家庭と学校や習い事、子どもの“ちがう顔”に気づくとき
〜子どもの行動の奥にある「心のメッセージ」を見つめる〜
〜子どもの行動の奥にある「心のメッセージ」を見つめる〜
家庭では素直で優しいのに、学校では落ち着かず怒りっぽい子。逆に、家では癇癪や暴言が多いのに、学校では穏やかに過ごせる子。実は、どちらもめずらしいことではありません。子どもたちは自分の置かれた場所や環境、人との関係の中で、無意識に“見せる顔”を変えているのです。けれど、親としては「外でいい子にできるのに、なんで家ではこんなに暴れるの?」「学校でそんなに大変なの?」などと、心が揺れるものです。
子どもが家庭や学校、習い事などで異なる姿を見せるのは、“安心の度合い”や“エネルギーの使い方”が違うからです。特に学校では、集団の中で社会的にふるまうために子どもたちは大きなエネルギーを使っています。友だち関係、大人の目、授業への集中、発表やテストの緊張、失敗したときの不安。こうしたたくさんのエネルギーを必要とするふるまいを、小さな体と心で一生懸命に頑張っているのです。
だからこそ、家に帰るとホッと緊張がほどけ、感情が一気にあふれ出すことがあります。私の長男もそういうタイプでした。ちょっとしたことで泣き叫んだり、「ママがやって!」と強く求めたりすることがありました。緊張しやすい性格だと分かっていても、毎日向き合うのは大変でした。
『家庭での癇癪』は、『甘え』や『わがまま』に見えることもありますが、実は“安心して出せる姿”でもあり、子どもなりの心のバランスの保ち方なのです。
反対に、学校で癇癪を起こす子どももいます。学校で子どもたちは、友だち関係・評価・競争・先生の目など、多くの刺激や緊張の中で過ごしています。中には、不安や緊張をうまく自分の中に抱えられず、衝動的な言動として表してしまう子もいます。
「家では我慢できるのに、なぜ学校ではそうなってしまうの?」と感じるかもしれませんが、家庭では慣れた環境で刺激も少なく、見守られている安心感のもとで自分を保てていても、学校では予想しにくいことが起きたり、たくさんの子どもたちとの関わりがあり、緊張や刺激の多さで感情をコントロールしきれなくなることがあるのです。暴言や暴力、癇癪といった行動の裏には、「どうしたらいいかわからない」「わかってほしい」「苦しい」というサインが隠れていることが少なくありません。
私の長女はそういうタイプです。長男とは正反対な性格で、特に2年生になってから友達関係やクラスの雰囲気が変化した影響もあり、急に学校での態度が悪くなり、友達関係のトラブルで学校から連絡を受けることもありました。親としてショックを受け、「どう関わればよいのか」と悩みました。頭では分かっていても、場の空気に流されてしまう弱さは、子どもだけでなく大人にもあります。だからこそ、周りの大人がどう支えるかが大切なのだと感じています。
子どもたちはそれぞれ程度は異なれど、どの子にも“親の前での姿”と“外で頑張る姿”の両方が存在しています。そして、そのどちらもが、その子なりに一生懸命生きている姿なのです。
大切なのは、「家庭での姿を信じる」でも「学校での姿を信じる」でもなく、どちらも“その子なりの今の姿”であり、心のバランスを取ろうとする「等身大の心の表れ」として受けとめることが大切です。
子どもが感情を爆発させるのは、“感情の調整力がまだ発達途中”だからであって、単なるわがままではなく、発達の途中で起こる自然な姿と捉えてみることができます。特に小学生は、前頭前野(感情のコントロールをつかさどる部分)の発達が未熟で、自分の気持ちに気づいたり、その気持ちを言葉で表現したり整理することが難しい時期です。
感情のコントロールができない時には、理性の働きが弱まっているため、親が「物に当たらないの!」「落ち着いて!」と言ってもなかなかその言葉は届きません。落ち着いている時には頭で分かっていても、興奮した時にはコントロールがきかない状態になるのが未熟な発達段階の子どもではよくあることです。
そんな時は、子どもの立場に立って気持ちを想像しながら「きっとあなたは、分かってもらえなかったことが悔しかったんだよね」「あの時、こんな風に言われたのがとっても嫌で許せなかったんだよね」と本人も気づいていない気持ちを言語化しながら受けとめ、落ち着くまで待つことが大切です。
間違った行動の振り返りは、その後です。こうした関わりが、子どもの脳にとっても穏やかな発達を促します。大切なのは、表面的な行動や言動で判断せず、「この子はいま、何を感じ、何を伝えようとしているのだろう?」と、少し立ち止まって考えることです。
私たち大人も、友人の前や職場、家庭での表情がそれぞれ違うように、子どもも環境によって心の出し方が変わります。もし学校での様子を聞いて驚くことがあっても、「うちの子に限って」ではなく、「うちの子にも、そんな一面があるんだな」と受けとめてみてください。子どもにとっては、親に受けとめてもらえることが「どんな自分でも受け入れてもらえた」という深い安心につながります。 子どもは、自分を理解してくれる大人が一人でもいると、立ち直る力も成長する力もぐっと発揮します。そして、それは子どもが自分を好きになれる土台となり、嫌なことが起きても乗り越えられる力にもなります。
子どもの姿が家庭と学校で違っても、それは「矛盾」ではなく「豊かさ」です。
どちらの場面でも、自分らしく生きるための練習をしているのだと思って、少し穏やかなまなざしで見つめていけたらと思います。
家庭と学校が互いに協力し合い、どちらも同じ目線で子どもを見守り、支え合える関係を目指したいと考えています。子どもを信じ、家庭と学校がともに、その子の中にある力を信じていきましょう。それが、「問題をなくす」こと以上に大切な、子どもを支える関わりの本質だと考えています。