連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<5>生物学編』を転載します。

2018.12.26.b

以下は今日の弘学研 @gugakuken (Twitterアカウント)からの連続ツイートです(2018年12月26日)。

(前回分は 2018.12.26.a 連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<4>地球科学編』を転載します。 です。)


では今から本日2本目、『21世紀の科学革命のアイデア』第5弾 生物学編の連続ツイートを始めます。生物学の科学革命のテーマは『エコロジーと進化』、パラダイムシフトは『利己から利他へ』の転換です。今回の研究内容も初めての発信となります。では行きましょう。

さて、生物学の科学革命ですが、生物学における既存の大きなパラダイムとしてはダーウィンの進化論があります。ダーウィンの進化論、すなわち「自然選択」とは、生存競争の下で環境に適応した生物が子孫を多く残すという過程を繰り返すことで新しい種が出現する、というものです。

ダーウィンの進化論は進化の歴史という時間軸、縦の繋がりを意識したことで生まれました。そこではライエルの『地質学原理』の小さな変化の蓄積という考えが参考にされました。また、ダーウィンはマルサスの『人口論』を基に、生物が限られた食糧を奪い合うという生存競争が起こると考えました。

しかし、このダーウィンの「自然選択」というパラダイムでは、生命の進化で欠かすことのできない『創発』の過程を説明できていないことが指摘されています。進化の過程で『創発』がどう起こるかという問題の解明がダーウィンの進化論に代わる新しい生物学のパラダイムには必要とされるのです。

また、ダーウィンの進化論の生存競争・適者生存という考え方は利己主義に陥ります。このことはドーキンスの『利己的な遺伝子』という表現にもよく表れています。遺伝子は常に自らを保存するように、利己的に行動するというのです。利他的に見える行動も実は利己的な行動だとドーキンスは言います。

ダーウィンの進化論が利己主義を生じた第一の理由は、それが客観主義と要素還元主義によって個を分断したからです。個と他の個との関係性を無視して論を進めると、必然的に利己主義に陥ります。この客観主義的・要素還元主義的な考えはワトソンとクリックの二重らせんの発見で更に強化されました。

ダーウィンの進化論が利己主義に陥る第二の理由は、歴史を遡る思考法を採用したことです。あるいは結果だけを見て原因を考えるという思考法だったとも言えます。これによって決定論的な考えに陥ります。決定論的な考えは、合理主義に通じることで、利己主義的な考えに陥っていくのです。

最近は人間の倫理を進化論で説明しようという試みがあるそうです。しかし、既存の進化論のような客観主義・要素還元主義・決定論に還元する方法では、そこから導かれる倫理が利己主義に陥るのは避けられません。むしろ逆に、人間の倫理をヒントに生命の進化を捉え直す統合的アプローチが必要です。

何よりもまず、既存の進化論の客観主義・要素還元主義・決定論では『創発』を説明できません。生命の進化という『創発』現象を説明するには、主体性・関係創発・選択論といった考え方が必要になります。選択論を行使する主体と他との関係性を考えることで、『創発』も説明できるようになるのです。

『創発』とは関係性によるもの、『関係創発』なのです。それは生命の進化という創発現象においても同様です。そして、この『関係創発』という考え、選択論を行使する主体と他の主体との関係性の構築という考えを採用すると、そこから『利他』を導くことができます。生命の進化は『利他』なのです。


生物同士の関係性を考える時、生物学における新しいパラダイムと言われる『エコロジー(生態系)』の重要性も見えてきます。『エコロジー』の考えはまだ前パラダイム状態と言った方が適切です。それでも、そこでは生物同士の横の繋がりが意識されています。これが新パラダイムとなり得る理由です。

ある生物が別の生物を食べるのは「利己的」でしょうか?しかし、それが可能なのはこれらの生物同士が共通する物質・物質系から成るからです。食べられた生物は死にますが、一方で、食べた生物の中で関係創発して、新たな命として生きていきます。死は生と生とを繋ぐもの、関係性としてあるのです。

生物同士が互いに共有する物質・物質系。生と生とを繋ぐ死。このようなより大きな枠組みで捉えれば、生物同士は皆、繋がっています。この繋がりを『利他的』と呼ぶことは可能なのではないでしょうか。例えば、謎が多いジャンクDNAもこのような生態系の中での役割を持っているのかもしれません。

例によって『各々の学問分野の個性は何か?』と弘学者の私が問うと、その答えは他の自然科学の分野が人間から見て『他物』を対象とするのに対して、生物学は生命という人間自身、『自分』を対象とする学問であるというものです。生物学という学問の個性は『自分』、対概念は『他物』となります。

しかし、『自分』と『他物』とは実は繋がっています。その関係性が重要です。「利己」では他者と関係を構築できず、孤立します。『利他』なら他者と関係を構築し、系を創発できます。つまり、生物学の学問の個性である『自分』と、対概念の『他物』を止揚するのは、『利己から利他へ』の転換です。

利己主義を克服する第一の方法は、主体による関係創発という発想です。互いに選択論を行使する主体同士は、両者の間で利他的な関係を構築することで、より大きな系を創発し、高次の選択論を実現できるようになります。逆に、利己的に振る舞う主体は他の主体と系を創発することができません。

利己主義を乗り越える第二の方法は、歴史発展の方向に従う思考法です。あるいは現在から未来を想像する思考法とも言えます。歴史発展、時間発展の方向では選択論による関係創発が進んでいくので、この方向で考えると自然に選択論や関係創発の世界観を獲得し、利他的な考えを持つことができます。

つまり、こうです。利己的に振る舞う生体物質や個体は他の生体物質や個体と系を関係創発できず、高次の選択論を実現できないため、環境に適応できず淘汰される。利他を実践する生体物質や個体は他の生体物質や個体と系を関係創発し、高次の選択論を実現できるので、環境に適応して進化を続ける。

実際、社会学の分野でも『集団淘汰原理』という考えがあります。集団淘汰原理とは、利己的な個が蔓延した集団は集団ごと淘汰される、というものです。集団淘汰原理は利他が利己よりも有効であることを示しています。生物学の進化の研究でもこの社会学の知見を活かすことができるはずです。


さて、次は生命の進化を理論的に説明してみましょう。生命の進化も『創発』現象ですから、物質系の化学の『創発』の一般的表現法を活用することができます。むしろ、生物学における『利他』や『利己』の概念を援用したことで物質系の化学の表現法の開発が進展したというのが実情です。

まず、物質系の化学における表現法『ダイアログラム』において、生体物質、個体、あるいは環境も含め、『要素』は正負根子や無(従来の理論で言えば量子)のレベルで関係選択する主体です。次に、要素同士の関係性は『矢印』で表現します。この主体同士の関係構造がどのようなものかが問題です。

図に示す様に、『利己的関係』とは、主体同士の関係性が、無関係(0)である場合か、一方的(1)である場合です。また、『利他的関係』とは、主体同士の関係性が、双方向的(2)である場合か、循環的(多)である場合となります。つまり、『ループ』(=系)を形成しているか否かが肝心です。

生体物質や生物(主体)は関係選択を通じて他の生体物質や生物も含む環境(これも主体)と利他的関係(ループ=系)を関係創発することで環境に適応する。これが生命の『進化』の新しい仮説、『関係進化 relational evolution』または『親化 ecolution』です。

『関係進化・親化』では、環境に適応した種が生き残るというダーウィンのアイデアは残しつつ、環境も含めた主体の関係選択としてこれを捉え直します。同時に、生存競争という考えは捨て、利他によって系を関係創発するという枠組みに置き換えます。これで進化を創発現象として扱うことができます。

さて、この『関係進化』の説明ではループする系を関係創発することが生存に有利となることを仮定していますが、この仮定の妥当性を考えてみましょう。つまり、ループする系を関係創発すること、もっと言えば、高次の選択論を実現することは個にとってどのようなメリットがあるのかを考えてみます。

生物の環境適応の能力として重要なものに『恒常性(ホメオスタシス)』があります。この『恒常性』をループする系は実現できます。恒常性とはフィードバック機構の一種で、『異なるインプットに対して同じアウトプットを実現する』ものと言えますが、この性質をループする系は獲得できるのです。

例えば、A、B、Cという3つの要素がループする系を形成している時、それぞれ異なるAへのインプットもBへのインプットも、内部のループを伝っていずれもCへのインプットへと変換し、同じCからのアウトプットとして反応することができます。これが、恒常性が生じる基本的なメカニズムです。

個の選択論とは『同じインプットに対して異なるアウトプットを実現できる』ものですが、系となった高次の選択論では上述の様に『異なるインプットに対して同じアウトプットを実現できる』という性質を獲得することになります。この性質が、系としての安定性、ひいては環境適応能力を担保します。


さて、この関係創発という視点で生物について考えると、さらに面白いことが分かります。それは遺伝子についてです。遺伝子に関する謎として、遺伝子配列を「情報」として見ると、生物が保有する「情報量」が非常に小さく見えるというものがあります。この謎も関係創発の発想で捉え直してみます。

関係創発という発想で考えると、本当は生体物質の関係性の中に豊かな『情報』があると言えます。あるいはそれは遺伝情報の『意味(論)』と言うべきでしょう。遺伝子は他の生体物質を含む環境との間で何重にも系を関係創発した上での関係性としての『意味』を含んだ『情報』を保有しているのです。

「遺伝子はなぜ重要か?」という問いの答えもこれで得心できます。遺伝子(DNA)は生体系(または生態系)の中で他の生体物質(または環境)との関係創発が最も進んだ『中心』にある生体物質だから重要なのです。要素還元主義ではこの関係性の中にある遺伝子という視点が欠落していました。

遺伝子は情報を担い、関係性としての意味を持っています。そして、この遺伝子を含む生物は進化を続け、ヒトという種を誕生させ、ついには言葉を創造しました。言葉は生体物質としての枠組みを超えた情報を担い、意味を持ちます。この言葉の存在がヒトと他の生物との大きな違いとなります。

「ヒトはなぜ特異か?」という問いの答えも納得できます。ヒトは言葉を獲得したことによって生態系の中で最も関係創発が進んだ『中心』にある生物種だから特異なのです。ヒトは他の生物種と物質的基盤を共有している一方で、言葉という物質を超えた情報・意味を持つ点で他の生物種と異なるのです。

私はドーキンスの「利己的な遺伝子」をもじって、『利他的な言葉』という言葉を提唱します。利他的、すなわち他者に通じる普遍性を持った言葉が生き残る、これが『利他的な言葉』の意味する所です。ドーキンスが示した「ミーム」という概念もこの『利他的な言葉』へと捉え直すべきです。

改めて言うと、倫理学や社会学を生物学に還元するのではありません。倫理学や社会学を参考にして生物学の側にこそ科学革命を起こす。これによって、『物質→生命→人間→言葉→社会』までの階層構造がシームレスに繋がります。これが『関係進化』の発想に基づき、歴史発展を辿る道筋となります。


ここで最後に、やはりクーンの『科学革命の構造』に基づき、生物学における変則事例に当たる問題を考えてみましょう。生物学の現代的なテーマの一つは上述のように『エコロジー』ですが、これについてもう少し掘り下げてみます。なぜ『エコロジー』は21世紀のテーマとなるのでしょうか。

生命の進化の過程では多様化と関係創発が進みます。すると、生態系という横の繋がり、中でも関係性を担う人間の役割が重要になっていきます。また、人間の寿命が延び、人々が多様化していく中、命も縦の繋がり以上に横の繋がりが大事になってきます。親と子も横に並んで共に生きる命となるのです。

生態系で横の繋がりが重要になっていくにつれて、人間と自然の調和と共存、すなわち『エコロジー』の発想が大切になってきます。この『エコロジー』を実現する中心概念が『利他』です。また、同時に社会では人間同士の調和と共存も重要な課題となっていくわけですが、ここでも『利他』が重要です。

そして、21世紀の今日、生物学の知見を応用した生命科学が発展してきています。ゲノム編集による遺伝子操作など、分子生物学や遺伝子工学といった分野が実用化しつつあります。遺伝子操作は『進化』の延長線上(「ポスト・ヒューマン」)とも言えますが、私たちはどこに向かうべきなのでしょう?

生命科学の実用化、『進化』の延長線上において、私たちはどこへ向かうべきか?この問いに対する答えは生物学の『エコロジー』というテーマの探究が与えてくれるかもしれません。『エコロジー』が導く『利他』が私たちの『関係進化・親化』の方向性を示してくれるのではないかと私は考えています。

例えば、遺伝子操作によって生まれる「デザイナー・ベビー」が本当に環境、特に他者に対し適応的となるかという問題の答えも『利他』という発想から得られるかもしれません。新しい人類を生み出す「ポスト・ヒューマン」のあるべき姿も『利他』を追求した先にあるのではないでしょうか。

生物学の『エコロジーと進化』というテーマは『利他』によって繋がっています。『利他』によって人類の『関係進化・親化』を導き、生態系や社会の『エコロジー』を実現することができるはずです。もちろん、これはまだ仮説の段階です。この理論を完成させ、実践に活かすのはこれからの課題です。

生命の進化の謎を解明し、人間と自然、人間同士の調和と共存を実現する扇の要は生物学です。生物学の科学革命のテーマ『エコロジーと進化』、パラダイムシフト『利己から利他へ』をご理会頂けたでしょうか。『関係進化・親化』もまだ仮説の段階です。理論構築と実践実証を共に進めていきましょう。

以上で、『21世紀の科学革命のアイデア』第5弾 生物学編の連続ツイートを終わります。科学にこそ革命が必要です。そこから全てが繋がっていくのです。私たちも共に繋がっていきましょう。それが #21世紀の科学革命 、 #弘学革命 です。貴方も一緒に繋がりましょう。


#21世紀の科学革命 のアイデアの発信、本日分はこれで終わりです。次回は脳科学の予定です。自然科学分野のアイデアの発信も残す所、最後となりました。次回もまた、アイデアとしてはまだまだ未熟なものです。ですけど弘学は全ての学問を愛しています。 #弘学革命


(次回分は 2019.01.30.a 連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<6>脳科学編(前編)』を転載します。 です。)