ハラスメント加害者の処遇について

~自分達がしないためにも~

CSH研究プロジェクトの成果として、ハラッサーに対する対応のページを公開します

(2023年8月17日公開・実施者K.O.)

1.制度的要請——大学にはハラスメント対策義務があり、今後、対策義務は強化される見込みです。

●在学契約上の再発防止義務

大学には学生との在学契約上、再発防止義務を負い、その再発防止に、加害者の矯正は含まれます。

大学が学生に対して負う安全配慮義務には、ハラスメントが起きる前の義務として、〔1〕教育研修義務、ハラスメント発生後には、〔2〕誠実対応義務、〔3〕学習環境配慮義務、〔4〕調査報告義務、〔5〕再発防止義務を負うことを認めています(神戸地方裁判所姫路支部平成29年11月27日判決 )。

●文科省からの要請

セクシュアルハラスメントを含む性暴力等の防止に向けた取組の推進について(通知)

学生への性加害・ハラスメント歴を採用時記載するよう要請

2.問題分析のための参考文献

    

      他人の権利を侵害するような固定的かつ修正可能な気質は、類型的に指摘されています

     また、どういった人であれ、悪気なく相手の嫌がることをやってしまうことがあります。


ハラスメント気質の人は放っておいても変わらないことは、以下を含む様々な文献で示されています。

『行為者は、自分の言動が相手にどのようなダメージを与えているのか認識できていないからこそ、パワハラをしている』ことを前提として対応すべきです。『自分で気付いてもらう』という方法は真っ先に外すべき選択肢だと言えます」(津野香奈美『パワハラ上司を科学する』ちくま新書、2023年95頁)  

「人にはもって生まれた気質dispositionがあり、これは生涯にわたって変わらない。 気質を土台として、人生早期の環境や体験の影響のもとに性格characterが形成される。 気質や性格のうえに、とりわけ思春期以降のさまざまな社会経験や知的な学習、周囲の人々からの影響を受けて、最終的に形づくられる人柄をパーソナリティpersonalityと呼ぶ。 ‥‥このように考えるなら、パーソナリティが不具合を生じうることや、不具合の修正の可能性があることも理解できる」(石丸昌彦『精神疾患とは何だろうか』左右社、2021年、210頁


ハラスメント加害者の特徴と関連する精神疾患として、反社会性パーソナリティ障害 「他人の権利を平然と無視・侵害する思考・行動様式が特徴。詐欺・暴行・契約違反などの犯罪行為や違法行為を反復しながら、良心の呵責を覚えることがない。衝動的で計画性に乏しく、自分や他人の安全を顧みない」(同上214頁) 


「セクハラやDVが多いのも、自分は偉く、自分のすることは、どんなことでも特別に許されるという思い込みがあるためだ。……自己愛性パーソナリティの人が、権力や地位を得ると、周囲は散々な思いをする……自己愛性パーソナリティの人は、自分はあくまで正しいと思っているので、自分を省みるということが非常に難しい。明らかに過ちを犯したときでも、謝罪は口先だけのもので、心の中では、自分が正しいと思っている」(岡田尊司『パーソナリティ障害:いかに接し、どう克服するか』PHP新書、2011年、108頁)

⇒教育や矯正次第の面もありつつも、「他人の権利を平然と無視・侵害する」タイプの固定的な気質があることが明らかにされています(パーソナリティ障害の診断基準については参照、『DSM:TR精神疾患の分類と診断の手引新訂版』高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳、医学書院、2003年

〇ハラスメント対策を求める「意識の高そうな」人も私たちも含め、ハラスメント加害者になりえます。

 むしろ、対策を要望しているからこそ、「灯台下暗し」になる可能性さえあります。ハラッサーにならないためには、「自分なら大丈夫」という自分中心の評価ではなく、定評のあるハラスメント予防教材で定期的に自己点検し、「相手がどう感じているか」という相手中心の評価軸も自分の中にもつことが大事だと言えます。

3.報道事実――1人の人間がハラスメントを繰り返事例は、枚挙にいとまがありません。

  参考:報道等での関連情報  書籍紹介  

4.制度上の提案――ハラスメント防止の観点からの人事採用と矯正プログラム実施が求められます。

  

1.教員採用や管理職登用の時に、「ハラスメント・パーソナリティハラスメント性)」の観点からスクリーニングする。


組織に必要なのは、人を傷つけたり潰したりすることに全く痛みを感じない邪悪な性格特性を持つ人に対して、決してパワーを与えない、そのような人を決して昇進させないという、強い意志です。 そのためには、組織のトップや人事は、その業績や実績が、他者を不当に利用したものでないか、他者を潰した上で達成したものではないか、きちんと評価しなければなりません」(津野前掲書85-86頁) 


2.研修やハラッサー矯正プログラムを提供する。

「パワハラ上司にならないためのポイント」のうち、大学関係のハラッサーに適用しやすい項目として、ストレス管理をし、感情知能(自己認識力、自己管理力、社会認識力、関係管理力)を高めることが挙げられます津野前掲書258頁)。そのためのカウンセリングやプログラム提供が考えられます。

〈日本の高等教育機関への示唆:ハラスメント予防体制構築に向けて


日本の大学ではハラスメント予防のための研修・講習が圧倒的に足りません。研修内容としては、①定期的な構成員への研修(傍観者研修含む) 、②管理職研修、③加害者矯正研修、それぞれ別内容の研修が求められます。上記1,3の通り、制度的要請・報道上の事実に照らして、今後、大学その他の機関で研修ニーズが高まる一方だと予想されます。そこで必要な対応としては以下が示唆されます。


① 第一に、独立した専門職の雇用と研修教材開発が喫緊課題です


※学生や若手教員に対応させる状況は、むろん望ましいものではありません。海外では「ハラスメント研修材料」を作成しているのは公的機関やNPO団体で、大規模な作成プロジェクトの成果物として公開されてますまた、厚労省は、労働現場における具体的研修材料をウェブサイトで無償提供しています。


② 上記が実現する前は、コストをかけて民間の講習サービスに委託することも、ハラスメント予防義務・再発防止義務の内容であると考えられます

 ここで具体的な業者名を挙げませんが、「パワハラ防止法支援サービス」で検索すれば複数社を比較できます。


※上記の通り、本来、講習・意見提供・助言は有償なものです。

指導を職業としておらずとも、助言・意見提供はボランティアの範囲を超えるもので、本来であれば、無償で提供できるものではありません。ボランティアをしている人にハラスメント予防に関して助言を依頼するときは、上記を念頭において頂ければと思います。