専門勉強会

勉強会テーマ:ハラスメントとパーソナリティ障害進行中)


本テーマの研究会内の位置づけ

 学術環境研究会は、研究者のため・学問発展のための必要な条件を考えることを旨としています。必要条件の探究にあたって専門勉強会では「学術環境における危害・ハラスメントをなくすこと」を求めるネガティブ・アプローチを採用しています。ただし、ハラスメントが継続的に同一人物から繰り返されることが少なくないことを踏まえると、予防・矯正の観点からはハラスメント行為や状態だけでなく、人格に焦点を合わせるアプローチにも一定の意義が認められます。そこで本勉強会では、ハラスメントのない環境条件の考察にあたり、ハラスメントを繰り返す性向のある人(=ハラッサー)のパーソナリティを精神医学的に確立した概念によって把握することを目的とします。


勉強会日程

日時:2023年82日 18:00-19:30

内容:ハラスメントと自己愛性パーソナリティ障害の関係について考察するため、最新の精神疾患診断基準を学ぶと共に後天的パーソナリティ障害の文献を講読します

流れ:最初に勉強会のルール・趣旨を簡単に説明、参加者の認識をすりあわせた後、レジュメ報告・ディスカッション。


文献:

1.      Russ, Eric; Shedler, Jonathan; Bradley, Rebekah; Westen, Drew (2008). Refining the Construct of Narcissistic Personality Disorder: Diagnostic Criteria and Subtypes. American Journal of Psychiatry, 165(11), 1473–1481. doi:10.1176/appi.ajp.2008.07030376 

2.      日本精神神経学会監訳『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年

DSM(精神障害の診断と統計の手引きDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;米国精神医学会により定められた診断指針)は日本を含め世界中の臨床現場で広く用いられているが、第四版から第五版にかけて、科学的研究成果に基づき自己愛性パーソナリティ障害の診断指標より精確にアップデートされている。今年6月に9年ぶりに改訂版DSMの邦訳が刊行されたため、これを参考文献にして第五版の診断基準を学ぶと共に、基準改訂に影響を与えた原論文読解を通じて自己愛性パーソナリティに関する最新の知見を得る。


3.      Owen D (2008), Hubris syndrome: An acquired personality disorder? Brain: A Journal of Neurology, 132(5), 1396–1406. doi.org/10.1093/brain/awp008

DSMは先天的なパーソナリティ障害の指標を与える一方で、近年進んでいる研究から後天的パーソナリティ障害についての考察も欠かすことはできない。その一例である傲慢症候群hubris syndromeから、環境が寄与する自己愛性パーソナリティ障害の理解深める。


形式:zoom/レジュメ配布 参加希望の連絡を頂いた方にリンク・レジュメを送ります。

参加者に求められること: 事前に文献を読み、レジュメ報告後に議論を行う。本研究会女性メンバーについては、継続的参加があることからオブザーバー参加可です。

はじめに(K.O.)

まえおき――分野ごとの「違い」と「共通のもの」


 「学術環境のための条件」と一言でいっても、科学か人文学か実学か、実証系か理論系か等で、必要とされる条件・環境は異なります。

 本研究会の活動を通じて、「これが学術にとって不可欠だ!最善の環境だ!」と言い切れるような答えを求めたり、提言したいわけではありません。むしろそのような単眼的な物の見方が、一部の分野のひいき・無理解に通じると思います

 そうした分野の違いに目を配りながらですが、それでも、学問に取り組もうとする人にとって――あるいはより広く、自分の本分において仕事をしていこうとする人にとって――、共通して必要なもの・共通の問題はあります。この「共通の条件」について、 幾つかのテーマを軸にして取り組みたいと思っています。


テーマ1:不正行為予防

 1つは、「研究するにあたって、他人・制度から害を加えられないこと」です。

 身体的安全、心理的安心、過度に侮蔑されないことは、人が学び、交流し、そして成果を出すことを通じて世界に貢献していく上で、だいじなことだと思います。あの樽の中で暮らしたディオゲネスだって、常に他人から脅かされていたら哲学的思索もできなかったでしょう。

 

 「学術環境に必要なもの」についてはなかなかすべてに合意できませんが、「学術環境における危害をなくすこと」を求めるネガティブ・アプローチであれば、ある程度、出発点として合意できるのではないかと思います。 「学術環境研究」という、たいへん大きく見える研究会名も許されるだろうと思ったのは、こういう最低限の「共通の条件」があるという前提からです。



テーマ2:ポスト専門化

 学術環境研究のもう1つの軸は、「社会における研究者の役割の変化を理解し、対応すること」です。

 IT、IoTの革新により、多くの専門知識はオンラインで利用可能になりつつあります。今後、専門職の教育活動や経済活動、ひいては専門家としての「地位」といったものの見直しが迫られ、研究者・大学教員の役割は変わっていくでしょう。

 学問の世界は、先達・年配の権威から学ぶ仕組みが多く残っていますが、「ポスト専門職社会における研究者のあり方」については、従来型の専門職倫理・ノウハウを身につけた50代60代以上の教授から学べません。若手研究者が、積極的に探究していかなくてはいけません。有志の方と、このような現状の理解、分析、指針の探究を共同して取り組んでいきたいと思っています。



学術環境研究へのお誘い

 本研究会では、学術環境上の問題分析や規範的考察を中心に取り組み、こうした研究成果を踏まえ、長期的には、改善のための具体的方策も提示していきたいと思っています。

 性別、人種、国籍、学歴etc.にもとづく差別など、大学には様々な問題がありますが、すべてを一気に取り組むことはできませんので、本研究会では現在、特に女性の問題を対象にしています。しかし、そこで得られた理論的考察は、他の差別問題にも修正加えて当てはまると思います。ですので、参加していただく方は、社会科学の手法、理論分析、政策学を含めて、問題にアプローチする専門的知識をもつ研究者の方を広く歓迎しています。

勉強会テーマ:研究者の職業倫理(終了

活動

・日時 2022年2月20日(日)9:00-10:30

・内容 職業倫理の新しめの論文、Garrett Cullity (2020), 'Deliberative Restriction and Professional Roles' を読みます。

・形式 zoom/レジュメ配布 



・日時 2022年4月

・内容 倫理学の論文を読むことを通じて、大学教員の倫理の基礎づけを考えます。

文献 Isserow, J and Klein, C (2017), Hypocrisy and Moral Authority, Journal of Ethics and Social Philosophy, 12 (2). pp. 191-222.

・問題設定 ハラスメントや不法行為は一般的に悪いことだと理解されている。それとは別に、「大学教員が学生の学業を妨げること」(あるいは指導的研究者が他の研究者の研究を妨げること)に、固有の道徳的悪さがあるかどうか、あるとしたらどのような根拠によるか。 

・形式 zoom/レジュメ配布