nをしとを示す場合は,n-イアモンドと言います。

図II.2

図II.1は,我々のおこなった,ポリオミノによるpgアイソヘドラルタイリングの研究を応用して,作成したpgパータイリング図形です。図II.2の9-オミノは,それぞれpg対称性をもつアイソヘドラルタイリングが可能で,図II.1の完全タイルは,図II.2の9-オミノを構成する9つの正方形を1/9に縮小した9-オミノで置換するという再帰的操作を繰り返して得られます。ポリオミノを構成する正方形がポリオミノに置換されるので,この方法で収束する図形はパータイルです。このパータイルを拡大したタイリングは,元のタイリングの対称性pgを持つ,いわばpgパータイリングです。これは,図II.1左のパータイルを拡大したpgパータイリングです。詳しくは文献1と7参照。

参考文献

III. 万能マス 

Universal measuring devices without gradations

六合マスは,図III.1のように直線上にない3頂点で水面を決めることで,1, 3 ,6合のお酒を正確に測ることができます。図III.1左が6合,中央が3合,右が1号のお酒を測っているところです。

図III.1

さらに,次のようにお酒をこぼすことで,1合から6合までの酒を酒樽からお客の容器に測り入れることができます。

これを,一般化して,目盛りのないマスで次のように酒を測る事ができます。 「酒樽で酒をすくい,マスの直線上にない3頂点で水面を決めて,お客の容器の上と,酒樽の上で交互に酒をこぼすことを繰り返す」 

底面が三角形の万能マス

図III.2のような,底面が三角形,高さが h1, h2, h3 の側面をもつマスを考えます。

図III.2

 (1) このマスで,直線上にない3頂点で水面を決めることで,7通り,

h1, h2, h3, h1+h2, h2+h3, h3+h1, h1+h2+h3

合のお酒を測ることができます(底面の面積は3とする)。

 (2) そして,上の測り方で1合からn合まで酒が測れる時,最大のnは41で,そのマスは,

(h1, h2, h3)=(12,13,16)

です。つまり41合マスです。 

未解決問題

マスの底面が長方形の場合, (1) 直線上にない3頂点で水面を決めることで,13通りの量のお酒を測ることができます。 (2) 計算機探索で見つかった最大のnは858で,そのマスは,底面を周回する順に頂点の高さが(h1, h2, h3, h4)=(130,132,156,169)です。しかし,これ以上大きなnがあるかどうか解っていません。 

参考文献

IV. 超立方体と超正多面体

Hyper-cube and regular polytope

高次元の多面体(polytope)を見る方法には3通りあります。障子に映る影のように射影を見るか,切断して切断面を見るか,展開して展開図を見るかです。 図IV.1は立方体(cube)を平面に射影した図,図IV.2は切断面,図IV.3は展開図です。切断面は3,4,5,6角形の4通り,展開図は11通りあります。

図IV.1

図IV.2

図IV.3

論文4では,図IV.4のような4次元の超立方体(hyper-cube)の3次元展開図が261通りあることを数え上げ,その全ての図を掲載しています。

図IV.4

論文5では,図IV.5のような5次元の立方体の4次元切断面が484通りあることを数え上げ,その全ての図を掲載しています。なお,4次元の立方体の3次元切断面は61通りで,その全ての図も掲載されています。

図IV.5

参考文献