アファーマティブアクション座談会

2023年6月4日公開


アファーマティブアクションの勉強会後半(概要はこちら)で行った座談の一部を公開します。

講師によるレクチャのあと、学んだ考え方を踏まえて、次のようなトピックについて「どうしたらいいか?」と参加者の女性同士で知恵を寄せ合いました。


  女性個人の心の問題―—インポスター体験をしている女性学生に対して、どう助言する

  ►若手世代×男性の「不利さ」は考えるべきなのか?

  ►関係を悪くできない教授に対し、どうやって気づいてもらおう?


座談参加者

アウレット(博士・大学講師)

かぼちゃ(修士・非常勤講師)

ヤギ(博士・非常勤講師

フェレット(修士・会社員)

ヒョウ(博士課程生)

モモンガ(博士・大学講師)

たんぽぽ(修士課程生)

ルビー(博士課程生)


※本座談内容の公開にあたり、意図せずジェンダー間対立や攻撃的態度を助長しないよう、実際の表現・内容を変えてあります。本研究会の発信方針についてはこちら。学術環境研究会 - 情報発信の方針 





































































































女性個人の心の問題、インポスターへの対応


レクチャでは、アファーマティブアクション(以下、"AA")の目的は「過去への補償」にあるのではなく、「構造的差別是正」と「多様性確保」をセットで考えるべきという話が出ました。》


ヤギ:では「構造的差別是正は何/誰のためか?」と目的を掘り下げていくと、現状「社会のため」という面が強いのでは。「女性の心の問題が置き去り」という、講師の小久見さんの最後の指摘は、本当にそう。

 私はアカデミアにおけるAAには反対かも。大学で採用する権限をもつのは年配男性だから、彼らがAAを盾にポジションをちらつかせて女性を迎合させる。AAは、囲い込みや対価型セクハラを助長しているのではないかと感じた。皆さんは正直、大学におけるAAに賛成ですか。

 

ルビー:きちんとAAの根拠を、採用された側ではなく、その職場に既にいる人たちに説明し、「この人が/あなたが劣っているわけではないよ」と説明してくれれば、AAはいいと思う。特に自分は大学院にもっと女性の教授や先輩がいると話しやすくなることも増え、前向きになって研究しやすい。今こうしてここに女性が集まって、研究会で話せるのも、実際とても力になっているので。

 

モモンガ:私もAAのいい面を受け止めてきた。AAによって仲間ができるのが利点。AAによって仲間ができ、自分を高める推進力がつくのがいいのではないか。インポスターという問題は確かにあるが、それに対しては、「自分の実力を養っていく」という風に考えるといい

 

ヤギ:たしかに、AAの短期的効果だけ見ると、個人の女性にとってネガティブに感じられたが、AAの効果が先に続いていくと長期的に考えていくことで、社会構造・女性個人両方にとってのメリットも見えてくる。

 

ヒョウ:自分の分野は、学生は女性学生が多い一方で、教授はほとんど男性。自分が非常勤で呼ばれたのも、女性だから欲しがられたという点はウーンとなる。

 

アウレット:男性が、AAの目的を認識しておらず、きちんと説明もしていない・採用した女性に適切な示し方をしないことが問題。女性のインポスターを助長するような、「下駄を履いている」といった見方自体が、AAの目的を理解できていない証拠。アメリカだと、AAの趣旨がよく理解されているが、日本だと、構造的差別是正を前進させる力になっていない。

 

フェレット:AAは〔上が採用の権力をもつので〕セクハラと結びつきやすいというのはあるかも。男性の方は生きているだけで下駄履いていることに気づいていない、AAの目的を把握していなという時点で能力不足なのではないか、勉強してほしいと思う。


ルビー:採用者に対して想定される不当な発言は、「AAに関わるハラスメント」などにして、すべきでない言動としてきちんと認識できるよう、対策指針を明示する(※)といいのではないか。現状のハラスメントにあたる発言の例には含まれていないと思うので、更新しないといけないですよね。

  ※学術環境研究会第五回勉強会では、女性労働環境のご専門家をお招きして、ハラスメント対策指針を作り広めるための検討をしました(概要はこちら)。

 

ヤギ:場面ごとにハラスメント注意指針を作るのは、有効ですごく良いアイディアだと思う。AAをめぐる周囲の嫌がらせは、生じやすいハラスメントの一タイプとして明確に捉える意義がある。

若手男性との「不利さ」の比較?


ヤギ:「ハラスメントに当たる」と禁止するだけでいいのかわからないのが、若手世代×男性からの隠れた攻撃。不満をもつ若手男性から、「女はいいよな・自分達は不利だ」といった、AA目的を誤解した上での嫌味もある。AAハラスメント対策として、「若手男性を不利扱いしない」というものは含めていいだろうか。

 

モモンガ:若手男性はたしかにかわいそうな面はある。世代間の格差もあわせて考えるといい。(男女を横においたとして)横と縦の格差、両方をみすえてよくしていく。私は男性から「(女性のあなたが)ずるいと思っていた」と言われたことがありショックだった。これに対して、自分の子育ての苦労を伝え、はじめて男性から、「ずるいと思っていたが、大変だったんやなぁ」と言われた。そこで、「若手男性も大変だったんだ」と〔互いに〕感じることができた。

 

フェレット:一番悪いのは不正な構造を維持してきた年配男性。若手男性は立場の弱い女性に対して「ずるい」と攻撃するのではなく、年配男性に異議申し立てしてほしい。女性のほうがいいやすいから攻撃しているのでは。

 

ヤギ:直接的に女性を否定するのではなく、マイクロアグレッションのようなケースが抵抗しにくい。たとえば、AAで就職した女性に対して底上げ採用実態を詳細に説明し、「おまえは本来そのポジションに就く実力がない」と暗に伝えたり、他の組織でのAAの例を挙げて、「そこで排除された優秀な若い男は本当に可哀そうだよな?」と諷喩して同意させようとしたり。間接的だから対抗しにくい。

 

ルビー:ネット上でも、匿名性を利用してか、結構自由にAAに対する意見が飛び交っていて、見ていられないものがある。それらを見ていると、自分がAAで採用されたとき、なにか同じようなことを裏で言われるのではないかと不安になります。

 

ヒョウ:マイノリティ的人種に属している友人が、「人種に関連する諸問題」と「ジェンダーや性的マイノリティの問題」を比較し、人種問題の解決を優先すべきだと言ったことがあり、悲しく思ったことがある。

 

ルビー:よくある構造に感じます。誰しも自分の身の回りに起きている問題でいっぱいいっぱいなので、どうしてもそこで優劣をつけたくなるというか。必ずしもその2択のどちらかを取捨選択しなければいけないわけでもないのに。自分自身がまだ救われていないと感じていると、余計に。私も、自分に直接的に関わっていない(と思ってしまっている)問題に対して、どこまで労力を注ぎ込んだらいいのか、日々葛藤があったりします。難しいです。

 

ヤギ:アメリカ公民権運動で戦った黒人とフェミニスト達が協働できなかった例もある。これに対し、I.ヤングという理論家は、不正義を判断するのに、複数の指標(周縁化、支配、搾取など)と尺度を組み合わせた複合的な基準を提案している。つまり、ひとつや二つの基準をもって、単純な不正の比較はできない、どっちが深刻かを簡単に比較してはいけないということ。


男性の前提への違和感


ルビー:話を変えます。男性研究者と女性研究者では、就職に対する感覚が違うような気がします。私は、個人に対する評価は、その人となりや研究自体を見て判断ので、まず役職は考慮しないです。が、目に見える限りでは、その役職につくことに対して、男性研究者の方が、強い意識というか、こだわりを持っているように見える。

というのも、私がそこまで親しくない、知り合いレベルで分野も違う男性研究者と、女性の研究キャリアについてお話する機会があったのですが、その時にはちょうど就職が決まった頃だったらしい。ですが、すでに就職が決まっていることを、私にわざと隠して、話をしていたようです。どうやら私への配慮だったらしいと、同席している方に教えてもらい、とても戸惑いました。その場で言ってくだされば、就職をお祝いする気持ちもありました。言えないのではなかったようです。決まっていることをわざと言わないのは、一体なんの配慮なんだろうと思いました。そこでもしかしたら、出世に対する感覚が違うのかなと。分野もキャリアの段階も違うので、私にどういう反応をされると思って、出世について隠したのか、気になりました。

 

ヤギ:男性の性別役割規範には「稼ぐべき=稼ぐ方が偉い」「人よりも出世すべき」というのがあり、その人はそうした自分にとっての価値観に基づき配慮したのかも。性別問わず、内面化してしまった役割規範に縛られている。

 

モモンガ:同じ土俵にいると見なされずに排除されるというパターンなのだろうか。自分だけ知らされていないのは、向こうに悪意はなくても、ちょっとショックを受ける。

 

ルビー:そういえば、自分が教授に誘われて、教授同士の、しかも男性だらけの懇親会とかにいると、あきらかにゲストのように扱われているような感じがあって、気持ちは良くありませんでした。院生として参加したのに、「ただの若い女性」に話してあげているかのような、謎の空気が……。

 

ヤギ:ライオンの中のウサギ的な感じかも。「若い女性」扱いする時は、庇護対象にしてかわいがるのかもしれないが、そういう扱われ方をそもそも望んでいない場合も多いし、研究者としてのキャリアが進めば必ず無理が出る(ご年配の女性教授でも、そういう定着した個性の方がいないでもないが)。かといって、自分より下と見ていた女性が同じ土俵にのろうとすると、攻撃してくる男性もいる。どう対応するといいのか。

 

モモンガ:もしそのような状況に置かれたら、私なら「あなたの競争相手にはなりませんよ」と自分を弱く見せるだろう。でも、なぜよい関係を保つために自分を下に見せるという気遣いやコストを負わないといけないのかと思うともやもやする。

 

ヤギ:(男性に限らないが)男性と話していると、はっきり話の次元が変わる時、マウント・スイッチが入る時がある。教育内容の話をしていたのに、急に自分の講義がどれだけ人気だったかという情報価値のない話を差し込む。相手が仕事上の同じ土俵に乗ったと感じた瞬間、すぐ自分が上だと示さないと!という態勢に入るようだ。

 

ルビー:自分だったら、そういう人からは以後離れる。反論するような労力は使いたくないので、静かに離れます。一人一人が相手にしないでいけば、そういうおかしな人達は、自然と孤立していくようになるのではないか。

 

アウレット:私はそういう自己顕示欲が強そうな人とは最初から近づかないようにしている。

 

フェレット:「それ、マウントじゃん」でいいのではないか。

 

ヤギ:言い方は工夫がいるが、たしかに言葉にして相手に自覚させるとよさそう。また、対応としては、離れるというのが正解のようだ。

 


AAへに対する反応


ヤギ:AAに反対する別の理由を挙げると、「その人/自分に見合った評価をしてほしい」という自然な感情に反すること。見合ったものより大きくても小さくても、人は「不当だ、嫌だ」という思いをもつ。構造的差別是正は社会のため・女性一般のためになるのは頭で分かるしAAを支持していくが、すごく自分中心に考えると、「過渡期の女性は、社会是正のために更なる不当さの犠牲にならないといけないのか」という思いにどうしてもなってしまう。

 

ルビー:そうすると、AAとしてどんな段階があると理想的なのか。

 

ヤギ:政治(議会)と公的機関の男女比から変えるのがいい。そして企業。大学は変わるのが遅い。だから過渡期のマイノリティがしんどい。政治・一般社会からの波及を待つ。

 

アウレット:女性個人の犠牲については、AAの是非に関連してあまり議論されてこなかった。例えば、女性の業績がライフステージのタイミング次第で多くの男性より少なくなることに対して考慮するのは、「女性限定公募」のAAの措置でなくても可能なはず。AAの目的を念頭に置きつつ、育児・介護などの負担を引き受けて業績が少なくなった男性も考慮に入れる形での措置の方が、女性個人の犠牲も減ると思う。

 

かぼちゃ:自分の大学でセクハラ問題があったとき、大学宛に、「懲戒処分された元教授(男性)の補填として次に入れるのは女性教員にしてほしい」と大学に要望した。それに対して、女性限定で公募は出せない、出しても「すごい優秀」ではないと採れない等々いろいろと言われて、結局一人、下位ポジションの女性教員が採用された。でも、女性はライフステージによってフルパワーで動けない時期もあるから、男性と単純な業績比較したら不利なのは当然

 そうした実態に対しAA的配慮がなかったこともあって、私は6年間在学していて、女性教員に教わった経験がなかった。もっと多様な属性の先生に教えてもらっていたらどうなっていただろうとたまに考える。

 

アウレット:なぜ女性を採用しないのに色々理由付けするのか。学生が要望しているのは大きい、それで十分のはず。

 

ヒョウ:母校では、公募に応募してきた人の中で最も良い人を選んだ結果、男性を教員として採用した、ということがあった。それは仕方のないケースだろうなと思った。ケースバイケースでもある。

 

ヤギ:なぜかAAの逆向きに引っ張る人達がいる。かぼちゃさんの大学の採用担当者は、女性を採用することで損はないし、むしろ小規模大学では学生要望に応じるメリットがあるはず。AA採用の女性に対する嫌味にしても、そんなこと言わないでいい余裕ある地位の人が言う。これをミソジニーと呼んでも、問題解決の糸口を得られない気がする。なぜなのか。

 

かぼちゃ:「自分がいるうちは絶対に女はいれない」と発言する教授もいた。


みんな:・・・・・(絶句)


かぼちゃ:それは、周りの女性学生たちが、自分達の分野では表現のために、プライベートに踏み込んだ話もする必要があると話していた時のこと。女性の先生ではないと分かってもらえない、安心して話せない、男性教員だとそもそもそういった不安が理解できずにうまく指導できないこともある。

 

ヤギ:その男性が、自分の全能性が脅かされると感じ、プライドが傷つけられたのでは。

 

かぼちゃ:自身の全能感を保つために教授職に就くのはおかしいのではないか。

 

フェレット:権威的でなければならない、なりたい、という動機で動いている男性の教授も多いと感じる。学問への愛というより、権力欲ゆえに教授という職業を選んでいる。自分で気づいていないのかもしれないが。

 

アウレット:男性だけの居心地よさが害される、オールドボーイズの輪が乱されるという不快さから、反対することはありそうだ。


権力をもつ相手に気づかせる工夫


ヒョウ:仲の良い教授が授業中に「母性が」という言葉を使ったことがあり、驚いたことがある。学生達は「女性の先生が来てくれてよかった」と言ってきてくれるので、変な発言が出る環境は自分が変えないといけないとも思うが、「女性」という言葉が必ずしも完全にシス女性だけを表すわけではないということ等も学生に伝えられたらなと思っている。一方で自分のポジションとして学生や年上の男性教授たちの間の潤滑油のようなことが期待されているのを感じているので〔あまり強い批判はしにくい〕。そういう「母性が」といった発言を全然悪気なくする人をどう気づかせたら、どう直したらいいか

 

ヤギ:一見女性性を称えており、女性に道徳的価値を与えているから批判しにくいというのが、人種問題とかと比べたジェンダー問題の特徴。本人の言動に対してではなく他の人の似た言動を引き合いに出し、「これドン引きですよね~」と問題性を伝えるのはどうか。

 

アウレット:「学生達が/他の人が~と言っていましたよ、気を付けた方がいいのではないですか」と、他の人の発言として伝えるのも、関係を壊さずに伝えるのに有効。

 

《ここで、一時席を外していた、修士課程生たんぽぽさんが戻りました。ヤギさんやルビーさんが、「進学を考えている人にとって嫌な情報かもしれないが、知識はあった方がいい」と留保をつけつつ話を続けていましたが、以上の座談を聞いたのち、一言感想いただきました。》

 

たんぽぽ:周りの男性の理解がないとよくならないのだ、と強く感じました。

(終)

編集後記

 座談中、AAに対する否定的な意見も出ましたが、AAそれ自体が悪いというわけでなく、AAを実施する側の説明不足、周囲の理解不足が問題であることが見えてきました。また、若手男性への無配慮が、「横」の関係を分断しうることも認識しました。


このように、AAは、性別問わず、実施される社会内の全員に影響を与える施策です。したがって、いま具体的に必要なこととして以下を提案したいと思います。

  ●採用者・組織―採用側はAA目的を組織内で説明すること、必要に応じて組織内研修に組み込むこと

  ●非AA対象者―—周りはAAの目的を理解し、必要に応じて周囲の理解を促進すること

  ●私たち全員―—政策導入期は特に理解不足に由来する嫌がらせ言動が生じやすいため生じやすいハラスメントの一タイプとして認識し、注意していくこと