教育についての所感
いよいよ研究室に配属されますね。卒業研究の一年間は学部1~3年に匹敵するか、またはそれ以上に濃密な時間になるのではないでしょうか。ここからが本当の大学の醍醐味です。どういう時間を過ごすかは皆さん次第だと思います。特に、私の研究室は今年始まったばかりなので、ぜひ一緒に一から研究室と面白い研究テーマを創っていきましょう。あたたかく、気さくに語り合い、研究だけでなく、時には遊ぶ時間も共有できる、そんな居心地の良い研究室を私自身は思い描いています。
また、私はワークライフバランスを重視しています。実現は少し難しいこともありますが、休むときはしっかり休み、平日の日中に効率的に仕事をするように努めています。育児にも率先して参加しています。そして、有意義な研究生活も過ごしていると自負しています。ですから皆さんが、研究もサークル活動もプライベートも全力で楽しめる環境が理想です。
「よく遊び、よく学べ!」やる気があれば、もちろんどんな学生もウエルカムです。どうぞ気を使わずに気軽にメールを下さい。ぜひ一度研究室に遊びに来て下さい。
2018年5月 毛内記
人を知る者は智なり、自らを知る者は明なり (老子)
生物学の勉強が将来何の役に立つのか?何か直接的な資格の取得には結びつかないかもしれません。私は、生物や生命科学を研究することは自分を知ること、見つめ直すことだと思っています。
生きているとはどういうことだろう、死んでしまうとはどういうことだろう。
生命科学の勉強や研究が、皆さんの人生観が一変するような体験になって欲しいと願って止みません。
今すぐ応用に結びつかないかも知れませんが、50年後100年後の人類の役に立つかもしれない、そんな期待を抱いて基礎研究は行われています。ぜひ広い視野で、長い目で、腰を据えて生物・生命科学の勉強・研究を楽しんで欲しいと思います。そして皆さんが卒業する頃には、家族や友人に基礎研究の素晴らしさを嬉々として語ってもらえたらこれ以上の喜びはありません。
2018年4月 毛内記
高校時代、私はボランティアクラブの活動の一環で特別支援学校の運動会に参加し、同年代の重度知的障害者と呼ばれる人たちとふれあう機会がありました。そこでとても感動したのは、彼らの運動機能や喜怒哀楽などの基本的なことは何一つ変わらないということでした。同時に、知的障害者と健常者は紙一重の違いでしかないことに非常に愕然とし、これまでの人間観が一変するような感覚を抱いたことを今でも覚えています。
「知性とはなんだろう、ヒトを人間たらしめるものはなんだろう。」
色々な書物に答えを求めましたが、最終的に至った結論は、答えがあるとしたらそれは脳の中にあるに違いない、自分自身でその謎を解きたい、と思うようになりました。
私は、教育というのはこのような「個々の人間観を揺るがす体験」であると思います。教員が学生に教科書や論文の読み書きを教えたり、実験の技術を継承したりすることは、学生が「自ら道を見つけ、夢を実現する」手助けをするに過ぎません。例えば、私が中でも自然科学研究を通じて伝えたい事は、生命現象の美しさに対する感動や興奮です。「世界でこの生命現象を見ているのは今自分だけである」という、あの発見の興奮や感動を一人でも多くの学生に味わって欲しいと考えています。そしてそれが「人間観が一変するような」体験になってくれることを願って止みません。
昨年、定年退職された私の大学時代の恩師は、22年間の教員生活で350人余りの学生の卒業研究を指導し、その一人一人の名前とエピソードを覚えているといいます。そして、様々な分野で活躍する教え子こそが自慢であると嬉しそうに語る姿が最も印象的でした。単なる教員と学生という機械的な関係ではなく、一人の人間として向き合う恩師の姿勢を、私も受け継いでゆきたいと思っております。
現在、日本の基礎科学研究は風前の灯です。基礎科学研究が何の役に立つのかが世間から疑問視されている現状は、基礎研究がなぜ重要で、何の役に立つのかを平易な言葉で解りやすく説明してこなかった、ひとえに私たち研究者の責任であると思います。我々が行なうべき専門教育は、学生に対する講義にとどまらず、アウトリーチ活動や市民講座、プレスリリース等を通じて、国民に対して広く、基礎科学研究を行なうことがなぜ重要で、それが何の役に立つのか、そのヴィジョンを伝えることであると思います。学生たちが大学を卒業し社会で活躍する際に、基礎研究の面白さや重要さを家族や友達に喜々として語れるような学生生活を送ってほしいと思っています。それが日本の基礎科学研究や社会に対して私が成しうる貢献であると考えております。
2017年9月 毛内記
先日 (2016年3月)、定年退職された私の大学時代の恩師は、22年間の教員生活で350人余りの学生を指導し、その一人一人の名前とエピソードを覚えているといいます。そして、様々な分野で活躍する教え子こそが自慢であると嬉しそうに語る姿が最も印象的でした。私もこれから約30年間の研究人生で一体どれだけの人々と出会うことができるだろうかとワクワクしています。これまで後輩や学生の指導を行ってきて、当たり前のことですが、一人一人個性があり、興味や考え方、感動するポイントが異なるということを改めて実感しました。単なる教員と学生という機械的な関係ではなく、一人の人間として向き合う恩師の姿勢を、私も受け継いでゆきたいと思っています。研究テーマや共に研究する仲間との出会い・交流を通して、生命や人間に対する理解を深め、知を追求する喜びや感動を共有できるような研究・教育を行って参りたいと考えています。
若い研究者や医師を育成し次世代に繋げることで、子どもたちが笑顔で幸せに暮らせる未来社会に貢献してゆきたいと考えています。生命科学の研究を通じて、生命の尊さや驚きや感動を伝えてゆきたいと考えています。より具体的には「世界でこの生命現象を見ているのは今自分だけである」という、あの発見の興奮や感動を一人でも多くの学生に味わって欲しいと考えています。そのためにはまず、教員が研究を楽しむ姿勢を見せることが教育の原点にあると思っています。また、公開講座や学校訪問などのアウトリーチ活動によっても社会に還元してゆきたいと考えています。
2016年4月 毛内記