「ai no sensei #2」
- 先生!なんでそこで笑うんです?
- 優秀な君でもそんな罠に落ちるとは、まだまだ甘いのう・・・。
彼の人生は彼に責任のあることじゃ。
君がそんなことを悔やむのは、大きなお世話ってもんだ。
君はそうして彼の人生に踏み入ることで
自分の力を確認したかったのではないか?
- 私の支配欲のことをおっしゃっているのですね。
- そう。誰もが心に持っている麻薬の話じゃ。うっふっふっふっふ。
- 先生、そんな鬼の首でも取ったみたいに喜ばないで下さい。
それこそ先生の先生としての支配欲ではありませんか?
- ふぎゃふふ。
- サザエさんみたいにならないでください。
- ばれたか。
- もう!まじめにやってください。
- はい。何でしたっけ?質問は。
- 彼の元を去っても私の気持ちはどこも失われていません。
私が失ったのは彼という存在です。
失ってみたら、やっぱり哀しいし寂しいばかりです。
後悔はしていませんが。
- 愛は欠けることがないのじゃ。
- ええ。今回それがよくわかりました。
でも、私は失敗ばかりにしろ、誰かを愛そうとしてきました。
そして結果としていつも一人になってしまいます。
それはどうしてなんでしょうか。
愛すれば愛するほど、私は孤独になっていきます。
ひょっとして私は運が悪いんでしょうか?
- うん。なんちゃって。
- ・・・・。
- 泣いてるのか。笑っているのか。
- ・・・・呆れてるんです。
- 運なんてものはないのだよ。
状況があって、そこから自分なりの選択をする。それだけだ。
- 私は間違っているのでしょうか。
- 君の質問の意味がわからないのだよ。
愛することによって正解は得られない。
愛さないことによっても同じだ。
間違いも正解もないのだよ。
- ・・・・。
- それに、人を得るなんてことは幻想だ。
人を失うというのも幻想だ。
愛して人を得ると思うことが間違いではないか?
そもそも他人を得るとはどういうことなんだい。モノじゃあるまいし。
- それはそうですが・・・。
- 愛することによって、人は損をすると思うのか?
- いいえ。
- 愛さないことによって、得をすると思うのか?
- いいえ。
- 君はどうしたいのだい?
- 私はただ自由に愛したいです。
- そうではないとでも?
- ・・・・わかりません。
- それは難しいことなのかい?
- 一人ぼっちでは誰かを愛することができません。
- なるほど。そういう状況なのだな。
それで、今君に選択されうる愛はなんだ?
- 私には私しかありません。だから、まず傷を癒すことです。
かさぶたとか青痣がいっぱいあります。
薬を塗ったり、栄養を摂ったりして、体を治します。
時が経つのを待ちます。
- ・・・・。
- どうしたんですか?あれ?泣いてるんですか?先生。
- いや、あまりにも弟子が哀れで。
- ・・・・。先生に哀れまれると余計に惨めな感じがします。
- 傷がはやく癒えるよう、先生は祈っておるぞ。
- ありがとうございます。
ほら、もう泣き止んでください。
いい年してそんなに泣いてミットモナイですよ。
- ぐすっぐすっぐす。祈るくらいしかできなくて・・・。ぐすっ。
- 先生!唐突ですみませんが、今一つ発見しました。
- ぐすっ、何だね?
- 今「やれやれ、何でいつもこんな泣き虫の先生のところに相談しに きちゃうのかしら?」 って考えながら、
先生の老いた涙を見ていたんですが、その答えがわかりました。
- ぐすっ。老いた涙で悪かったな。泣き虫で悪かったな。ぐすっ。
- まあ聞いてください。先生は昔、言ってましたよね。
愛は水みたいなもんだって。
雲になったり雨になったり雪になったり、冷蔵庫で凍ったり、
流しに流れていったり、湯気になったりといろいろな形になるし、
汚れたり色がついたり、甘かったり苦かったり、毒を溶かしたりもするけれども、それは全部同じ水の有り様なんだって。
「そして生き物の身体の中にも水があるだろう?
お腹の中の赤ちゃんは愛の中に浮かんでいるようなもんだ。
生まれてからだって身体の中には水分が巡っている。
それは非常に愛の現実と似ている。
そんな風に感じて生きてる限り、愛が欠けることはないんだよ」って。
このカサブタや、痣だって、血液っていう水の表われですよね。
独りぼっちでちょっと痛んでる私も考えてみれば愛に満ちてるわけです。
眼に見えなくても、きっと彼の中にも愛が巡っているんだから、
私は何も心配することはないんですよね。
ほんと言って愛なんて、口にするの恥ずかしいです。
そんなモノ、幻想だとか、今風じゃないとか、もっと崇高なものだとか、
面倒くさいとか、偽善だとか、まあ、いろんなこという人がたくさんいます。
でも私、先生の愛の弟子になってよかったです。
だって、愛のことを考えなかったら、
私はただの「独りぼっちで痛んでいる人間」なだけですもの。
先生がいろいろ教えてくれたお陰ですよ。
私が独りぼっちで痛んでいて、
それでも愛に満ちてる人間だって言えるのは。
それでもいろんなモノを指して「これは愛に満ちている」って言えるのは。
あれ?先生ったら!?
そんなに泣いたら明日眼が腫れちゃいますよ?
<ai no sensei 終 >