もともとの結末

ものすごく後味が悪いので閲覧注意。

厄災によって多くの命が失われるはずであった王国のために、彼は神と取引をする。

自らの魂を捧げ、生存に最低限の状態で昏睡に陥る。

女王は神々に問う。彼を目覚めさせる方法を知りたいと。

神々は答える。厄災によって失われるはずであった数だけの魂を王国から女王の手で冥府に送ること。それが条件であると。

宮殿の、空に近い、風通しのよい明るい部屋。手入れの行き届いた清潔な寝具。そこに彼は眠り続ける。

女王はそこを訪れる。彼に触れて、語りかける。冷たい体温。微かな、とても微かな呼吸。

あれから伸びることのない髪は丁寧に梳られている。

その髪も、そして肌も、以前より色を失ったように見える。

そしてそれは凄惨さに近い美しさを印象づける。

冷たい彼の手に触れて、女王は語りかける。

「もうすぐよ、 」

hibernationのもととなったツイート(の改変)です。

これ以降の展開、バッドエンド版がもともとhybernation#3になる予定でした。

ここから「彼を助ける」に舵を切ったものが完成版です。

王国の法廷。厄災が退けられて、平和を享受するはずの今のこのにも、咎人は現れる。咎人は、裁かれる。

最も奥まった豪奢な椅子から法廷を眺める女王の表情からは、なんの感情も読み取れない。

玲瓏な眼差しが咎人を見据える。

咎人は怯える。

かつての大法官の定めた法によって裁かれ、咎人には死罪が宣告される。

処刑の朝。女王は美しい髪を丁寧に梳り、それを束ねる。黒一色の、飾り気のないドレスを身に纏う。

破壊神に致命傷を与えた、彼女の細い指にはおよそ不釣り合いな巨大な斧を取り出し、握りしめる。

身支度を終え、斧を手に立ち上がった女王は、小さく呟く。

「もうすぐよ、 」

処刑執行を自らの手で行う女王。

咎人の死刑宣告を望む気持ちが自分の中に芽生え始めたことに気付く。

眠る彼の部屋を訪れ、告解のように、その感情を彼に語りかける。

「あなたはきっとわたしのこの行動を望んでいないであろうと思う」

「この新たに芽生えた感情を抱えているのはとても辛い」

「けれども、それでも、わたしはあなたに会いたい」

目を伏せたままそう告げた女王がふと顔を上げる。

彼の目から、一筋の涙が流れていることに気付く。

驚く女王の前で、彼はゆっくりとまぶたをひらく。

ひさしぶりに見た、色素の薄いその瞳は、ひどく悲しみの色をしていた。

唇がゆっくりと、なにかを伝えるように震える。

しかし言葉を紡ぐことなく、彼はもう一度目を閉じる。

女王は彼に触れ、名を呼び続ける。ずっと、ずっと呼び続ける。

彼の体温はゆっくりと失われてゆく。これまでよりも。

冷たく硬くなってゆく手を握りながら、女王は彼の名を呼び続ける。

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