「わたしに残っているもの」 山下月子
膝のうえにほどけた 手のひらは
うつむいたわたしと 向き合う
夜明け前にひらく 花弁のようにそれは
わたしとみつめあって 説得する
夜のみずうみほど暗い 眼をみひらいて
残ったものの一粒でも みたいのに
手のひらは ぽつぽつと濡れていって
やがてなにかあるみたいに みえてくるから
わたしはそらをむく そうすることにする
コウモリ傘をかぶせたような そらはとても遠くの方で
わたしとみつめあって 説得する
いつしかそれも揺らめいて 頬にほろほろ星をふらせて
まるでなにかもらったみたいに おもえてくる
もういちどうつむくと 大きすぎるかなしみ
手のひらに いっぱいの宇宙
00.08.05