ユニーク、こんな学校①
東北育才外国語学校
(瀋陽市渾南新区高荣路1号・葛朝鼎校長)
東北育才外国語学校は、中国一の日本語エリート教育校として知られる。今年7月の卒業生は69人が日本の大学へ留学した。毎年、留学生のほとんどが東京大、京都大、大阪大、東京工業大など国立一流校へ進学する。ユニークな同校の歩みと教育実践について、白景時・副校長にお話しを伺った。
聞き手は、多田俊明(東北大学)、中谷豊(東北育才外国語学校)、大山あゆ美(同)
――まず、開校のいきさつと、その理念は?
開校は1998年。瀋陽にある「東北育才学校」と京都にある日本語学校「関西語言学院」が提携して創設した私立学校です。関西語言学院が資金を提供し、育才学校が教職員を提供し、運営にあたるという中外合作事業です。東北育才学校も日本へ優秀な人材を毎年送り出している学校ですが、当時その校長だった葛朝鼎氏(現校長)が、人材育成の場を広げようと、新たな学校創設を構想したのがきっかけです。当時の瀋陽総領事の紹介で、中国人学生の進学指導に定評のある関西語言学院と提携することになりました。当初は高校だけでしたが2002年から中学校を併設し、中高一貫教育となりました。
中国の国際化に伴う人材、とくに、日中の架け橋となる人材を育成する――というのが創立の理念です。
――今年と過去の進学状況、そして傾向は?
各学年の募集定員は192人。第一外国語は英語、第二外国語は日本語かフランス語を選択していますが、ほぼ全員が日本語を選択します。中学卒業時点や学年途中で米国へ留学する学生がでるため、今年の卒業生は約160人。そのうちの69人が日本へ留学しました。昨年は71人でした。米国へは約40人。その他カナダ、オーストラリアなど。中国国内の大学は毎年20人くらいです。今年は、東日本大震災、福島原発の事故が影響して、12人が米国留学へ切り替えたため、日本留学は例年より少し減りました。ここ数年は70~80人ですが、初めての卒業生を出した2001年から2006年までは、ほぼ全員が日本へ行きました。2001年から2011年までの累計は1760人です。
最近、米国への留学が増えています。米国のビザが緩和されたこと、日本に比べてはるかに高額な学費を払える裕福な家庭が増えていることが原因と思われます。
――日本での志望校の決定は?
日本へ行った学生は、まず関西語言学院に入学して日本語を勉強し、11月に行われる文部科学省の日本留学試験を受験。さらに来春、各大学の二次試験、面接試験を受けて4月入学となります。昨年の71人の進学先は東大、東北大、東工大、筑波大各3人、京大13人、阪大6人、名古屋大7人、九州大9人などでした。
――普段、どのような授業を?
全寮制で、毎日午前中5コマ(1コマ40分)、午後4コマの授業があり、日本語教育は中学3年生から一週間に9コマ。毎年192人の募集定員に2500人から3000人の応募があり、倍率は13倍から15倍です。大半は瀋陽市内の受験者です。受験は英語を重視していて、受験の段階で中学2年のレベルがないと入学できません。高校3年生までの4年間で、日本語能力試験の最低でも2級(N2)、半数以上が1級(N1)に合格しています。
日本語を担当する日本人教員は2人。外国語以外の数学、物理、化学、地理などの科目は、4月から8月まで日本から教員を招いて日本語による授業を行っているのも特色です。
――授業料はどのくらい?
年間13000元の授業料、それに寮費が年間1000元です。公立の高校は無料ですが、大連などいくつかの都市では、年間授業料70000元といった私立高校もあります。いい教育を受けさせるための投資を惜しまないという経済的に恵まれた家庭が増えていると実感しています。
――今後の留学生の推移は?
育才外国語学校の場合、日本への留学希望者が少し減っています。欧米系大学への留学が増えています。あくまで、親が決定することですが、できるだけ日本へ進学して欲しいと思います。今年は震災の影響もありましたが、日本は欧米の大学に比べて学費が安く、学費免除や奨学金制度も充実しており、アルバイトもできるというメリットがあります。留学生は卒業後、大半が大学院に進学し、その後日本で就職してキャリアを積みたいと考えています。最近は中国に
戻って就職する人も出てきました。瀋陽には日系企業が200社もありますから。
――中国の東北地方は日本語教育が他の地域に比べて盛んですが。
とくに朝鮮族の学校で力を入れているところが多い。それに、日本語の教育の歴史があった、という理由でしょう。中国の大学入試では、日本語で受験できる大学がごく限られています。だから、高校も英語教育に限られてしまう。日本語で受験できる大学が増えれば、それだけ高校における日本語教育も盛んになり、中日間の正しい理解の促進につながっていくはずだと思います。
――ありがとうございました。
(多田俊明記)