本編のさらに続き。
その後の日常の一コマ。
玄関を開けると、ふわりと漂う出汁の香り。
今晩は和食か。手洗いを済ませて向かうリビングの奥、台所に立つ柔らかな緑の髪色。
ただいまと言って抱きしめて唇を落としても、お帰りは返されない。
「何もしなくても俺が作るのに何してんだ」
「たまには僕が食べたいものを作ったっていいだろ、この過保護が」
出久がこの家から出ることはない。一人での外出は、俺が許していない。
あの日、俺が出久を”連れて帰って”から、仕事も辞めさせ、携帯もSNSも、すべての連絡先も消させた。それからずっと、出久はここにいる。
ここは二人だけの檻。出久はすべて俺に任せてここにいるだけでいい。掃除も洗濯も料理も、何ひとつしなくていい。ただ、ここにいてくれればそれでいい。
俺だけを見ていてくれれば、それで。
「でも二人分作ってくれんだな」
「さすがにそこまで屑じゃないんだよ。一応僕は君の恋人だからな」
「かぁいい、あんがと」
「はいはい」
腰に回す腕も、食む唇も、拒否されることはない。出久から来ることは一度もないが、渡せば同じだけの熱を返される。
それだけでいい、俺だけのものとして、ここにいる限りは。
鼻をくすぐる石鹸の香り。
シャワーを浴びたばかりの肌が、俺を誘うように潤んでいる。それに昂る熱を寄せると、伏せられたまつげがかすかに揺れた。
「当たってるんだよなあ」
「当ててんだわ」
「だろうね」
二人の間に引いた銀は、出久が下から舐めて絡め取った。
ふわりと上がる口角が、扇情を煽る。
「15分で終わらせて」
キッチンタイマーがセットされて、軽い電子音が鳴らされた。
一回目だけなら、それだけあれば十分だ。
こちらは「あたあてフェスティバル」の時に乗っからせていただいて書いた超掌編です。
完全に忘れていたものをサルベージしました。
テキストで残っていなくて画像でしか残っていなかったものを打ち直しました。短くて良かった~~!
かっちゃん目線でのその後の日常です。初稿をそのままあげています。
2025-05-31(初稿)