連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<3>化学編』を転載します。

2018.12.20

以下は今日の弘学研 @gugakuken (Twitterアカウント)からの連続ツイートです(2018年12月20日)。

(前回分は 2018.12.15 連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<2>天文学編』を転載します。 です。)


今日は今から『21世紀の科学革命のアイデア』第3弾 化学編の連続ツイートを始めます。化学の科学革命のテーマは『物質系』、パラダイムシフトは『還元から創発へ』の転換です。今回以降の分野の研究内容を発信するのはどれも初めてになります。特に今回は長くなるのでご了承ください。

化学の科学革命では研究対象が「物質」から『物質系 matter system』へと転換します。すなわち、従来の「物質の化学」から『物質系の化学』へと飛躍するのです。そこでまず、この化学という学問の、『物質の化学から物質系の化学へ』の飛躍の経緯や意義について考えてみます。

クーンの『科学革命の構造』を参考に化学の歴史を遡ってみると、近代化学を創始したドルトンの原子論の意義は、物質(化合物)は原子が結びついたものと仮定することによって、それまでは曖昧だった化合物と混合物とを峻別したことにあります。それ以降、化学は化合物を探究する学問となりました。

ドルトン以来、化学は化合物を探究し続けてきました。化合物の方が混合物よりも単純ですから、これは順当な発展でした。しかし、21世紀の今日ともなると、合成される化合物(物質)の数は年々急速に増大しています。これでは1つの物質を合成する研究の価値は相対的に下落していってしまいます。

そこで、21世紀に化学は研究対象を化合物・物質から混合物・物質系へと飛躍させるべきだと私は考えます。無論、物質(化合物)は無数に存在し得るので、物質の化学の探究が終わることはありません。ただ、今後の化学はそれに加えて物質系(混合物)の化学も追究するべきだと私は考えるのです。

物質系の化学の研究においては物質の化学で得られた知見も活かすことができるはずです。そして、物質系の化学は、複数の物質を一つの系として関係付けることによって、物質の化学を統合し、体系化する学問ともなると私は考えています。これによって物質の化学に新しい価値を与えることができます。

従来の化学は物質の化学であり、量子力学や熱力学といった「物理学を基礎とする化学」であったと思います。しかし、物質系の化学は『(物質の)化学を基礎とする化学』となるでしょう。それは同時に「要素への還元」から『関係による創発』への方向転換とも言えます。ベクトルが逆になるのです。

物質系の化学がテーマとすべきは『創発』です。創発現象の一般的表現法の確立とその実験的検証が21世紀の化学の役割の中でも最大のものです。生物学が対象とする生命も創発した物質系の一例ですが、創発現象を洞察するには一般的な物質系を扱う必要があり、これを担うのは化学であるべきです。

例によって『各々の学問分野の個性は何か?』と弘学者の私が問うと、その答えは他の自然科学の分野が『発見』の学問であるのに対して、化学の個性は『創造』の学問であるというものです。そして、『創造』と『発見』を止揚するのは、『発見』した対象自らによる『創造』、『創発』となるのです。

物質系の化学による創発現象の一般的表現法の確立は、他の自然科学の分野、さらに人文・社会科学に到るまで、あらゆる分野に広く波及するでしょう。また、化学が『創造』という個性の下に基礎と応用とが渾然一体となった学問である点はパラダイムシフトを経ても変わらないはずです。

したがって、物質系の化学もやがて実用化され、新たな産業革命を実現するでしょう。同時に、物質系は自己増殖能力を持つウイルスや病原菌と同等以上の危険性を持ち得るものとなるので、管理に注意が必要であり、物質系の化学の研究が悪用されないよう防ぐ必要もあることを予め言明しておきます。


それでは化学が物質系の化学へと飛躍する経緯と意義の説明も終わりましたので、次は物質系の化学の具体的な研究のアイデアを示します。まずは『物質系』という言葉の定義について説明しましょう。と言っても、物質系の定義は『創発』という現象の洞察に関わるので、まだ明らかではありません。

とりあえず論を進めます。既存の物質の化学の考え方を延長して物質系の化学の定義を示すと、以下の図1の通りになります。物質は、「元素」を1つだけか複数含むかでまず「単体」と「化合物」に分類され、そのような「純物質」を1つだけか複数含むかで「純物質」と「混合物」に分類されます。

ここから更に物質系の化学では、物質同士の関係性、『脈源』を集団内の少なくとも1つの物質が1つだけか複数含むかで「物質」と『物質系』に(『もの』を)分類する、とひとまず考えてみます。しかし、この概念的定義で『物質系』の『創発現象を示す』という操作的定義を導けるかはまだ不明です。

次に物質系の化学の研究対象のイメージを図2に示します。物質の化学は、物質という「要素」と、ある物質と別の物質の相互作用という、言わば「関係素」とが対象でした。これに対し、物質系の化学は複数の物質を含む集団内で成立する『要素間関係』と『関係素間関係』とを対象とします。

ここで物質系の化学の基本法則を考えてみましょう。それは次の5つで、従来の物質の化学の基礎法則と対応しています。

①脈源説(⇔原子説)

②物質無常の法則(⇔質量保存の法則)

③関係選択の法則(⇔定比例の法則)

④縁脈依存の法則(⇔倍数比例の法則)

⑤物質系モデル(⇔分子説)


上述の物質系の化学の基本法則の説明です。

①『脈源説』…物質は他の物質と関係性を持ち得る。

②『物質無常の法則』…物質は他の物質との関係性の中で変化し得る。

③『関係選択の法則』…同じ条件であっても、物質は異なる関係性を選択し得る。

(続く)

(続き)物質系の化学の基本法則の説明の続きです。

④『縁脈依存の法則』…置かれる状況によっても、物質が示す関係性は変化し得る。

⑤『物質系モデル』…物質はその関係性によって物質系を生じ得る。

説明を省きますが、物質系の化学の基本法則は物質の化学の基本法則と対照的になっています。


次に物質の化学の分野同士の関係を体系化し、それが物質系の化学においてどう飛躍するのかを示します。具体的には、構造・反応・性質・合成という『観点』の関係、理論・実験・計算・情報という『手法』の関係、原子・分子・分子集団といった『対象』の関係を図解し、どう転換するかを示します。

まず、物質の化学の分野である構造・反応・性質・合成という『観点』の関係は以下の図3で示されます。構造(空間)と反応(時間)とが対としてあり、構造から反応(相互作用も含む)が生じる過程を扱うのが性質の分野で、反応から構造が生じる過程を扱うのが合成の分野です。

上述の物質の化学の構造・反応・性質・合成の関係の「輪」は、物質系の化学では切り開かれてオープンエンドに『連鎖』し、以下の図4の様になります。物質系の化学では「構造」「反応」「性質」「合成」は『関係構造』『関係創発』『関係性質』『関係創成』という用語に置き換えました。

次に、物質の化学の分野である理論・実験・計算・情報という『手法』の関係は以下の図5で示されます。理論(モデル)と実験(事物)が対としてあり、理論から実験を導く過程が計算(シミュレーション)の分野で、実験から理論をフィードバックする過程が情報(データ)の分野です。

上述の物質の化学の理論・実験・計算・情報の関係の「輪」も、物質系の化学では切り開かれてオープンエンドに『連鎖』し、以下の図6の様になります。これは選択論の尊重によって事物が確率論的に自らの意志(情報)を創造する主体となり、決定論的な作用(計算)をさらなる対象に与えるものです。

最後に、物質の化学の分野である原子・分子・分子集団といった『対象』の関係は以下の図7で示されます。原子の階層は無機と有機など、分子の階層は低分子と高分子など、分子集団の階層は超分子や自己組織化、界面などに分類されていて、物質の化学では通常、これらの中から対象を一つに絞ります。

上述の様に物質の化学の原子・分子・分子集団の対象は個別に扱われていますが、物質系の化学では図8の様にこれらを全て統合して扱うことになります。無機も有機も、低分子も高分子も、超分子も自己組織化も界面も、それ以外の物質(集団)も、合わせて一つの物質系として扱うことが可能です。


さて、物質の化学の統合や体系化も物質系の化学の重要な課題ですが、今回は物質系の化学の最大の目標である『創発』の一般的表現法の確立に向けて、私の最新のアイデアを示したいと思います。私が物質系の化学の探究の過程で開発途中にある一連の表現法を以下で紹介しましょう。

私は物質系の化学で用いる一連の表現法をそれぞれ『心理値』『倫理式』『ダイアログラム』『縁義絵巻』と命名しています。これらを順に説明していきます。ちなみにこれらは未完成ですので、読者の方々もぜひ物質系の化学、創発の表現法の開発にご協力頂ければと思います。では説明を始めましょう。

第一に、『心理値』です。『心理値』とは、記号論理学で広く用いられる「真理値」を参考にしつつ、それに変更を加える形で私が着想したものです。真理値が「1・0」の二値で表されるのに対し、心理値は『+1・0・-1』の三値をベースに表します。すなわち、負の値も含む所が心理値の勘所です。

心理値を導入する目的の一つは物理学理論『正負根子モデル』から導かれる選択論を表現することです。正負根子モデルでは正根子と負根子という異符号の存在質量を有する2種類の粒子を仮定しますから、これら正と負の存在質量と、ゼロ=無とを合わせて、三値が必要になるわけです。

選択論は心理値で『0=(+1)+(-1)』と表します。この式は『無の状態か正根子と負根子が存在する状態かのいずれかを選択できる』ことを意味しています。「1・0」の二値の真理値ではこのような表現はできず、従来の物理学の「無から有は生まれない」という意味しか記述できません。

心理値の重要な性質のもう一つはその値を関係構造から定義するということです。後で具体例を示しますが、従来の論理学の真理値の意味論が「真・偽」と解釈されるのに対して、心理値の意味論は『信・疑』、つまり信頼関係(=調和)を表現しています。この信頼関係が関係構造から導かれるのです。

心理値は関係構造から導かれ、関係構造は究極的にはこの宇宙に無限に存在する正負根子や無の存在と運動を表しています。故に、拡張された心理値ではその値は整数だけでなく実数に範囲が広がることが予想されます。すなわち、心理値は三値論理とファジー論理を統一したようなものとなるのです。


第二に、『倫理式』です。『倫理式』は従来の記号論理学の「論理式」に相当しますが、『+1・0・-1』の三値、さらに実数まで拡張できる心理値を表現するための変更が必要になります。具体的には数学の四則演算を参考にしつつ、従来の「論理結合子」を『倫理結合子』と呼ぶものに変更します。

倫理式で主に用いる倫理結合子『+』『×』『÷』『-』の一覧を以下の図9に示します。『+』と『×』は「+1」と「0」の欄だけならそれぞれ既存の論理結合子の「∨」や「∧」と似ています。一方、『÷』と『-』はそれぞれ既存の論理結合子の「→」や「¬」と挙動が似ています。

倫理式と従来の論理学とで異なる点を示すと、『+』は2値の和なので絶対値が『2』まであり、『×』は積なので『-1』があると符号が反転します。『÷』は特殊で、「→」の前件に相当する後半部分が不存在の『0』だと単独では定義できません。『-』は正値と負値とを反転させる点が「¬」と異なります。

心理値と倫理式において重要なのは心理値が『0』となる場合で、この『0』は場合によっては『(対象が)存在しない』という『不存在』を表す一方、『(観測者にとって)状態が不確定である、すなわち、(対象が)状態を選択できる』という『選択論(確率論)』を表すこともあります。

心理値の役割は要素(個)の選択論を表現することです。また、倫理式の役割は、要素(個)の関係性を表現すると共に、後述の『ダイアログラム』で表現する全体構造の中から部分構造を取り出して表現することにあります。倫理式には心理値とダイアログラムを結び付ける役割があるというわけです。


第三は、『ダイアログラム』です。『ダイアログラム dialogram』は”dialogue”(対話)と”diagram”(図)を組み合わせた造語で、『対話の様な関係性を表現する図』を意味します。『絵話表現法』とも呼び、広義では心理値と倫理式も含めた表現法全体を指します。

『ダイアログラム』は一般に「ダイアグラム」と総称される表現法を基にしていますが、集団の関係構造と、要素(個)による選択論すなわち関係選択を表現するため、要素同士を向きがあり変化もする矢印で繋ぐ図とした点が新しいかもしれません。これは直観主義論理と様相論理の統一とも言えます。

ダイアログラムではある『要素』から別の『要素』へと伸びる矢印によってそれらの要素の間の『何か』の『何か』を表します。『要素』や『何か』が何を表すかは決まっていません。心理値や倫理式も含めて、ダイアログラムはあらゆる現象の一般的表現法を目標にしていますから、これは当然なのです。

しかし、ダイアログラムの元になったイメージはやはりあって、それは矢印が『利他』や『利己』を表すというものです。例えば、矢印がエネルギーの移動する過程を表すと考えると、エネルギーを与える側が利他、受け取る側が利己と考えることが可能です。信頼関係とは互いに利他で結びつく関係です。

とは言え、ここではダイアログラムの具体例として、物質系の化学の構造と反応について考えてみましょう。ダイアログラムの関係構造で重要なのは『分化点』と『統合点』です。これらは構造の『分解』と『結合』、反応の『分岐』と『合流』に相当し、前二者は『×』、後二者は『+』で表します。

構造の『分解』と『結合』、反応の『分岐』と『合流』をダイアログラムで表現すると、図10に示す通りになります。矢印の繋がり方にご注意ください。『分解』と『結合』では2本の矢印は繋がっており、『分岐』と『合流』では2本の矢印は独立しています。これらが『分化点』と『統合点』です。

『分解』は一つの物質が複数の物質に分かれるので、これらの物質の間の関係性は確定しており、決定論となります。一方、『結合』は複数の物質が一つの物質へと合わさるのですが、これは物質の量子状態が互いに合うか否か((反・)結合性軌道)に委ねられるので、不確定となり、確率論となります。

『分岐』は一つの物質が複数の物質のうちのどれかに変化するのですが、どれに変化するかはこの物質の量子状態に委ねられるので、不確定となり、確率論となります。一方、『合流』は複数の物質がどれも一つの物質に変化するので、この変化は確定しており、決定論となります。

構造の『分解』と『結合』、反応の『分岐』と『合流』、いずれの『分化点』と『統合点』も、どちらか一方が決定論となり、もう一方が確率論となる関係にあります。そして、これら両方が合わさると選択論となります。一般的に言うと、この『選択論が存在する』ことが『創発』の第一の必要条件です。


次に、『創発』の第二の必要条件を考えます。そこで従来の熱力学における「平衡状態」と「非平衡状態」という考え方に変更を加えて、新たに『秩序系』と『混沌系』という概念を定義します。『秩序系』は「非平衡状態」に、『混沌系』は「平衡状態」に相当しますが、これらを対称的に表現します。

『秩序系』は『エネルギー的に安定な系』、『混沌系』は『エントロピー的に起こりやすい系』と定義します。特に問題となるのはこれらが一致しない場合で、この場合には熱力学的には必ずいずれか一方の状態からもう一方の状態へ自発的に変化することになり、逆向きの変化は自発的には起こりません。

自発的には「秩序系→混沌系」か「混沌系→秩序系」かのいずれかの変化しか起こりません。ただし、これは孤立した系の場合です。他の系が存在し、それがこの系に作用する場合はこの限りではありません。つまり、他の物質集団を含む系、物質系ならば『秩序系⇔混沌系』という両矢印が成立し得ます。

従来の熱力学に戻って説明すると、ある孤立した系は必ず非平衡状態から平衡状態へと自発的に変化する一方であり、逆向きの変化は起こりませんが、この系に他の系の非平衡状態から平衡状態への自発的変化を作用させ、これらの変化を共役させると、元の系に逆向きの変化を起こさせることができます。

このようにして物質系は自らその部分系に『秩序系⇔混沌系』の両矢印を成立させているわけですが、この両矢印、すなわち『ループ』が成立することが決定的に重要です。というのは、『ループ』が成立すると、そこでは一方の状態からもう一方の状態へ向かう過程が繰り返されるからです。

物質系はその部分系で『ループ』を成立させ、反復試行を実現しますが、この反復試行によって確率的には起こりにくい現象も実現する可能性が高まるのです。確率的に起こりやすいことが繰り返されることを「保存」とするなら、確率的に起こりにくいことが実現すること、『変化』が起こるのです。

情報量という概念を使うと、「0、0、0、0、0、0、0、0、0、0」と続いていたのが、「0、0、0、0、0、0、0、0、0、1」となったとすれば、後者は前者よりもでたらめさ=不確定性=情報量が大きくなります。つまり、『変化』によって情報量が増大した(情報が創造された)のです。

情報量が増大するとは、観測者にとって不確定性が増大するということであり、これは対象である物質系の立場に立てば選択論が拡張されたことを意味します。言ってみれば、これはこの物質系に物質系としての統合された意志が芽生えたということです。これを『創発』と呼べるのではないでしょうか。

また、『ループ』が成立した物質系の部分系の内部では各物質から出た矢印は他の物質を巡って自らに戻ってきます。すなわち、自らの選択論で創造した情報が自らへと戻ってくるわけで、これらの物質同士は互いに情報の不確定性が排除されています。これも統合された意志の『創発』と言える理由です。

つまり、『創発』の第二の必要条件、あるいは十分条件とは『ループを形成する』ことです。物質系は、その部分系で『ループ』を形成し、反復試行を実現することで、内部としての確定性と外部に対する不確定性、すなわち物質系としての統合された選択論(意志)を示します。これが『創発』です。

なお、物質系の中に『ループを形成する』ためには関係構造の中に『分化点』と『統合点』が必要です。『分化点』と『統合点』のいずれか一方は決定論、もう一方は確率論ですから、この場合には『選択論が存在する』という第一の必要条件も満たしている(つまり、十分条件となる)ことになります。

ここで、序盤に示した物質系の定義、「集団内の少なくとも1つの物質が脈源を複数含む」にもやや修正が必要となります。『ループを形成する』ためには、確かにこの条件は必要ですが、十分ではありません。新たに物質系の概念的定義を示すと、『集団内に少なくとも1つのループを含む』となります。


さて、ダイアログラムをイメージしてもらうには言葉よりも実物で『絵説き』するのが一番です。私が最初に思い付いた『創発』の例を示します。ところで、第四の表現法『縁義絵巻』の定義は『創発を実現するダイアログラムのパターンを枚挙したもの』です。つまり、以下は『縁義絵巻』の第1例です。

私が『創発』の具体例を着想したのは科学革命というものについて考えていた時です。ニュートンなど科学革命を起こす者は有機的に繋がった中の、言わば「時代の星」としての位置にありますが、この理解と「科学革命は体制の中心ではなく周縁で起こる」という事実とがどう両立するのかが疑問でした。

『科学革命=創発』とすると、科学革命は体制の中心ではなく周縁で起こる。しかし、なぜ他との関係構造が最も密であるはずの中心ではなく周縁で科学革命が起こるのか。ヒントになったのは『変則事例』です。変則事例とは既存の理論の外部にある存在ですから、これを周縁が取り込むことが鍵です。

この『中心・周縁・外部の三者の関係構造の中で、周縁が外部を関係選択して創発を実現する』という過程を示したのが以下の図11です。数値は心理値を表しており、関係構造の中で、矢印の向かう先の要素には1本につき+1、矢印の元となる要素には1本につき-1として算出しています。

図11上の『創発』が起こる前の段階では中心、周縁、外部の心理値はそれぞれ+1、0、-1となっています。中心を最上位として序列化されているわけです。この段階では中心は周縁とループを形成し、二者による系を『創発』していますが、外部はループの外にいて、この系には含まれていません。

図11下の三者による『創発』が起こった後では、周縁が中心から外部へと矢印の相手を向け変え、利他の関係選択を『変化』させることで、三者による以前より大きなループが形成されると同時に、心理値がいずれも0に平等化されています。これが三者による系の『創発』の実現を意味するのです。

三者による系の『創発』では周縁が重要な役割を果たしています。実は『創発』前の図で中心が矢印の相手を向け変えても、残り二者の立場が入れ替わるだけで、全体構造は元の図と同じです。外部が矢印の相手を向け変えた場合も同様です。しかし、周縁が矢印の相手を向け変えた場合だけは異なります。

心理値が0の周縁だけが関係選択によって全体構造を変化させ、残り二者の心理値を0に変えます。どの要素が関係選択しても変化させるのは他の要素の心理値だけです。が、ゼロの心理値を持つ者の周囲には正と負の心理値を持つ者が両方存在するので、これらの心理値を相殺させる選択が可能なのです。

ゼロの心理値を持つ者は、自らの関係選択の変化によって、自らの心理値は変化しない一方で、周囲の者の心理値を変化させ、平等化(調和)させることが可能です。言わば、ゼロの心理値を持つ者は集団の中で中立的かつ主体的な役割を担うのです。すなわち、ここに系の統合された選択論があります。

ここまで来ると、科学革命を起こす者がなぜ「時代の星」にして「周縁」なのかも得心できます。つまり、周縁に時代の星(系の統合された選択論)が本当に存在するのです。時代の星(周縁)が変則事例(外部)を包括する理論を創る(関係選択する)ことによって科学革命(創発)が実現するのです。

順序的に振り返ってみれば、科学革命という最も高次の階層にあるとも言える現象に関する知見が、物質系の表現法という最も低次の階層にあるとも言える分野の方法論の開発に役立ったわけです。しかし、『創発』があらゆる階層で見られる普遍的な現象であることを考えれば、これも必然でしょう。


最後に、他分野への波及として、物理学理論『正負根子モデル』との関係を考えます。正負根子という根源レベルの階層では、根子という要素の関係選択は根子同士の調和力による結び付きの変化に対応し、これは虚数空間次元方向への変位、つまり時間の流れ、またはエントロピーの増大を表します。

ダイアログラムは言わば、量子力学と熱力学を正負根子モデルの下に統一するための表現法とも言えます。そこでは、量子レベルでエントロピー(情報量)が増大する過程を、対象の選択論の立場に立った主体的な表現と、図を駆使した関係創発的な表現とを組み合わせることで実現しています。

また、個の選択論と、個に影響を与えつつも変化させられ得る集団の関係構造を統一的に表現するダイアログラムは、実存主義と構造主義の統合も実現すると言えるかもしれません。このように考えれば、物質系の化学は哲学、人文・社会科学へも大きな影響を与えるものとなることが予想されます。

最後に重ねて提言します。ダイアログラムにおいて、心理値や倫理結合子、関係構造の要素や矢印が具体的に何を表すかは決まっていません。それは各学問分野が創発現象を表現する際に定義していくべきものです。物質系の化学の最大の目標はこのような『創発』の一般的表現法を確立することなのです。

『要素還元主義から関係創発主義へ』という広いテーマ、その道具立ては化学が提供します。化学の科学革命のテーマ『物質系』、パラダイムシフト『還元から創発へ』をご理会頂けたでしょうか。ダイアログラムの探究も始まったばかりです。『創発』の一般的表現法の確立を目指して共に歩みましょう。

以上で、『21世紀の科学革命』のアイデア第3弾 化学編の連続ツイートを終わります。もちろん、革命はまだ始まったばかり。全ての分野の人々と弘学者が関わって実現すべきものです。皆で協力して新境地を開拓しましょう。それが #21世紀の科学革命 、 #弘学革命 です。貴方もぜひご参加を!


#21世紀の科学革命 のアイデアの発信、次回の予定は地学と生物学になると思います。やはり研究の進行状況に分野によって差があり、次回以降はアイデアというよりイメージの段階で、まだあまり進んでいません。されども弘学は全ての学問を愛しています。 #弘学革命


(次回分は 2018.12.26.a 連続ツイート『21世紀の科学革命のアイデア<4>地球科学編』を転載します。 です。)