コラム⑧「変化し続ける子どもたちのネット事情〜闇の世界に迫る〜」

〜知ることから始めませんか?大人の目をかいくぐる子どもたちのネットいじめの実態〜 

1.  子どもたちを被害者にも加害者にもしないために

 今日のお話のテーマは、「ネットいじめ」についてです。余談コーナーとして、「増加している依存症と不登校」「家庭でも今日から始められる、予防への取り組み」のお話もさせていただきます。

 さて、保護者の皆さんが小中学生の頃、「いじめ」はどのようなものだったでしょうか?

 私が中学生の頃は、制服のスカートが短い子は「調子に乗ってる!」と上級生に呼び出されたり、グループ内でリーダー格の子どもを中心として、グループ内の1人を標的にした嫌がらせや仲間外れが主流でした。


 現代のいじめは、どのように変化しているのでしょうか?

 ご存知の方も多いと思いますが、スマホの普及によって、SNSによるいじめが増えています。昔にありきたりな、目立つリーダー格の子どもがいじめを行っているという構図はあまり見られません。なぜなら、リーダー格の子どもが暴力行為などをすると、その動画を撮られてしまったり、さらにはSNS上にその動画を投稿されて炎上するなどということが生じるかもしれないからです。子どもたちは、そのリスクまで知っていて、意識しているんですね。


 実は現代では、ドラえもんでいえば、しずかちゃんのような、大人からも信頼があって一見おとなしく人気のあるキャラクターがいじめの張本人になっている場合があります。これは、子どもたちの実態を把握するためにアンケート調査などを実施しているソーシャルメディア研究会の方の調査によって、浮き彫りになった事実です。今のいじめは、LINEを巧みに使い、大人に気づかれないよう証拠を残さない、そういった仕組みが成り立ちます。大人の目につかないLINEの中でやりとりを行い、明らかないじめの証拠となるような文言を使わずに行っています。こうした現代のいじめへの対応は、発見することも、発見した後の対応も困難です。

過去のいじめの事例を見てみましょう。

 小学6年生の花子(仮名)は、クラスの女子16人が入っているSNSのグループチャット(グルチャ)に入り、母親のスマホを借りてメッセージのやりとりを行っていました。リーダー格のA子にクマのぬいぐるみのお土産をもらった花子は、そのぬいぐるみの写真を撮り、グループチャットに「このぬいぐるみ、可愛くない」とメッセージを添えて投稿しました。

その後何が起こったのでしょうか。他のメンバーの既読はついたものの、誰からも返事が一切ありませんでした。彼女のメッセージを見たA子は、自分が花子にあげたぬいぐるみを、花子が「可愛くない」と非難していると受け取ったのです。

 ここでA子は、花子をそのグループチャットから退会させるという明らかないじめをするのではなく、大人たちにバレないように、花子を除いた友人らとのグループチャットを別に作り、そのチャットの中で「花子最近調子に乗ってない?」(”花子”ではなく、"あの子”などと特定されにくい言葉を使って証拠を残さないようにすることもある)と発言し、それに対して周りの子が「そうそう」「ほんまそれ」などと返答すれば、その時点で、子ども達の間では『みんなで花子を無視しよう』ということを明言することなく暗黙の了解が得られます。花子がいるグループチャットにおいて、「花子を無視しよう」などと発言すれば、それをスクリーンショット(スクショ)されて証拠となってしまうため、後から見られてもごまかせるように明言することを避けるのです。

いじめの逆転劇『革命』

 現代のいじめは、リーダー格の子どもを中心に、同じグループの子どもたちが次々と順番にいじめの標的にされ、1〜2週間程度でその標的は移り変わっていくようです。その間、グループのいじめは繰り返され、リーダー格の子どもがグループ内の友人を1人ずついじめの標的としていきます。リーダー格の子どもは自分がいじめの標的とならないよう、常にトイレまで一緒に行動し、自分以外の子ども同士が密談できないようにしていました。しかし、SNSの発展により、密談をさせないということが難しくなり、簡単に破られることが起こるようになりました。


 そうなると、何が起こるのでしょうか。


 リーダーの知らないところで、リーダー格以外の子ども達でのグループチャットが作られ、「あの子(リーダー格の子を暗に示す)のこと、どう思う?」と誰かが言えば、「どうして?」「A子のこと?」などとみんなで探り合いながら、お互いに誰の味方につくかを探りながら会話が進みます。また、このグループチャット以外にも、別のメンバーでのグループチャットが複数作られ、互いの意識の探り合いが行われ、『裏でLINE(グループチャット)が動く』ということが起こります。

 

 その中で、誰かが「最近(リーダー格の子)やりすぎちゃう?」と投げかけたとき、「みんなもそう言ってる」「やり過ぎだよね」などと同意が得られれば、リーダー格の子どもに反対する人たちが集結し、一気に立場が逆転する、という事態が起こります。こうした最終的にリーダー格の子どもがいじめの標的にされるという逆転劇の展開を、小学生たちは漢字2文字で『革命』と表現するようです。

 ほとんどの子どもは大人に相談せず、次の標的に移るのをじっと耐えるのです。


 なぜ子どもたちは大人に相談しないのでしょうか?

 子どもたちが「絶対大人や親には言わない」理由は、先程もご紹介したソーシャルメディア研究会のアンケート調査によると、『大人は勝手に暴走する』『(親が)相手の家に怒鳴り込む』『終わりの会や学年集会を開かれて、大ごとにされる』、といった内容が挙げられました。大人たちにそのようなことをされてしまうと、1〜2週間で標的が変わるはずのいじめが深刻化したり長期化してしまい、解決どころか、いじめが悪化してしまうことを子どもたちは恐れています。

子どもたちの心理

 「家で子どもが携帯ばかりいじっていて、なかなか手放さなくて困っている」という保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?


 ゲームをしている子どもが「あとちょっとだから!」と言っていることもあると思いますが、SNSでLINEのやり取りを頻繁にしている子どもたちの中には、手放したくても手放せない』ということが起きているかもしれません。

 子どもたちは、SNSによるいじめに巻き込まれるか巻き込まれないかということに、常に緊張感を持ち、気を遣っています。「本当はやりたくない」「やめたい」と思っている子どもがいることが、先ほどのアンケート調査でも明らかになっています。子どもたちは「いじめは絶対にだめ」と分かっていても、「いじめを止めたら、自分が次の標的にされるかも」という不安の中にいます。そのため、親に「もうやめなさい」と言われて取り上げられてしまうと、グループの会話についていけず、次の標的にされる可能性に不安を抱きます。そうした心理から、携帯を『手放せない』子どもたちは、親に反発し衝突するという行動を取るのです。

変化し続けるいじめの形

 『ステメ』をご存じでしょうか。LINEのステータスメッセージの略語で、LINEの機能です。次の画像のように、ニックネームの下にメッセージを入力できるようになっています。500文字まで入力でき、自分のアイコンとニックネームの下に小さく表示されます。自分の座右の銘や、今ハマっていること、テスト前でLINE謹慎中であることなど、自分の状況を表示する人もいます。LINEのこのステータスメッセージの機能を作った企画者に聞いたところ、LINE側は『災害時の安否確認』のために作ったそうです。しかし子どもたちは、この機能をいじめに利用することがあります。

出典:「ステータスメッセージを設定・変更する」LINEみんなの使い方ガイド(2021年8月10日掲載記事)https://guide.line.me/ja/account-and-settings/account-and-profile/set-status.html

 『ステメ』(ステータスメッセージ)に「いつも自分勝手なんだね」「なんでそんなにわがまま?」「女王様気分だよね」といった、傍目からは誰のことを言っているのかわからないメッセージを表示させます。しかし、これを見た周囲の友達は、なんとなく誰のことかが分かります。こうしたメッセージを掲載し、少しずつ相手を追い詰めるいじめに利用するのが『ステメいじめ』です。周囲に気づかれにくく、証拠を残さないいじめがここでも可能となります。

 中には、一見普通のメッセージだけに見えるステメでも開いてスクロールしてみると悪口が見つかるということもあります。このようなことも子どもたちは知っているのです。

 インスタグラムのストーリーズなどを使ったいじめもあり、現在進行形でいじめの形はどんどん変化しています。今日明日には、また違ったものへいじめの形が変化するかもしれません。どういったものがいじめに使われてしまうのか、それは子どもたちに直接聞くしかありません。子どもたちがどんなアプリを何に使っているのか、誰とつながっているのか、子どもたちの様子を普段から気にかけ、何気ない会話の中で話を聞いてみてください。

学校でのいじめ予防の取り組み

 教職員は日々子どもたちの様子に目を向け、いじめを未然に防止するため、いじめを早期発見するためにアンテナを張っています。そして様々な研修にも取り組み、現代のいじめの実態を掴み、いじめを予防するためのノウハウを学び、子どもたちへの指導にも取り組んでいます。一人ひとりの子どもたちがクラスで安心して過ごせるように、学級づくりを始め、子どもたちが相談しやすい雰囲気づくりや関係づくり、そして、『いじめを決して許さない』道徳観を養うための授業づくりにも励んでいます。


 しかし、SNSを使ったいじめが増える中、学校だけでいじめを予防することは非常に困難です。学校と家庭、地域が一緒に子どもたちを中心に協力し合い、安心して過ごせる家庭、学校、地域を作っていきたいと思っています。


 3学期には、5、6年生と保護者(参観)を対象にKDDI主催のスマホ安全教室を実施予定です。詳細は最後に載せております。お仕事等お忙しい時間帯かと思いますが、ぜひご参加ください。来年度も新5年生を対象とした講座と、保護者だけを対象とした講座を企画しております。また、YouTubeからもKDDIの指導動画(低学年向け~高校生向け、保護者向けまであります)を視聴できますので、スマホ安全教室まで待ってられない!という方や参加が難しい方はぜひご覧ください。(このページの最後の資料や情報を掲載しております。)


 その他にも、インターネットトラブルの事例集など、参考資料をご紹介します。どんなトラブルが起きうるのか、知って損することは決してありません。子どもはスマホを使いこなしているようで、振り回されてしまうこともたくさん起こってしまいます。親子でトラブルを未然に防止するためのルールづくりをしたり、事例や実際に起きた事件をきっかけにどうやって身を守るのかを話し合える機会をもっていただけたらと思います。

子どもたちに身近な『ネッ友(ネット上の友達)』との出会い 

 特に小学校高学年になってくると、中学生とのつながりもいつの間にかできていたり、親が驚くような展開で勝手にLINEのつながりができていたりします。大阪の女児誘拐事件など、最近ニュースを騒がせた事件も記憶に新しいかと思います。子どもたちはなぜSNSのネット友達に会ってしまったり、なぜついていってしまうのでしょうか。


 子どもたちは、日常の親との葛藤や友達とのストレス、学校のストレスなどをネット上の友達に相談することが増えています。それは、『ネッ友』が自分の生活する場から離れた存在であるからこそ、気軽に相談しやすいということも挙げられます。

 よく、「知らない人について行ったらダメ」と伝えることがあると思います。子どもたちもそのことは分かっているはずなのになぜついていってしまうのでしょうか。

 実際に会うに至る心理を子どもたちに尋ねると、ネット上でやり取りをするうちに、顔を見たことがなくても普通の友達のように身近な存在と感じており、『よく知っている人』『自分のことも知ってくれている人』『悩みを相談しやすい人』『優しい人』と捉えていることが分かりました。

 事件での聞き取り調査でも、子どもたちは、「ずっとやりとりをしていたらネットの友達がいい人に見えてきていた」ということを言っているようです。


 そうして、いつしか優しい言葉をかけてくれる知らない人が憧れの対象、恋心を抱く対象となることもあります。そういった対象となったネット上の友達から「会おう」と言われたら、「会う」という選択肢を子どもたちは抵抗感なく取ってしまうのです。したがって、子どもたちには、ネット上の友達が言うこと(年齢、性別、出身地、ステータスなど)を鵜呑みにしたり、信じて会ってしまうことによる危険性を理解させることが重要です。具体的な事件を例に自分事として捉えられるように促し、正しい知識を養っていく必要があります。もちろん危険な目に遭うのは一部ですが、ネットでの性被害を予防し事件に巻き込まれる可能性は、ネットにアクセスする子どもたちみんなにあります。