阿蘇山マグマ噴火

阿蘇山マグマ噴火

阿蘇中岳が噴火した.

第1火口で起きた噴火は,2014年11月25日の小規模噴火のあと, 26日には火山灰を含んだ噴煙が火口から最大1000メートルまで達した.

福岡管区気象台によると, 19年ぶりに噴石が確認され,火口では赤い火炎も認められた.降灰は火口東側へ約40キロの広い範囲で広がっている.

11月27日には,益城を経て,空港近くを車で通ったが,降灰がみられ,飛行機は運休していた.

熊本市内も東風による降灰のため洗濯物を外に干せない情況が続いた.

福岡管区気象台提供の航空写真(27日),東京新聞掲載画像

27日の噴煙の高さは,一時,火口からおよそ1500メートルに達し,火口の周辺で溶岩が固まって出来た噴出物も見つかった.気象庁は.現地調査を行った結果,小規模から中規模の「ストロンボリ式噴火」と呼ばれるタイプの噴火が起きていたと発表した.「ストロンボリ式噴火」が確認されたのは,21年前の平成5年2月以来である.

28日も噴火が続き,噴煙は火口から200メートルほどの高さに上がり,風によって北寄りに流されていた.火山灰が降った範囲は,火口周辺のおよそ10キロから50キロに及んでいると報道されている.GPSなどを使った観測では,山の一部が膨らんでいるのが確認されており,マグマの動きが活発化していると見られている.

肥後の古文書の中には,阿蘇火山の様子が書かれているものがある.

以前紹介した渡辺玄察日記はそのひとつである.熊本県上益城郡早川(そうかわ)の厳島神社神主であった玄察が書いた,寛永9年(1632年)から元禄14年(1701年)に至る年録(年代記)の中には,阿蘇の噴煙の様子が書かれている.玄察の記述が簡潔なため,大事件に隠れて見過ごしてしまうことが多い.今回改めて見直してみた.

以下は,玄察が一生のうちに見聞きした地震,噴火の記録である.

宝永4年(1707)の宝永大地震,富士山噴火の寸前まで阿蘇山の噴煙の様子等を書いている.

渡辺玄察日記

承応 二年(1653) あその御けふりあらし

寛文 元年(1661) 七月十日大なへゆる翌十一日迄中小ゆる事三度(天草灘)

二年(1662) 此年あそのけふりはなはだし

此年豊後九ぢうだけにけふりいづる

此年之五月京大阪大地震京都二条之御城も奉損候などゝ風聞仕候(若狭地震)

此年九月十九日之夜大なへ(日向灘外所地震)

三年(1663) 十一月廿三日之夜寅卯の刻に高來温泉山動揺して翌朝煙見ゆる

五年(1665) 四月十日大なへ一日中に四度動く

延宝 三年(1675) 此年あその御十ふりあらし

元禄 四年(1691) 阿蘇のけふり前代未聞にあれさせられ候 五月日あそ中やみとなりひるたいまつをともす 降灰で昼たいまつ

八年(1695) 此年之四月大地震


富士山の噴火の引き金になった宝永大地震は,現在,「3 or 4 or 5連続地震」の観点から見直しが進められている.地球規模でみた場合,日本列島の地下で起こっている変動は局在化したものではなく,近隣の地殻変化と影響しあっていることは明白である.M9.1の最大規模の南海トラフ巨大地震の想定震源域は日向灘にまで及んでいる.そのような観点から宝永大地震における(人間の尺度では)遠く離れた阿蘇山の火山活動の変化はたいへん興味深い.

寛文2年(1662)の若狭地震,外所地震(とんどころ,1662日向灘地震)では阿蘇山,久住山,雲仙岳は噴煙を上げていることが分かる.1665,1675,1683の各年の噴煙,地震の後,元禄4年(1691)に阿蘇山は比較的規模の大きい噴火をしている.前代未聞の噴煙のため,昼間に松明を灯す状態であったと書かれている.

熊本藩の出来事を年表形式にまとめた熊本藩年表稿には,肥後国誌を引用してもうすこし詳しく書かれている(肥後国誌下巻の記載内容).

5月27日,午前11時頃から午後1時頃にかけて,鳴動激しく噴石を伴う噴煙が東北方向へ棚引いたため,坂梨村,宮地等は辺りが暗くなり,灯りが必要であった.空を飛ぶ鳥は煙に咽んで死ぬ程,亜硫酸ガスを排出したことが分かる.

元禄4年5月27日 4月より8月にかけ阿蘇山大いに荒れる。就中是日巳刻~午刻鳴動甚しく火石大いに昇り黒煙東北方に棚引き、坂梨村、宮地等の間晦冥にして燭をとりて至る。飛禽煙に咽びて死するあり。

渡邊玄察日記は元禄14年で終わっている.玄察日記は熊本藩年表稿にも引用されているが,当該期間内で日記に記載されていないものもあるので,他の資料分も以下に記載した.

熊本藩年表稿(細川藩政史研究会編)(玄察日記を除く)

1675(延宝3年) 1月22日 阿蘇山巳刻に鳴動,黒煙有光石上る(下国誌下530). 4月 大地震、大地破れ家屋の倒壊、圧死するもの多(肥)

1683(天和3年) 5月 阿蘇山鳴動如雷泥土沸騰す(肥)

1691(元禄4年) 4月より8月にかけ阿蘇山大いに荒れる。就中是日巳刻~午刻鳴動甚しく火石大いに昇り黒煙東北方に棚引き、坂梨村、宮地等の間晦冥にして

燭をとりて至る。飛禽煙に咽びて死するあり(肥国誌下530)

1705(宝永2年) 阿蘇大地震(肥)

1706(宝永3年) 4月 大地震、大地破れ家屋の倒壊、圧死するもの多(肥)

1707(宝永4年) 10月4日 東海道大地震(本・合・覚)。肥後地震、とくに人吉において被害多し(蔓綿・肥)

11月22日の日から25日にかけて富士山麓山焼け近国大地震。宝永山生ず。28日に平静にもどる(本)

1708(宝永5年) 8月4日 阿蘇山の池水赤変、又8月より南池水赤変、12月半至り洞渇(部の城・肥国誌下一530)

1709(宝永6年) 1月4日 阿蘇山噴火。池傍に新池出来(部舟・肥国誌下一530)

「阿蘇山 有史以降の火山活動」(気象庁のまとめ)

▲1631(寛永8)年       噴火

▲1637(寛永14)年    噴火

▲1649(慶安2)年      噴火          7~8月

     1668(寛文8)年      鳴動、噴火?         黒煙

▲1675(延宝3)年      噴火      2月16日

▲1683(天和3)年     噴火     6月

1691(元禄4)年     噴火     4~8月。噴石、降灰、鳴動。特に6月には降灰多量。⇐ここ

     1708(宝永5)年    火山活動?    9月17日。詳細不明

▲1709(宝永6)年    噴火

  2月13日。噴石

▲1765(明和2)年    噴火

  6月15日。降灰多量


古文書の記載事項と気象庁の資料を照合した部分はカラー文字部分である.玄察日記の噴煙の記載の一部は火山活動の様子と見なすべきかもしれない.

富士山の噴火迄の阿蘇山の火山活動に焦点をしぼり,気象庁のデータに渡邊玄察日記等の記述を加えて整理すると下記のようにまとめることができる.

1662年の若狭地震(推定値 M7.5),日向灘外所地震(推定値 M7.6),1690年代以降の各地の地震,1707年10月初旬の宝永東海道大地震(推定値 M8.6)の後,翌月末に富士山が噴火している.一旦,富士山が噴火すると,1765年まで阿蘇山の大きな噴火は起こっていない.

巨大地震の後には,必ず火山が噴火していることはその後の歴史が証明している.NHKのコラム(大地震は火山噴火を誘発する!?)に使われている図(スミソニアン博物館資料)を参考にしてまとめた資料を以下に示した.

東北地方太平洋沖地震の後,全国的に活発化している地震や火山活動はお互いが無関係ではないことは歴史を紐解けば自明のことと言っても過言ではない.古文書に簡潔に書かれている内容に,最近の地震,噴火で撮られたデジタル映像を重ねてみると,その惨状と緊迫感が伝わってくる.

国の想定では,宝永地震は東海・東南海・南海地震の「3連動地震」とされているが,日向灘地震も連動した可能性が指摘され,単なる3連動地震ではない別の巨大地震(4連動地震あるいは5連動地震)との説も浮上している.

《巨大地震後に必ず噴火》

いろいろ調べてみると,M9.0前後の巨大地震の後には,3年以内に複数の火山が噴火している.

20世紀以降に注目,宝永地震は参考資料である.

1707年宝永地震 M8.6

 ・49日後:富士山(宝永大噴火)      ・1年2ヶ月後:浅間山  

 ・1年4ヶ月後:阿蘇山           ・1年6ヶ月後:岩木山および三宅島

●1952年(昭和27年)カムチャツカ地震 M9.0

 ・1日後:カルビンスキー山               ・8日後:タオ・ルシィル山  ・31日後:マールイセミャチック山

 ・1年9ヶ月後:サリチェフ山             ・2年11ヶ月後:ベズイミアニ山 1000年の休止後

●1957年(昭和32年)アリューシャン地震 M8.6 or 9.1

 ・2日後:ヴィゼヴェドフ山                ・1年5ヶ月後:オクモク山

●1960年(昭和35年)チリ地震 M9.5

 ・2日後:コルドン・カウジェ火山          ・49日後:ベテロア山  

 ・54日後:トゥプンガティト山            ・7ヶ月後:カルゴフ山

●1964年(昭和39年)アラスカ地震 M9.2

 ・64日後:トライデント山           ・1年10ヶ月後:リダウト山

●2004年(平成16年)スマトラ沖地震 M9.1

 ・105日後:タラン山              ・1年2ヶ月後:メラピ山   ・1年5ヶ月後:バレン山

 ・2年9ヶ月後:ケルート山                ・2年10ヶ月後:アナク・クラカタウ山

●2010年(平成22年)チリ・マウレ地震 M8.8

 ・1年3ヶ月後:コルドン・カウジェ火山     ・1年6ヶ月後:ペテロア山

2011年(平成23年)東北地方太平洋沖地震 M9.0

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参考資料

(2014.12.01)