男性の前提への違和感
ルビー:話を変えます。男性研究者と女性研究者では、就職に対する感覚が違うような気がします。私は、個人に対する評価は、その人となりや研究自体を見て判断ので、まず役職は考慮しないです。が、目に見える限りでは、その役職につくことに対して、男性研究者の方が、強い意識というか、こだわりを持っているように見える。
というのも、私がそこまで親しくない、知り合いレベルで分野も違う男性研究者と、女性の研究キャリアについてお話する機会があったのですが、その時にはちょうど就職が決まった頃だったらしい。ですが、すでに就職が決まっていることを、私にわざと隠して、話をしていたようです。どうやら私への配慮だったらしいと、同席している方に教えてもらい、とても戸惑いました。その場で言ってくだされば、就職をお祝いする気持ちもありました。言えないのではなかったようです。決まっていることをわざと言わないのは、一体なんの配慮なんだろうと思いました。そこでもしかしたら、出世に対する感覚が違うのかなと。分野もキャリアの段階も違うので、私にどういう反応をされると思って、出世について隠したのか、気になりました。
ヤギ:男性の性別役割規範には「稼ぐべき=稼ぐ方が偉い」「人よりも出世すべき」というのがあり、その人はそうした自分にとっての価値観に基づき配慮したのかも。性別問わず、内面化してしまった役割規範に縛られている。
モモンガ:同じ土俵にいると見なされずに排除されるというパターンなのだろうか。自分だけ知らされていないのは、向こうに悪意はなくても、ちょっとショックを受ける。
ルビー:そういえば、自分が教授に誘われて、教授同士の、しかも男性だらけの懇親会とかにいると、あきらかにゲストのように扱われているような感じがあって、気持ちは良くありませんでした。院生として参加したのに、「ただの若い女性」に話してあげているかのような、謎の空気が……。
ヤギ:ライオンの中のウサギ的な感じかも。「若い女性」扱いする時は、庇護対象にしてかわいがるのかもしれないが、そういう扱われ方をそもそも望んでいない場合も多いし、研究者としてのキャリアが進めば必ず無理が出る(ご年配の女性教授でも、そういう定着した個性の方がいないでもないが)。かといって、自分より下と見ていた女性が同じ土俵にのろうとすると、攻撃してくる男性もいる。どう対応するといいのか。
モモンガ:もしそのような状況に置かれたら、私なら「あなたの競争相手にはなりませんよ」と自分を弱く見せるだろう。でも、なぜよい関係を保つために自分を下に見せるという気遣いやコストを負わないといけないのかと思うともやもやする。
ヤギ:(男性に限らないが)男性と話していると、はっきり話の次元が変わる時、マウント・スイッチが入る時がある。教育内容の話をしていたのに、急に自分の講義がどれだけ人気だったかという情報価値のない話を差し込む。相手が仕事上の同じ土俵に乗ったと感じた瞬間、すぐ自分が上だと示さないと!という態勢に入るようだ。
ルビー:自分だったら、そういう人からは以後離れる。反論するような労力は使いたくないので、静かに離れます。一人一人が相手にしないでいけば、そういうおかしな人達は、自然と孤立していくようになるのではないか。
アウレット:私はそういう自己顕示欲が強そうな人とは最初から近づかないようにしている。
フェレット:「それ、マウントじゃん」でいいのではないか。
ヤギ:言い方は工夫がいるが、たしかに言葉にして相手に自覚させるとよさそう。また、対応としては、離れるというのが正解のようだ。
AAへに対する反応
ヤギ:AAに反対する別の理由を挙げると、「その人/自分に見合った評価をしてほしい」という自然な感情に反すること。見合ったものより大きくても小さくても、人は「不当だ、嫌だ」という思いをもつ。構造的差別是正は社会のため・女性一般のためになるのは頭で分かるしAAを支持していくが、すごく自分中心に考えると、「過渡期の女性は、社会是正のために更なる不当さの犠牲にならないといけないのか」という思いにどうしてもなってしまう。
ルビー:そうすると、AAとしてどんな段階があると理想的なのか。
ヤギ:政治(議会)と公的機関の男女比から変えるのがいい。そして企業。大学は変わるのが遅い。だから過渡期のマイノリティがしんどい。政治・一般社会からの波及を待つ。
アウレット:女性個人の犠牲については、AAの是非に関連してあまり議論されてこなかった。例えば、女性の業績がライフステージのタイミング次第で多くの男性より少なくなることに対して考慮するのは、「女性限定公募」のAAの措置でなくても可能なはず。AAの目的を念頭に置きつつ、育児・介護などの負担を引き受けて業績が少なくなった男性も考慮に入れる形での措置の方が、女性個人の犠牲も減ると思う。
かぼちゃ:自分の大学でセクハラ問題があったとき、大学宛に、「懲戒処分された元教授(男性)の補填として次に入れるのは女性教員にしてほしい」と大学に要望した。それに対して、女性限定で公募は出せない、出しても「すごい優秀」ではないと採れない等々いろいろと言われて、結局一人、下位ポジションの女性教員が採用された。でも、女性はライフステージによってフルパワーで動けない時期もあるから、男性と単純な業績比較したら不利なのは当然。
そうした実態に対しAA的配慮がなかったこともあって、私は6年間在学していて、女性教員に教わった経験がなかった。もっと多様な属性の先生に教えてもらっていたらどうなっていただろうとたまに考える。
アウレット:なぜ女性を採用しないのに色々理由付けするのか。学生が要望しているのは大きい、それで十分のはず。
ヒョウ:母校では、公募に応募してきた人の中で最も良い人を選んだ結果、男性を教員として採用した、ということがあった。それは仕方のないケースだろうなと思った。ケースバイケースでもある。
ヤギ:なぜかAAの逆向きに引っ張る人達がいる。かぼちゃさんの大学の採用担当者は、女性を採用することで損はないし、むしろ小規模大学では学生要望に応じるメリットがあるはず。AA採用の女性に対する嫌味にしても、そんなこと言わないでいい余裕ある地位の人が言う。これをミソジニーと呼んでも、問題解決の糸口を得られない気がする。なぜなのか。
かぼちゃ:「自分がいるうちは絶対に女はいれない」と発言する教授もいた。
みんな:・・・・・(絶句)
かぼちゃ:それは、周りの女性学生たちが、自分達の分野では表現のために、プライベートに踏み込んだ話もする必要があると話していた時のこと。女性の先生ではないと分かってもらえない、安心して話せない、男性教員だとそもそもそういった不安が理解できずにうまく指導できないこともある。
ヤギ:その男性が、自分の全能性が脅かされると感じ、プライドが傷つけられたのでは。
かぼちゃ:自身の全能感を保つために教授職に就くのはおかしいのではないか。
フェレット:権威的でなければならない、なりたい、という動機で動いている男性の教授も多いと感じる。学問への愛というより、権力欲ゆえに教授という職業を選んでいる。自分で気づいていないのかもしれないが。
アウレット:男性だけの居心地よさが害される、オールドボーイズの輪が乱されるという不快さから、反対することはありそうだ。