これに対して私が提案するアプローチは、もう一つ組織という階層を置くことで、この隔たりを埋めるというものです。脳はニューロンだけからなる臓器ではなく、ニューロンの他にも血管やグリア細胞、脳脊髄液、脂質など様々な要素からできています。これらすべての相互作用を調べることが、高次の脳機能を理解する手がかりになると確信しています。
従来、ニューロンネットワークの研究は、培養細胞や脳スライスで行われて来ました。今後、組織の生理学を行うためには、生きたままの個体であることが不可欠です。生きたままの個体における統合システムの一つとして脳という臓器の働きを調べることが必要です。
そのためのキーワードとなるのが、脳の中の非シナプス的相互作用です。
従来、ニューロンネットワークにおいては、ニューロン同士がシナプスを形成し相互作用し、情報処理をしていると考えられてきました。ところが、シナプスを介さない相互作用が脳の中で重要な役割を果たしている傍証がいくつも見つかってきています。