コラム⑩「思春期に訪れる、痩せ志向にどう向き合うか」

〜いつのまにか刷り込まれたモデル体型を良しとする若者たちの苦悩〜

※東洋経済オンライン「小学4~6の3割超が「やせ願望」命にも関わる深刻」2021年10月31日掲載情報を引用しています。https://toyokeizai.net/articles/-/464938?page=2

1. 思春期の痩せ志向が低年齢化し、摂食障害が増加している医療現場

国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート第5回」の調査によると、小学4~6年生の子どもの3割、つまり10人に3人が今の自分の体型について「太りすぎ」「太りぎみ」と回答し、36%が「やせたい」と答えました。

果たして、実際に太っている子が増えたのかというと、そうではありません。文部科学省「令和2年度学校保健統計調査」を見ると、肥満度が+20%以上の肥満傾向児は11歳男児で約13%、女児では約9%と、肥満傾向の子どもの数は実際には10人に1人程度なのです。

つまり、太っていない多くの子が自分のことを太っていると思い、やせたいと感じていることが分かります。

ちなみに中学生になると、今の自分の体型について「太りすぎ」「太りぎみ」と回答する子どもが48%と全体の半数近くまで増え、64%が「やせたい」と答えています。

 大人でも、特に20代の日本人女性は世界的に見てもやせ傾向が高く、将来の不妊などにつながる問題だと指摘されています。そんな中、次世代を担う10代の子どもたちのこのアンケート結果に、私は危機感を覚えました。 

痩せ願望はソーシャルメディアの利用頻度とも関連

※たまGoo!「痩せ願望のある小学生が増加。思春期の無理なダイエットはデメリットだらけ」の情報を引用しています。https://tamagoo.jp/childcare/child-wants-to-get-thinner/

 たまGoo!サイトによると、2012年~2015年の間に東京都医学総合研究所などが東京都の特定の市に住む10歳の男女4,500人にアンケートをした結果、女の子の痩せ願望はソーシャルメディアの利用頻度が多い子どもの方が1.9倍高いという結果が出たことが報告されています。ただし結果は性別によって異なり、男の子においてはその差が見られませんでした。

インターネットやSNSにはやせ賛美が溢れ、子どもたちが見ている動画に出てくる若者は、ほとんどがモデル体型です。子どもたちが憧れるアイドルやモデルもほとんど皆痩せています。

 実際に私は、別府小学校で4年生の廊下を歩いているときに、「見て!あの子のウエストほっそ!」と女の子が言っているのを耳にしたことがあります。会話の一部分だったのでその発言の意図や流れは分かりませんが、子どもたちが体型を意識していることは確かだと感じました。

女の子の場合は生理に影響が出る可能性もある

 「太るのは脂肪が増えるからだ!」と、脂肪を目の敵のように考えている方は、大人でも多いかと思います。しかし、脂肪細胞は健康を維持するための重要な役割を備えており、皮下脂肪がないと女性ホルモンであるエストロゲンが分泌されず、無排卵・無月経となる恐れがあります。また、エストロゲンの大切な働きとして「皮下脂肪を増やす」ことがあり、思春期にはその影響で女性の体型は丸みをおびてきます。その一方で、エストロゲンは脂肪量が過剰にならないように抑制する働きや食欲を抑制する作用もあります。

 他にも、脂肪細胞から分泌されるレプチンと呼ばれる物質は卵巣機能を活発にしたりエストロゲンの産生を促す働きがあります。このレプチンの分泌量は脂肪の総量に比例して増え、初経は一定量以上のレプチンが分泌されてエストロゲンが産生されることで起こります。体脂肪が15%以下になると女性ホルモンを低下させることもあります。また、極端なダイエットで3〜6ヶ月間に体重の10%以上減少した場合にも皮下脂肪が失われて女性ホルモンを低下させます。そのため、生理が止まることもあり得るのです。

将来、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)で悩む恐れが

 カルシウムの量が減り、骨がスカスカになる骨粗鬆症。小学生にも、保護者にとってもまだまだ危機感がない病気かもしれません。

 ただ、女の子の場合は15歳までに一生の骨のカルシウム量が決まってしまうと言われています。骨のカルシウム量が高いほど骨粗鬆症のリスクは減るのですが、食事による栄養を十分に摂っていないと、そのリスクは高まります。11〜14歳が最も骨量が蓄積される時期でもあるため、積極的にカルシウムを摂取させたいところです。ただし、カルシウムの摂取を意識する際には、カルシウムの吸収を阻害するリンが多く含まれるインスタント食品やスナック菓子、清涼飲料水などの加工品、及びカルシウムの尿排泄を促進してしまう食塩の過剰摂取にも注意が必要です。

【引用】雪印メグミルク骨ちょっといい話「骨とカルシウム」https://www.meg-snow.com/hone-goodstory/knowledge/ca/

痩せ志向の低年齢化は医療現場でも実感されている

 福島県立医科大学附属病院小児科医の鈴木雄一氏は「15年ほど前は、摂食障害で受診する子どもの多くは中学生だったが、この5年ほどは10代前半が圧倒的に増えた(※高校生以上は小児科を受診しないため対象外)。10歳以下も少なくない」「やせは大人も子どもも命に関わる。受診時に即入院のケースが多く、緊急性が高い」と語っています。


食べられていない子は、水分摂取量も十分でないため、脱水症状などで意識障害やけいれんも起こります。また、肥満度が−35%を下回ると、臓器や筋肉が壊れ、多臓器不全に陥り命に関わることもあります。


そして摂食障害に特徴的なのが、歪んだ認識により、痩せ細っているにもかかわらず「自分は太っている」と思ったり、「自分は病気ではない」と本人に自覚がない病識の欠如です。そのために病院受診が遅れると言われています。


「やせたいからといって、わが子は摂食障害までにはならないだろう」と思っていても、やせたい気持ちの強さだけではなく、親が気づきにくかったり理解しがたい原因が積み重なって発症するのが摂食障害の怖さのようです。

2. どんな子がなりやすいの?

ストイックで頑張り屋タイプの子どもには注意が必要

 痩せたことで「みんなから褒められた!」「着たかった洋服が着れた!」といったこと以外にも、習い事のダンスで「ステップのキレが良くなった!」と言われたりと、痩せたことによるメリットを感じ、その経験や感覚にハマってやめられなくなることがあります。中でもストイックに頑張り続けることができるタイプの子どもは、その痩せるための行動も頑張り続けしまうことがあるので注意が必要です。

女の子だけじゃない!発達的な特性でこだわりの強い男の子、そして不安が吐き出せない子どもも注意が必要

 また、日本小児心身医学会のワーキンググループの研究よると、15歳以下の摂食障害で、いわゆる太りたくない、食べたくないという典型的な『神経性やせ症』は71%。残り3割はやせ願望のない『回避・制限性食物摂取症』だったのです。これはつまり、やせ願望がなくても、摂食障害になるケースが3割あるということです。

例えば、風邪などで嘔吐したり、嘔吐時に窒息しそうになるなどの体験をきっかけに、強い恐怖心から食べられなくなったり、強いこだわりや偏食から栄養失調になるパターンがあります。

 鈴木氏によると「回避・制限性食物摂取症は男児の割合が多く、低年齢化の要員の1つに、自閉症スペクトラム障害(ASD)など発達障害の増加が指摘されている。幼少期の食への強いこだわりで食べられるものが少なくなり、栄養不足やカロリー不足になり、摂食障害に発展する場合があります。また『コロナ太りに気をつけよう』とニュースなどで聞いた場合、それを信じて実践してしまうこともある。」と話されています。


もちろん、不安が引き金となるのは、ASDに限らず、子ども全般に起こることでもあります。

 鈴木氏は「人間関係や家族の悩みから、食べられなくなる子もいる。そういう子はやせたいと思っていないし、むしろ食べなければと思っているのに、不安や恐怖から食べられない。

摂食障害は複数の要因が重なって症状が現れる。本人の気質や家族背景、幼少期からの不安や不満などをうまく出せないまま思春期に差し掛かり、出口として見出したダイエットで自らの体重をコントロールすること以外に、達成感を得られる選択肢がなくなっていく」とも話されています。

3.手遅れになる前にどう予防すればいいの?

 鈴木氏は「子どもは環境の生き物。それぞれの“個”はまだ育っていないので影響を受けやすい。女性は、幼稚園児からおばあちゃんまで、みんなやせ願望はいくつになってもなくならない。やせ願望があることが病気なのではないので、それをゼロにすることは目指さなくていい。やせ願望があっても健康的な食行動が取れていれば大丈夫」と伝えいます。

成長曲線やローレル指数を使ってチェック

 もしご家庭でも「最近あまりお菓子を食べないな」「お代わりをしなくなったな」「いつも体型を気にする発言がある」など、気になる場合は、成長曲線(資料①)を使い、不自然なカーブを描いていないか、大幅に外れていないかチェックしてみてください。また、肥満や痩せの尺度となるローレル指数を計算してくれるサイトも次に掲載しておりますので参考にしてください。

保健室でも、成長曲線を元に学校医と相談の上、痩せ傾向の児童には通知を出しています。

小児期の痩せや、極端なダイエットにより低栄養期間が長期化すると、成長障害だけではなく、無月経、骨密度の低下、便秘や低血糖などの身体的合併症につながり、将来の妊娠や出産にも影響するので、早期発見早期治療が大切です。

学童男子成長曲線.pdf

資料① 学童男子の成長曲線

学童女子成長曲線.pdf

学童女子の成長曲線

孤食を減らし、休日は一緒に食卓を囲む心がけを

 鈴木氏は「一緒に買い物をしたり、一緒に食事を作ったり、一緒に食卓を囲むように、家族の会話は非常に大切。食卓は食事をするだけでなく、親が子の様子をうかがい、子が親に何気なく相談できる場でもある。

思春期からいきなりは難しいので、幼少期から家族で食卓を囲む習慣を作ることが大事。一日一食だけでも食卓を囲むことができるよう努めることや、難しい場合は交換ノートによるやり取りも1つの方法」と話されています。

 子どもたちの健やかな成長のために、まずはみんなで食卓を囲むことから始めてみたいですね。とはいえ、私もついつい子どもが朝ごはんを食べている間に朝の支度や夕食の下ごしらえをしたり、夕食を食べている間も洗濯や翌日の保育園の準備をしたりとバタバタしていて食卓を一緒に囲めていない日も多いです。

保護者の皆さんもきっと、子どもの習い事でタイミングが合わなかったり、仕事の都合で帰宅が遅くなるので先に食べさせたりと、現実的には一緒に食卓を囲むことが難しいことも多いかと思います。ですので、いつも気にかけているよと言葉にして子どもに伝えつつ、あとはできる範囲で、できるタイミングでいいと思います。子どもがどういったことに関心があるのか、子どもを観察したり、一緒に過ごす時間を意図的に作ってみてはいかがでしょうか。