夜明けにほど近い時間。森を満たす闇が、少しずつ青い色に染まっていく。
「グレイ!わたしのところへ来て!グレイ!」
クローディアの声が響く。それは叫びに近い、悲痛な声だった。
「どこにいるの?わたしのところへ来て!」
風が木の葉を揺らす。呼び声に、返事はない。
「グレイ…!」
クローディアはしゃがみこみ、顔を伏せた。
「………クローディア。」
聞きたかった、あの低い優しい声がクローディアの名を呼んだ。
「グレイ!!!」
クローディアはグレイに駆け寄った。
「遅くなってすまなかった。夜はあまり目が利かないんだ。」
「来てくれてありがとう、グレイ…。………鳥目には卵やお肉を食べるといいって、オウルが言っていたわ。」
「俺も一応鳥なんだ…。お前は俺に冗談を聞かせるために呼んだわけではないだろう。………無理をするな。」
グレイはいつかと同じく、とても優しい表情でクローディアを見つめていた。
「………オウルが死んだのか。」
クローディアは頷いた。
「オウルが…死ぬ前に………わたしの本当の両親の………」
グレイは黙ったまま、クローディアの髪に触れた。
「わたし…森を出なければならない………。わたし…どうなっちゃうの………怖い………」
クローディアの瞳からぽろぽろと涙が落ちる。
「………俺はお前の涙を数えたくて来たわけじゃない。」
クローディアはグレイにしがみついて、彼の胸を拳で叩いた。
「悪かった。俺も冗談を言うために来たんじゃなかった。」
そう言うと、クローディアに腰掛けるよう促した。
グレイはクローディアの髪を優しく撫で、彼女が落ち着くまで、傍らに寄り添って座っていた。
明け方の森の景色は、ゆっくりと、暗い青から白い光へと変わっていく。
「…クローディア」
グレイが口を開いた。
「森を出るんだ。」
クローディアはグレイの横顔を見つめた。
「森を出ても、お前は大丈夫だ。お前は俺の話を聞いて笑うことができる。
こうして誰かに甘えられる。だから、大丈夫だ。」
「グレイ、それはあなたが…」
グレイはクローディアの言葉を遮った。
「俺はお前とは違う。お前はこれから人に交わって生きていく。俺はそこには行けない。
新しい世界でも、お前は大丈夫だ。」
「そんな…」
グレイはクローディアに向き合った。
「もちろん辛いこともあると思う。そしたら俺を恨めばいい。グレイの奴ああ言っていたのに、って。
会いたくなったら呼んでくれていい。俺みたいなのは、そのためにいる。俺はお前を」
そこまで言うと、グレイは口をつぐみ、目を伏せた。
グレイは小さくかぶりを振った。次の瞬間、そこにいたのはカラスの姿のグレイだった。
「グレイ!」
クローディアが叫ぶ。
「お前は、大丈夫だ、クローディア。森を出るんだ。」
そう告げると、今度はクローディアを振り返ることなく、グレイは飛び去っていった。
日は昇り、森には朝が訪れていた。
【了】
大好きなもの、「ミンサガ」と「グレイ」と「かぞえてんぐ」、安易に混ぜてこんなイラストを描いていました。
これをもとにtwitterで話してる間に突然誕生したお話です。
寿命の違う種族と人間とのお話、昔からよくありますが、やっぱり好きです。