研究の概要

非シナプス的相互作用によるメタ可塑性・恒常性維持メカニズムの解明

私は、神経回路ネットワークの非シナプス的相互作用 (Non-synaptic interaction)に着目した研究を行なっています。具体的には細胞外電場、イオン組成、グリア細胞、CSF循環、拡散伝達などによる細胞外空間を介したメタ可塑性・恒常性維持のメカニズムについて研究しています。メタ可塑性・恒常性維持 ということを考える上で、特に、脳内では脇役と考えられてきたグリア細胞の1種である「アストロサイト」の働きに関心があり、脳の機能やこころの問題、病態の理解や創薬の可能性を考える上で、アストロサイトの関与は無視してもよいかどうかを見極めたいと考えています。アストロサイトは電気的応答が微弱なため、従来の電気生理学的な測定法ではその活動が見逃されてきた可能性があります。一方、生体脳でアストロサイトが細胞内カルシウム(Ca2+)濃度をダイナミックに変動させて、脳の情報処理に積極的に関与しているという傍証がいくつも見つかってきています。またアストロサイトは脳内の恒常性維持を担っており、血管とニューロンのインターフェースとして働いているため、創薬のターゲットとしての可能性を秘めています。

尾刺激で活性化するアストロサイト (生体脳・二光子励起顕微鏡による観測)ウレタン麻酔下、G7NG817遺伝子改変マウス (Monai et al., 2016, 後述)に尾刺激を与えた結果、Gタンパク質共役受容体 (GPCR)が刺激され、アストロサイトの細胞内Ca2+が上昇する。体性感覚野、深さ400 ミクロン。(左):刺激前、アストロサイトをSR101を用いて赤で染色した。(中):刺激中の様子。黄色く明るい複雑な形態の細胞がアストロサイト。(右) 刺激後の様子。活性状態は100秒ほど続き、その後元に戻る。