単にググっただけでは見つからない進化学の用語を調べた際のメモ。共立出版の進化学事典に登場しない単語なども掲載している。
および、翻訳語が見つからない場合の訳語提案にもなっています。
翻訳語の後ろの?がついているのは、自分の思いつきの訳語なので、信頼性はありません。
?がついている場合は、実際にどこかでそのように訳されている例がみつかったものです。
(引用を全部付けるべきですが、今後更新の予定です)
Atomic Time / アトミックタイム / 原子時間?
PSMC法を使う時に内部的に設定するパラメータ。ヒストグラムの分割数のことらしい(京大の K氏の説明による)。詳細は不明。
Gene / 遺伝子
遺伝子を再定義する最近の論文として下記の三つ
Pearson, H. (2006). Genetics: What is a gene? Nature, 441, 398–401. doi:10.1038/441398a.
Gerstein, M. B., Bruce, C., Rozowsky, J. S., et al. (2007). What is a gene, post-ENCODE? History and updated definition. Genome Research, 17, 669–681. doi:10.1101/gr.6339607.
Pesole, G. (2008). What is a gene? An updated operational definition. Gene, 417, 1–4. doi:10.1016/j.gene.2008.03.010.
spandrels paper / 三角小間論文
スティーブンJグールドとレウォンティンが1979年に出した論文。適応主義者に対する批判論文として有名。
Evolutionary Opportunity / 進化機会 / 進化のしおどき
「進化機会」や「進化のしおどき」という訳語は、川島による訳語提案です。
Winther R.G. 曰く、エボデボ研究におけるStructuralism ParadigmとAdaptationism Paradigmの陣営がぶつかり合い、落とし所を探った結果、Evolutionary OpportunityやFlexibilityといった概念が生まれた。
(Evolutionary) Flexibility / 順応性 /
William Bateson / ウィリアム・ベイトソン
遺伝学者。ギボシムシの研究論文も発表している。共立出版の進化学事典にはなぜか登場しない。
生物の集団 (group) の呼び方
魚: school、ライオン: pride、ハチ: swarm、エルク: gang、ロバ: pace、カンガルー: troop、狼: route、狐: skulk、熊: sleuth、サイ: crash、アザラシ: trip (herd)、ラッコ: pod、鷺: siege、鶴: herd、雷鳥: tok、ムクドリ: murmuration、雲雀: exaltation、雉: bouquet、カラス: murder、ミヤマガラス: building、ヒキガエル: knot、ヒトデ: smack、マントヒヒ: troopもしくはband
(以上、ほとんどはウィルソンEOの社会生物学(新思想者、伊藤嘉昭編による))
Silica Acid / シアル酸 /
ノイラミン酸(neuraminic acid)の誘導体の総称。N-アシル(N-アセチルまたはN-グリコリル)ノイラミン酸及びN-アシル-O-アセチルノイラミン酸が天然に知られている。牛の顎下腺ムチンからG. Blix (1936) によって最初に結晶化された。シアル酸の生理的意義は十分には解明されていないが、細胞膜表面の潤滑剤として粘度を高めているほか、ホルモンの活性に対する影響など、細胞膜の営む機能との関連で重視されている。インフルエンザウイルスに対する赤血球表面の受容体としての存在は有名。(岩波・生物学辞典第4版p544より)
co-option / 転用 / つかいまわし
co-optionとrecruitmentはほぼ同じ意味で使われる。
Ganfornina MDと Sanchez Dの"Generation of evolutionary novelty by functional shift"(1999, BioEssays21:432-439)には、co-optionもしくはそれに類する概念の歴史が記されている。彼らによると、co-optionの元になる考えとして functional shift (機能転換)があり、この考えが登場したかなり初期のものとして、ダーウィンの"種の起源"の第一版に"wounderful metamorphoses in function(機能の見事な変質)"という記載が該当するそうだ。
pre-adaptation / 前適応 / ***
適応は種文化の初期の説明がつかないというMivartによる批判(1871)に対応して、ダーウィンが取り入れた概念。もともとはフランス人のCuenotの発案によるらしい。そういうわけで「種の起源」の第一版には登場しない。前適応という語感に対して、この言葉の使い方では、まるで生物進化が目的論的に見える、という批判がある。
外適応(Exaptation)とも同じ意味として使われることがあるが、こちらはグールドらが言い出した言葉。
(Cuenotの述べていたことをレビュー等で見ると、木村より先に中立説のようなことを予見していたのではないかという気にさせられる。一度調べてみないといけない。)
ちなみにExaptationという単語はグールドの下記の論文で初めて述べられたことになっている。
Gould SJ, Vrba ES. Exaptation - a missing term in the scince of form. Paleobiology 1982:8:4-15,
homonomous
conditions d'existence / 生存条件 (論) /
フランス語。キュビエの生存条件論。英語ではconditions of existence。
ダーウィン以前の進化学上の有名な論争であるアカデミー論争は、キュビエの「生存条件論(conditions d'existence)」とジェフロワ・サンチレールの「連絡の原理」の戦いであった、などは知ったかぶりするときに便利。
sample size / 標本の大きさ /
サンプルサイズもしくは標本の大きさとは、標本抽出操作で抽出された数のこと。
標本の大きさのことを「サンプル数」などと言ってしまうと、統計の専門家もしくはその弟子たちから、鬼の首を取ったように揶揄される。たんに「明治期の統計学者に日本語のセンスがないから学習者が間違いやすいだけではないか」と思うのだが、そんな意見は聞いてもらえないので、研究者コミュニティーで生きていきたければ、間違わないようにする必要がある。言い間違えた時も意地を張らずに謝ろう。
constraint / 制約・束縛 /
Historical Contingency / 歴史的偶発性 /
Nature (2015) doi:10.1038/nature14537 "Systems biology: Network evolution hinges on history に解説あり。
ある一連の出来事が生じる時に、その順番が必要である場合、Historical Contingencyと呼ぶ。
進化においてHistorical Contingencyが必要であることは、Wrightが1932年に提唱した(らしい)。
Homotachy and Heterotachy / "(塩基やアミノ酸の)置換速度一定の仮定" と "置換速度が進化過程で変化する事"
(進化学事典 (共立出版): 19.2 進化パターンによる速度の違い (小林、鈴木)による)
calibration / 較正(こうせい) / すりあわせ(?)
たとえば分子データから得られた系統樹の分岐年代などを、化石データなど、他のデータと比較してずれを修正する作業のこと、と言ってよさそう。
pleural of species / 群(ぐん) /
近縁種のをひとくくりにして言う場合。種複合体(Species Complex)と呼ぶべき場合の、より平易な表現。
species complex / 種複合体 (しゅふくごうたい)/
属よりも下位の分類群として、近縁の種が分子系統なのである程度まとまって見られるときにひとくくりにして、Complex (種複合体)と呼ぶようである。分類学の言葉は厳密なので、正当な出典を知りたいのだが、なかなか見つからない。
Olfactores / 嗅覚動物群? /
脊椎動物と尾索類(ホヤ等)を併せた動物群に対する呼称。Olfactoresを"嗅覚動物"と訳してよいのかどうかについては自信がない。引用をたどると、下記の本にたどりつく。
Biological Asymmetry and Handedness No. 162,
Calcichordata / 炭酸カルシウム脊索動物群とでも訳すか?/ カルシコーダータ
Jefferiesの提唱した動物分類群で、Mitresを脊索動物と棘皮動物の共通祖先におき、外群に半索動物を置く。現在では
Mitresは棘皮動物の祖先と考えらえており、この分類群も概ね否定されている。
Calcichordate theory / 石灰化脊索動物説? 骨格脊索動物説? / ?
新口動物(後口動物とも)の門レベルの系統関係が、尾索動物(ホヤ等)、頭索動物(ナメクジウオ類)、脊索動物(=~脊椎動物)の三つをひとまとめにしてCalcichordateと呼び、この外群を棘皮動物とし、さらにその外群を半索動物(ギボシムシやフサカツギ)とする仮説。イギリスのBritish Musiume (自然史博物館)のR. Jefferiesが唱えた説。 1967年頃から唱え、1986年に出版された本にも書かれているとされる。現在では、ほぼ間違いである、とされている。
http://www.sciencemag.org/content/236/4807/1476.2
新口動物の系統関係を決定するのに紆余曲折を経た、と説明する際に便利であるためか、しばしば引用される。
Partitioned Branch Support (PBS) / ? / ?
下記論文を参考
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1096-0031.2006.00113.x/abstract
partition / 分割 / くぎり
分子系統樹を描く時に、アライメントをブロック化して別々の進化速度を与える時等に考慮する、その配列ブロック。PartitionFinderなどのPartition手続き用のプログラムの解説等が参考になる。
Partitionを拡張して考える場合、連続性のある区画だけでなく、コドンの3塩基目だけで系統樹を描く場合なども、Partitionと呼ぶらしい。
注:なお「分割」とか「くぎり」と訳するのが業界で認められているかどうかは分からない。すでに適切な訳語があるかもしれません。
linked branch-length, unlinked branch-length
下記論文を参考
http://sysbio.oxfordjournals.org/content/49/4/800
時間軸関係
MRCA ( the Most Recent Common Ancestor ) / 最も近い共通祖先 (日本語の説明文ではtheが忘れられがちのようだ)
TMRCA (the Time to the Most Recent Common Ancestor ) / 最も近い共通祖先からの時間(最も近い共通祖先までの時間)
Yule-model / ? / ?
下記の論文( Gernhard, T., 2008)などを参照のこと。
Gernhard, T., 2008. New analytic results for speciation times in neutral models. Bull. Math. Biol. 70 (4), 1082–1097.
HPD ( Highest Posterior Density ) / ? / ?
kyr BP / 千年前 / ?
kyr BPと記載する。BPは小さいフォントで書くようだ。kilo year(s?) before presentの略。「現在から何年前」を意味する。炭素同位体による年代測定など、測定値に対して使うことが多い。
[ref: Orlando L. et al. (2013) Nature 499:74-78.など]
Thaw unconformity / 雪解け不整合? / ?
筆者には今の所意味が明確にわからない。unconformity (不整合)は、「傾斜した下の地層を切るようにして、上に地層が水平に堆積しているような地層の不連続な重なりのこと」。 Thawは氷河などの雪解けなので、雪解けによって下の層とは異なる別の層ができているそのような層序学的境界線のことだろう、と理解している。
[ref: Orlando L. et al. (2013) Nature 499:74-78.など]
時間軸較正
upper bound / 上限制約, 上限値 / ?
どっちが上限でどっちが下限なのか忘れがち。upper boundはolder boundとも呼ばれると覚えておくと、古い方の時間制約がupperだとわかる。
lower bound / 下限制約, 下限値 / ?
どっちが上限でどっちが下限なのか忘れがち。lower boundはnewer boundとも呼ばれると覚えておくと、新しい方の時間制約がlowerだとわかる。
置換モデルなど
JC, Jukes and Cantor / ? / ?
置換モデルの一つ。塩基置換モデル。しばしば分子進化の教科書の最初の方で解説される。
GTR, Generalized Time Reversible / ? / ?
置換モデルの一つ。塩基置換モデル。
HKY, Hasegawa, Kishino, Yano / ? / ?
置換モデルの一つ。塩基置換モデル。
WAG, Whelan And Goldman / ? / ?
置換モデルの一つ。アミノ酸置換モデル。
LG / ? / ?
置換モデルの一つ。アミノ酸置換モデル。
たぶん下記論文を参照するのが良い。LGの命名の理由は書いていない。
http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/msn067
SS, Site-specific Rates Model / ? / ?
置換モデルの一つ。らしい。よく知らないです。
その他の有名置換モデル
K80, TrNef, K81, TVMef, TIMef, SYM, F81, HKY, TrN, K81uf, TVM, TIM
その他の有名置換モデル(Protein Evolution)
mtREV, Dayhoff, DCMut, JTT, VT, Blosum62, CpREV, RtREV, MtMam, MtArt, HIVb, HIVw
下記のようなことでもあるらしい。。。
パラメータ数 0 1 2 2 3 4 5
等塩基頻度 | JC69 | K80 (K2P) | TN93ef | K81 (K3P) | TIMef | TVMef | SYM
不等塩基頻度 | F81 | HKY85 | TN93 | K81uf (K3Puf)| TIM | TVM | GTR
+I, +G, +F / ? / ?
置換モデルに添えられる記号。+IはInvaiant sitesを、+GはGamma distributed rateを、+FはAmino Acid Frequenciesを考慮している事を、それそれぞれ示しているらしい。Invariant SitesとAminoAcidFrequenciesを両方同時に考慮する
するばあい、+I+Fなどとするようだ。
OTU, Operational Taxonomic Unit / 操作状の分類単位 / ?
系統解析をする時に、それぞれのデータセットにとりあえず付けた名前を都合良く解釈してくださいね、という暗黙の了解のこと、だと思う。
Dirichlet / ディリクレ分布 / ? /
確率分布の一つ。ベイズ法で事前確率をどのように考えるのかについて勉強をする際に知っておかないといけないけれども、世の中に説明が少ないものの一つ。たぶんみんな分からないまま分かっているふりをしている。私もその一人。
===== 分類学
Cycloneuralia と Panarthropoda / シクロニューラリアとパナルソロポーダ/ 環神経動物と汎節足動物
いずれも脱皮動物(Ecdysozoa)を大きく二つに分ける分類群
環神経動物はNematoda/ Nematomorpha / Priapulida / Loricifera / Kinorhynchaに分けられ、
汎節足動物は、Tardigrada/ Lobopodians/ Onychophora / Radiodontans / Arthropodaに分けられる。
Lobopodiansには絶滅した動物であるハルキゲニアが含まれ、Radiodontansにはこれも絶滅したアノマロカリスが含まれるとされる。
環神経動物は、環状神経をもち、体節をもたず、裏返し型の脱皮を行う。
汎節足動物は、すべて体節をもち、対になった足を持つ。(なお側節足動物という記述もみる)
このうちLobopodians(葉足動物)のみが、体節をもち対になった足を持つことから側節足動物でありながら、環神経動物様の端部口構造を持つ。このように、環神経動物と汎節足動物の共通祖先の形質を示す動物と考えられている。
Nature 523, 38–39 (02 July 2015) doi:10.1038/nature14627 に詳しい。
Coelenterata / シーレンテラータ
刺胞動物(クラゲやサンゴやイソギンチャク)と有櫛動物(クシクラゲ)が、単一分類群を作ると考えた場合の分類群の名前。1940年にHymanが提唱した(らしい。原著読んでないです。 Hyman L., 1940. The Invertebrates: Protozoa through Ctenophora. McGraw-Hill, NewYork.)
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共立の事典に掲載されていない進化学用語及び分野
免疫系の進化