中里社会保険労務士事務所
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虐待事件から考える 平成27年7月12日(日)
もう少し前のことですが、障害者施設での虐待事件が報道されました。あの映像を見て、多くの人たちがいろいろなことを感じたことと思います。私はこう思いました。どうしてその職員はそうなる前にその場から立ち去らなかったのだろうか。そうなるまでその仕事を続けていたのだろうか、と。
言うまでもなく、日本では憲法第22条第 1 項で「職業選択の自由」が保障されています。「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」。また、憲法第12条では、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」とあります。よって、何もその職業にこだわる必要はなく、他の仕事に就いても良かったのに、その仕事を続けていたわけです。もちろん、続ける自由もあるわけですが、それによって利用者の人権を侵してしまいました。自由を濫用し、公共の福祉に反してしまったのです。加害者個人の背景には何があり、どんな心の動きがあったのでしょうか。虐待することが自分の仕事だと自他ともに認め、何の疑いもなく仕事ができていたのであれば別ですが、(せめてそうあってほしいという願いも込めて)恐らく本人にも後ろめたさがあり、周囲も罪悪感を抱いていたのではないだろうかと思うのです。でも、虐待は起きてしまいました。どうしてなのでしょうか。
…
そんなことを考えるうちに、私の関心事は、いつしか組織の在り方に移っていきました。
虐待は密室で行われたわけではなく、他の利用者や職員がいる中で行われていました。そう、こういったとき、個人の問題にばかり注目しがちですが、組織的な問題があり、その改善こそが真の再発防止に繋がるのではないかと考えたのです。この事件がこの先どのように解決され、施設運営が改善されていくのか分かりませんが、単純に加害者や一部の管理者の責任として済ませ、組織として何ら改善策を見出さないとすれば、恐らく同じことの繰り返しなのだろうと思います。
そう考えると、今回の事件が内部の一職員の勇気によって公のものとなったのはせめてもの救いかもしれません。その心を持ってさえいれば、組織としての再生の道は残されているのだろうと思います。この勇気の火を絶やすことなく、一人一人が本来持っているであろう使命感やら夢やらを今一度表現し合い、互いに共有し、そして、それを常日頃から意識的に確認し合えるようにする。人間は易きに流される生き物です。まさに、「不断の努力」を惜しまないことが肝心なのだと思います。
そして、「立ち位置を知り、業務に没頭」。是非、職員一人一人が自分の存在価値ややるべきことをもう一度考え直してほしいですし、施設の経営者には、職員一人一人がそういうことを感じられるような職場をつくってほしいと思います。そうやって、今一度再生してほしい。曲がりなりにも、かつて福祉業界にいた一人として、それを切望します。
職業に貴賤はないと言いますが、それでも、福祉の仕事は、人々の日々の生活そのものを支える貴重なお仕事です。そうであるからこそ、是非、皆さんに正々堂々と胸を張ってお仕事をなさってほしい。心からそう願います。
因みに、障害者虐待防止法(平24.10.1施行)により、虐待の発見者は、市町村又は都道府県に通報する義務があるとされています。ただ、先日、私の身近で、通報を受けた市町村の対応に疑問を感じるような出来事がありました。日本は、障害者権利条約の締約国となりましたが、実態はまだまだなのかもしれません。蛇足。