五つの言葉シリーズ:出題された五つの言葉を使って物語を作るゲームです
しばしば浅草寺を参拝する折りに仲見世の煎餅屋で祖母はよく、タレではなくて醤油だけで焼いた煎餅を作らせたものだ。職人が怪訝そうな顔をしながらも、小皿に醤油を注いできて、その場で醤油だけのを焼いてくれた。ある時、そのお寺の縁日で金魚すくいをした。祖母は粋に着物の袖をたぐってひょいひょいと赤や黒や白の金魚を掬ったから、わたしはあんぐり口を開けて祖母の手を見ていた。祖母はそれほど上手に掬ったのに、水槽がないからと言って私に金魚を全部くれた。金魚はうちに何年も居座って、鯉のように大きくなったものだ。
その祖母の家は今はもうないが、あの頃の家の柱はでこぼこのコブを活かした桧の出節でできていた。節の年輪が顔のように見えるその柱をおどろおどろしいもののように感じたが、その横に場違いな真っ赤な消火器が置いてあったので、お化けが出たら消火器をかけようと子供心に思っていた。祖母はユリの香りの香水をつけていた。家業を叔父夫婦に譲ってからは、旅行をして小唄をならって楽しんでいた。こんな人が空襲時には母や叔父をつれて防空壕に逃げたとは想像もつかない。