第6回 日本語文化セミナー:瀋陽市図書館ホール 2011年10月15日
人間生物学 コラーゲンから見たとき
講師:瀋陽薬科大学教授 林俊彦
講演趣旨
人間生物学という学問分野が確立されている訳ではないと思う。人間も生物の一員であり、サルをはじめ、他の生物とどこが違うのか。これからの人類と地球の関係も考えてみる必要がある。人間社会は疾病の恐怖から、立ち上がり、予防・治癒の医学を作った。人間を自然科学の目で見たときの特徴、長所、短所、強いところ、弱いところなどを考える学問分野が生まれたらと思う。そこで、コラーゲンたんぱく質の研究過程で知り得た知識の観点から、人間生物学について、話してみたい。
1 主催者挨拶:瀋陽日本人教師会、宇野会長挨拶
2 後援者挨拶:在瀋陽日本国総領事館、松本盛雄総領事挨拶
概略:3つの感謝、日本人教師会の活動、講演者林先生に対して、参加者に対して、また、会場提供の市の図書館に対して。
3 司会者(春日先生)による講師紹介
講師概略:1965年東京大学卒業、一時民間企業化粧品メーカー「資生堂」勤務。骨・軟骨・皮膚の成分であるコラーゲンの研究一筋に45年間、その発表は斯界の常に注目を得る所で、1991年「人の体は再生できるか。-コラーゲンから探る細胞設計・組み立てのメカニズム」、2000年「細胞内マトリックス-基礎と臨床」等数々の研究を書物にして、学会をリードし、日本結合組織学会、マトリックス研究会等、会長を歴任している。
講演
「人間生物学-コラーゲンから見たときー」
日本語を勉強している人たちでもわかるような講演にしたいと思いますので、わからないことが、あれば、遠慮なく質問して欲しい。
とかく科学者は、自分たちだけに通じる言葉を用いてしまう。知識として初めての人、ある程度理解している人を前提として、わかる言葉を心掛けていきたい。
大学4年の卒業研究のテーマに「コラーゲン」を選んだとき、正直何だろうか知らなかった。今では認知され、一部誤解もあるが、人間の医療-予防・治療だけでなく、人間の健康を保つ上で、美容で美しくなるために、心の健康になるため-にも「コラーゲン」は関係しうるもの、役立つ物と考えている。それは、実証するのは不可能だが、効果があり得ると想定する根拠は出せるかもしれない。
(以下パワーポイントでの投射映像を使う)
「コラーゲン」というのは、ある物質についての言葉である。皆さんが外国語を身に付けるとき、基礎単語を覚え、文法に基づいて用いる。そして少し慣れてくると、実際には、文脈のなかで初めてその言葉が生きてくることに気付くと思う。「コラーゲン」も体の中で起きている現象の文脈のなかでこそ理解できて、その役割が生き生きとしてくる。言葉は、最初から、厳密に教えるべきとするとつい、文法の導入が先になって、面白くなくなってしまう。会話を重視するのが、いいかもしれない。自分が好きな方向から入るのが、自然科学的理解へもよいのだと思う。言い換えれば、覚えていたから良かったということがあります。別のことで覚えていた言葉が、突然違う場でなるほどと思うようなことがあるように自然現象の発見に出会うことがあります。皆さんなら日本語(中国語)を知っているから、新しい科学的発見にめぐり合うかもしれない。生命科学との会話では、どこかが痛いと感じるようなやり方以外では通常自然は話しかけてくれません。だから、実験という方法で対話します。実験には成否はありません。何か、応えてくれると思って実験します。是、不是の二択をもつて応えてくれるような実験計画(質問)がベストです。地球で一番大切なものに「水(H2O)」があります。生命にとっても最も重要です。その次は炭素Cと水素Hでできている有機物であり、酸素Oと窒素Nが加わって結合の状態で生物が出来ているのです。さらに細胞内では、生命に大事な「水」が勝手に出て行かないように、脂質という疎水性の油が膜を作っています。特にリン脂質がこれです。グリセロールと脂肪酸、リン酸、コリン等、からなっています。人間だけでなく、あらゆる生物は同じ物質からできています。ですからここにあるような元素記号、分子式の配列に面倒と思わず、小中学校から慣れてほしい。次に「糖」です。ブドウ糖+果糖から水が取れたのが砂糖です。糖は生命にとって、優秀な食べ物であり、エネルギーとして大切なものです。その次はタンパク質です。生物のなかで水を除いたらもっとも多く存在する物質です。これは、多数のアミノ酸がつながった大変複雑な構成をした物質です。ただ、食べると消化されてアミノ酸になり、アミノ酸から再合成します。遺伝子はアミノ酸のつながり方を指定しています。研究者は多く遺伝子の役割を解明してきました。これで生命の全容が分かるだろうと。しかし、研究者にとってはいつもそうですが、成果が出たら、課題が待っています。10年後別の大きな課題というのが。
最後に「酵素」の話に移ります。食べたタンパク質は胃の中の「ペプシン」という酵素でアミノ酸に分解されます。胃潰瘍を悪化させるときもあります。体内で自動調節されています。「毒が薬になるように」その逆もあるように、体内でのバランスの良い仕組みを解明するのが、最先端の薬の研究なのです。だから、今では、医学でも患部を切除するという考え方に、もう一つ、患者自身の体にあるもので治癒させる方法が考えられています。すなわち、「コラーゲン」を生命現象の文脈の中で位置づけるとそれなりに重要な働きをしているという考え方で研究してきました。(後半での生命科学としてのコラーゲンの応用研究に論述されたのは、割愛させていただきました。)
5、 会場からの質疑応答
○傷の治癒にコラーゲンを使った市販の薬品があるか。○飲むコラーゲンは体内で再生されるのか。*人間での実験はできない。想定でしかいえないもどかしさはある。○ゼラチンとコラーゲンは同じですか。*食用とされているのは、ほとんどゼラチン。
6、研修担当(渡辺先生)の謝辞
~17:30終了 (記録:田丸 勉)
林先生の日本語セミナーについて
臧(ぞう)暁(ぎょう)雪(せつ)(東北育才学校高校3年)
林先生の「人間生物学―コラーゲンから見たとき」というテーマの講義を伺って様々な感想がありました。
まず、先生は自分の今までのいろいろな経験と自然科学についてたくさん述べられました。例えば、先生は研究する際には繰り返し仮説を立て、自分の仮説を覆し、また新たな仮説を立てるという長い過程があると教えてくださいました。そして、研究者にとって、大事な三つのことを教えてくださいました。それは、
1、 自分の考えを更新すること
2、 研究の結果が出る前に辛抱すること
3、 一つの仮説を疑わず一途に研究し続けるのを避けることです。
先生のお言葉によって、私はいろいろ考えさせられました。先生の長年の経験からまとめられた道理は日常生活にもとても役に立つことばかりで、得ることが大きかったです。
私は講義に参加する前に、テーマから、非常に難しそうな内容なので、理解することができるだろうかと心配しましたが、実際に拝聴してみますと、難しそうな内容をわかりやすく説明していただけましたので、85%聞き取れました。コラーゲン、たんぱく質及び生命自身はなんと不思議なものかと感じました。時々、化学と深く関わる内容のため、わからないところもありました。しかし、自分の知識の不足を意識し、もっと化学と日本語について知りたいという気持ちが出てきました。
先生の講義からいろいろ考えさせられました。今後もこのような日本のことを知ることができるチャンスがあれば、参加していきたいと思います。ありがとうございました。
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とても親切にアドバイスを下さいました
劉琳琳(りゅうりんりん)(東北育才学校高校3年)
コラーゲンという言葉は、去年、日本に行った時、少しだけ聞いたことがあります。体にいいものだということだけは知っていました。
しかし、今回のセミナーで林先生の丁寧なご説明によって、コラーゲンのことについてもっと詳しく知ることができました。おかげさまでとても勉強になりました。ありがとうございました。
セミナーが終了後、私は林先生に東大受験のことをお聞きしました。先生はとても親切にアドバイスを下さいました。研究にも教育にも真剣で、たくさん貢献され、周囲の人に対して謙虚でやさしくて、とても素敵な先生を私は尊敬します。
今回のセミナーに参加できて本当に良かったです。このような機会があれば、また参加したいと思います。
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世界的に有名な先生とお近づきになれて
劉璐璐(りゅうるる)(東北育才学校高校3年)
去年の夏休みに、私は日本へ行って、久しぶりに親友の家に遊びに行きました。最終日、その家族と一緒にしゃぶしゃぶを食べに行きました。その際、親友は、お肉の他にコラーゲンも注文しました。その時、私は、コラーゲンというものを知りませんでした。親友は、それをお肌にいいものだと説明してくれました。私の知識はそれだけでした。
私は、将来、看護学を勉強したいので、生物にはとても興味があります。特にコラーゲンは私が今までに触れたことのない分野でしたので、林先生のセミナーを是非聞きに行こうと思いました。先生のセミナーから、コラーゲンの成分や有用性の他、知らなかった単語もたくさん勉強できてとてもよかったと思います。
このセミナーを通して、他に生物に興味を持ち、学ぼうとする仲間にも出逢えたこともありがたいことだと思っています。
セミナーの最後に、林先生と歩きながら東大についてお話しを伺うことができました。林先生はとても親切で、私たちを応援してくださり、アドバイスもいただきとても感謝申しあげます。世界的に有名な先生とお近づきになることができてとても嬉しかったです。