生体脳深部観測と脳組織の生物物理学特性の解明
大脳皮質においては、長く複雑に分枝した神経突起を持つ神経細胞が方向性を持って配列することにより機能領野を形成しています。
機能領野内では、深さ方向に分布する細胞の種類や形態や分布の密度が異なる層構造をなし、層間での相互作用により情報処理を達成しています。
さらに機能領野が相互に連絡することで高次機能を達成していると考えられています。
このように本来複雑な構成を持つ脳組織に対して、これまでは個々の神経細胞の内部のタンパク質や分子の動態を明らかにする要素還元論的なアプローチや神経細胞間のネットワーク構造を明らかにするシステム論的アプローチが取られてきました。
脳組織を構成する細胞集団の配置や組織の形態や構造に着目した研究が重要であると考えられます。
脳組織は従来脂質からなる均質な媒質であるとみなされているようですが、脳組織の持つ構成的な特性や形態的な規則性は非常に興味深く思えます。
私はこれまで、脳組織の持つ異方性が脳組織の物理的特性や生体脳における機能創成に対して大きく寄与している可能性を提案して参りました (Monai et al., Phys Rev. E., 2012)。
本研究では、脳組織とりわけ高次機能を担っていると言われている大脳皮質の機能領野の層構造や異方性に着目して参ります。
生体脳における皮質組織が不均質媒質であることや単なる脂質からなる媒質でないことを明らかにした上で、組織の不均質性や異方性が脳機能の創成に果たす役割を解明したいと考えております。
本研究は理研BSI-オリンパス連携センター (BOCC)との共同研究で行なっていく予定です。
大脳皮質の規則正しい層構造神経細胞の細胞質にYFPを発現した遺伝子改変マウスより作成した脳切片の図と感覚皮質における二光子像より三次元再構成した神経突起群。神経細胞の神経突起は規則正しく配列しており、さらに深さ方向においても突起の伸長方向に規則性がある。撮影は理研BSI-オリンパス連携センターの協力を得て、FVMPE-RS二光子励起顕微鏡にて、WMP25x 水浸対物レンズを用いて行なった。