プロヒーロー勝己とプロヒーロー(教師)出久のお話。
「猫の日」に書いたものです。
なんで瞬きなんだ?
ベッドに体を沈めて微睡みに落ちかけた頃、出久が回らない口で俺の名を呼んだ。
「ねえ、かっちゃん」
「なんだ」
「今日は、猫の日らしいですよ」
「…んだそれ」
「2月22日、にゃんにゃんにゃんだから、猫の日だって」
「ふーん」
だからどうした。
出久はひとりおかしそうに、ふふ、と笑う。
「じゃあ、ぼくはこれから猫になりますね」
「あ?」
「かっちゃん、僕のこと見てて」
何だ。
くっつきそうな瞼をわずかに押し上げて出久の顔をぼんやり見つめる。
ぱち、ぱち、ぱち
それはゆっくりと何度か繰り返される、大きな瞬き。
丸い翡翠の瞳は弧を描き、口角の上がる笑みは満足げだ。
「ふふ、終わりです」
何だったんだ。よく分からない。
それでも出久は満足したようで、おやすみかっちゃんとひとつ頬を撫で、身体を脱力させてそのまま目を閉じた。
意図も伝えられずに置いてけぼりを食らった。
消化不良で少し冴えた目をスマホに落とし、「猫 まばたき ゆっくり」で検索する。
思わず、頬が綻んだ。
「出久」
「なあに」は言葉になりきらずに転がり出るような音。瞼はわずかに開いていても眠気で色を取り込んでいない。
「こっち、見ろ」
「んん、なに…」
なぞる頬の柔らかさ。
ゆっくりと、瞬きを繰り返す。
さっきのお前と、同じように。
薄らと開けていた目が、少しばかり開いた。
「…かっちゃん」
「ん」
「大好きだよ。…大好き」
「おれも」
ほかほかと、温かい身体を抱きしめる。
ああ、愛おしいな。かわいい猫だ。
幸せな気持ちで、眠りについた。
「猫の日」にあげていた掌編がメモ帳の底にあったのでサルベージして、改稿しました。
猫のゆっくりとした瞬きはとても尊い愛情表現なのでこの話を思いついた時は幸せな気分になりました。知らない方はぜひ調べてみてほしい…
しかし0時を回る直前に思いついたので全然間に合わずに2月23日にアップになりました。惜しかったです。
2025-02-22