手が幸運にも二つあって
林檎を掴んでアライグマのように洗う
最近は農薬などの心配があるので
果物も野菜も皮を剥いて食べるのだそうだ
確かにこれまでそうしていたのだが、
こんな風に食べやすい大きさに
運びやすい形に改良してくれたのは
地道な果樹園のヒトなのか
なぜか想像のなかで
彼は白衣を着ているのだけれど
失敗に失敗を重ねながら
つぎつぎとおいしい林檎を作っていく
と、二行で書くには、時間のかかる作業だ
いくら遺伝子を操作することができても
「りんごができるのは一年に一回ずつですから」
果樹園は嵐に襲われて
おじさんやおばさんが悲壮な顔をしている
そんな夢にうなされてしまいそう
しかしこの林檎の育ちは
もしかしてビニールハウスの中なのか
それにしても一年に一度こうして手に入り
幸運にも口がひとつあるので
がぶり噛みつく林檎のその音と香りよ
(c)山下月子