強くあるためには

右側男性NLについて追求。

R-15相当程度の性的表現を含みます

あと怪我の表現がちょっと痛いです

強くあるためには

「・・・くっ!」

モンスターの鋭い牙に噛み付かれた左腕から、グレイは、みしり、と鈍い音を感じた。

一呼吸送れて、視界が白くなってゆく。血の気が引く。それから、吐き気、左腕がひどく熱い。いや、これは、激しい痛み。

「グレイ!!」

クローディアが自分の名前を叫んでいる。

グレイは気力を振り絞り、きつく目を閉じるとかぶりを振った。

「____この野郎!!!」

構えていた刀を投げ落とし、腰に忍ばせていた小型剣を抜く。

そのまま鋭く薙ぐと、モンスターの喉笛を切り裂いた。

「・・・すまない。」

グレイの声に、クローディアはちらりと上を向いた。ふたたび目を伏せて静かな声で回復術の詠唱を続ける。

グレイの左腕を、あたたかなてのひらがそっと撫でる。

そこから心地よい清涼感が広がっていくのをグレイは感じた。

「動かしてみて。」

グレイは左手をゆっくりと握りしめた。

「・・・だいぶ楽になった。礼を言う。」

そう言いながらも、グレイがわずかに顔をしかめたのをクローディアは見逃していなかった。

その腕の動きは、ぎこちなく、力も入っていない。

「今日はもう街に戻って休みましょう。雲行きも怪しくなってきたわ。」

* * *

水浴を終えたクローディアは、宿の窓を雨が叩き始めた音を聞いた。

ドアを締め、ベッドに目をやると、濡れた髪のまま横たわっているグレイの姿が見えた。

クローディアは彼の髪を、それから額をそっと拭った。

グレイは身じろぎひとつしない。ずいぶん深い眠りに落ちている様子だった。静かな寝息が聞こえる。

グレイはとても強いひとだ。クローディアはグレイの寝顔を見つめながら、そう考える。

強くあるためには。その強さを保ち、求め続けるためには。

彼のことをもっと知りたいと、そう思った。

グレイの表情は、安らか、というよりは、どことなく不安の色が感じられるものだった。

クローディアはグレイの髪をもう一度優しく拭い、彼の身体に毛布を掛けた。

* * *

雨の音を聴きながら、グレイは、たった今まで夢の中にいたことを自覚した。

唇に、あたたかく、湿った感触が残っていた。

目を開ける。

クローディアが、そこにいた。

「・・・気分はどう?」

いつもと変わりない、静かな声。

重く暗い空の色が、窓から見える。

自分がどうやら長い時間眠っていたらしいことにグレイは気付いた。

ひどく心細い感情を、夢の中で味わった気がした。

どんな夢だったのか思い出そうとしても、その記憶はふわりと遠ざかってゆく。

「・・・あ・・・・・・。」

言葉が出てこない。ひどく胸が痛む。

いま言葉を発すると、ほかのなにかが溢れ出してくる気がした。

怪我をしたせいか。不安な夢のせいか。

自分は今、どんな顔をしているのだろう。たまらない気持ちが高まる。グレイはクローディアを抱き寄せた。彼女の髪から仄かに甘い匂いがする。

触れた肌の温かさが心地良い。

グレイの腕の中で、クローディアは柔らかい表情で目を閉じている。

彼女がいまそばにいることが、嬉しかった。

強くありたかった。強さを保ち、求め続けたかった。

___そうする必要があったからだ。そうしないと、生き延びることができなかった。

彼女と巡り会ったのも、その「強さ」があったおかげだった。

彼女の前でも、強くありたかった。

今はどうだ。怯えて縋り付く姿を見て、彼女はどう思っているのだろう。

そもそも、自分は何に怯えているのだろう。

クローディアは体を起こした。静かに微笑む彼女を、とてもうつくしいとグレイは思った。

グレイの髪を軽く撫でると、クローディアはグレイに顔を寄せた。

唇同士が触れ合う。

途方も無い愛しさが込み上げてくるのをグレイは感じた。

クローディアの身体をもういちどつよく掻き抱くと、彼女の唇に舌を忍び込ませた。

夢中で舌を絡ませるふたりの息遣いは、屋根を打つ雨の音に紛れる。

深いくちづけを交わしながら、グレイはクローディアのやわらかな胸に指を這わせる。

薄いシャツをたくし上げ、彼女の胸の温かさを、その柔らかさを、てのひらで存分に感じた。

「んっ・・・ああっ・・・」

先端を優しく抓む。クローディアは体を震わせた。

うまく動かせない左腕の疼きがもどかしい。彼女にもっと触れたくて、グレイは体を起こそうとした。

その肩を、クローディアは押し留める。グレイの左腕に触れ、顔を寄せると、ちらりとそのまま彼の肌に舌を這わせた。

「ん・・・んっ・・・」

甘く掠れた吐息を漏らしてしまう。

クローディアはみずから下着を取り去ると、グレイの腿に跨るかたちでベッドの上に乗った。

グレイの昂りを、服の上からやさしく撫でる。

「ふっ・・・」思わず腰が跳ねる。

彼女をどうしても抱きしめたくて、グレイは体を起こした。

きつく抱きしめ、その髪に顔をうずめ、それから彼女の体をまさぐった。

「あっ・・・ああっ!!グレイ・・・!」

クローディアの潤みが増したのが感じられた。

もう、後戻りなど、できるはずがなかった。

* * *

強くありたかった。彼女の前でも。

今の自分は、どんな顔をしているのか。

彼女はいま、自分の腕の中にいて、顔が見られないことにすこし安堵してしまう。

クローディアは、グレイの肩にそっと顔を埋めると、左腕に優しくキスを落とした。

そのまま、静かに言った。

「グレイ。大好きよ。」

いま、この瞬間に告げられたことが、うれしかった。

火照るような熱さが、目の奥から拡がってゆく。

寄り添っているクローディアの息遣いを感じながら、グレイは顔を手で隠した。

それから、この日何度もこみ上げては抑えてきた感情を開放することを、自分に許した。

顔を上げることは、しばらくできそうになかった。

【了】