合気の舞

 「合気の舞」とは、当道場独自の鍛錬法並びに一人稽古法のことです。


 この稽古法は、一見舞を舞っているようなゆっくりとした鍛錬法なのですが、注意点を順守し、キッチリと正確に行うことで徐々に技の威力とキレが顕著に増加します。


 合気道は、その機能美から「舞の武道」と呼ばれて久しいですが、実際に舞を舞うように丁寧かつゆっくりと稽古することで、理合の習得、下半身の鍛錬、丹田を中心とした力を発揮する回路(雷動)の育成、さらには無心に至ることで心眼が開けるなどの効果が生じます。


 そして嬉しいことには、健康の増進、生命エネルギーの補充、ストレス解消にも大きな効果が生じ、かつそれぞれの体力に合わせた稽古が可能です。継続することで実際に丹田から活力が湧いてきて元気になり、やる気が増幅されます。


 参考までに、合気道界の生き字引と言われ、合気会本部道場の精神的支柱であった故奥村繁信師範は、少子高齢化社会の到来を見越して下記のように述べています。


「僕は大正11年生まれで今85歳です。こういう高齢化社会になってくると、死ぬまで続けられる体育方法が要るのです。一等とか二等とか何分何秒とか、勝った負けたというのは35から40歳までなんですよ。みんな体力の限界でね。ウォーキングとか武道の型とか、マイペースでできるのをやれば、70、80、90と、死ぬまでできるんです」、


「だいたい試合をやるものは35、36歳でストップですよ。生涯続けられるようなもので、どういうものがいま盛んかというと、勝敗のないもの、一等、二等に関係ないもの、(他人との)競争のないもの、ジョギングだとか、マイペースでできるものですね。生涯体育というのは、これからウェイトが置かれると思いますよ」、


「いま合気道がここまで広がったのは、試合がないからなんですね。我々にはナンバーワンはでてこないけど、オンリーワンはでてきますよ。結局『自分に勝った人』ですね。たとえば座禅をやる人、あなたの座禅は一等であなたのはビリということはないでしょ。等級なんてつけられない。さぼらずに10年20年もやったということはそれだけのものをもっているわけですから、オンリーワン。合気道はオンリーワンになればいい。合気道はオンリーワンをつくる修行だね。そこが哲学の相違です」、


「長寿社会といっても、ただ長く生きるのではなく、健寿でなければいけない。80歳まで点滴と酸素マスクだけで生きてたというんじゃなくてね。選手になると怪我をしたり、利き腕、利き足ばかりを使ったりしますが、合気道はどうですか、左10回やったら右10回と、かたよることがない。それにスポーツというのは、勝敗にこだわり、負けるとくやしくて頑張って無理をするから健康によくない。だからマイペースでできるものがいい。学生のうちはいいけど、70、80になって負けてくやしいなんてやっててもあほらしいでしょ‥」


 合気道は生涯武道です。他人と比較せずにマイペースで稽古が可能です。この素晴らしい合気道をもっと身近なものにしたい‥、いつ、どこでも簡単に稽古ができ、しかも健康増進・気力増幅が図れるものにしたい‥、そのような思いから研究と実験を重ねてまいりました。


 この合気の舞は、 「楷・行・草」、「大・強・速・軽」、「序・破・急」などに応じて、身体を傷めず・壊さずにそれぞれのペースで稽古が可能です。激しくも穏やかにも自由自在に稽古できます。私は「蠅が止まるくらいにゆっくりと」、「気分にまかせて優雅に」、「メリハリつけて素早く」の三段階をその日の気分で使い分けています。


 そして最終的には、俗世間を離れて非日常の世界に遊ぶことで、それぞれの壺中の天として生かすことが可能です。


 私はこの合気の舞を新たな稽古法として活用することで、合気道の普及と振興に貢献できるのではないかと思っています。


 なお、子供向けではありません。学生さんにも不向きでしょう。どちらかというと多忙を極めるストレスを抱えた社会人、シニア世代の方、健康と美容を大事にする女性に向いています。


 佐土原道場時代から試行錯誤しながら8年ほどかかりましたが、ようやく体系化出来ました。時期を見て、これから少しずつ明らかにしていきたいと考えています。



◇「合気の舞」の概要

<基本~応用について>

1.正座にて正しい姿勢を学びます。そのまま呼吸法を行います。


2.気を付け(直立不動の姿勢)の姿勢にて正しい姿勢を学びます。

※正しい姿勢が、その人の最大限の能力を発揮する鍵です。


3.「合気道の構え」にて正しい姿勢を学びます。

※膝落に丹田活用の極意あり。


4.各種呼吸法を行い、心身の活性化させ、生命エネルギーの補充を行います。

※当会には3種の養生呼吸法があります。


5.正しい姿勢を維持しながら、舟こぎ運動(天の鳥舟)や魂振りなどの鎮魂法、四股などで丹田に力を集中させます。

※丹田の意識・感覚が非常に大事です。

※全ての技は丹田を中心に行います。初動は全て丹田から行います。


6.身体の中心を貫く3種の軸である縦軸、横軸、前後軸の交わる接点が丹田です。丹田を活用できる身体運用法を身に着けるため、この3種の軸を動かす身体運動を行います。


7.正しい姿勢と丹田の充実感を維持しながら歩法を行います。


8.正しい姿勢と丹田の充実感を維持しながら一教運動などの鍛錬運動を行います。


9.正しい姿勢と丹田の充実感を維持しながら、転換・回転・入身・転身などの体捌きを行います。


10.四方の舞、八方の舞を行います。

※四方、八方に敵を想定し、その敵攻撃をゆっくりと捌き、気を配りながら舞います。


11.初心者は、正しい姿勢を維持しながら、「正面打ち一教の舞」、「横面打ち二教の舞」など、基本技をイメージしつつゆっくりと呼吸しながら舞を舞うように技を行います。

※姿勢を低く行うと体力増進に効果があります。体力に応じて姿勢の高低を調整しましょう。

※この段階では、大きさを求めて技を練り上げましょう。


12.中級者は、正しい姿勢と丹田の充実感を維持しながら、それぞれの課題の技をイメージしながらゆっくりと呼吸しながら一挙手一投足に気を配り、一人で舞を舞うように技を行います。何回かに1回程度はスピードを上げて行います。

※武術としての理合が伴っていなければただの踊りです。この段階で武術として必要不可欠な理合を習得しましょう。

※この段階では、強さを求めて技を練り上げましょう。


13.上級者は、正しい姿勢と丹田の充実感を維持しながら、最強の敵が攻撃するイメージを描きながら、その攻撃を体捌きでかわし、いなし、崩し、ゆっくりと呼吸しながら一挙手一投足に気を配り、一人で舞を舞うように技を行います。「蠅がとまるくらいゆっくり」、「少し早く」、「メリハリをつけて」、これに若い人は「全力」をプラスし、その日の気分や体調に応じて実践します。

※刀の焼き入れ作業の如く、技と身体にビシッとした焼き入れを行います。

※この段階では、速さを求めて技を練り上げましょう。


14.最上級者は、合気道開祖植芝盛平先生が神楽舞(宇宙の舞)と称してふわふわと舞っていたようにひたすら無心で行います。

※この段階では、軽妙さを求めて技を練り上げましょう。

※時と場合によっては、扇、鉄扇、短刀、小刀、太刀、杖、短槍などを手にして行っても一興です。


<連続技・単独技について>

1.居合道の演武のように構えからスタートし、一つ一つの技毎に初めは正確に、ゆっくり、大きく行い、技を覚えたら、メリハリをつけて行います(単独技)。


2.単独動作を覚えたら、前後左右の四方に舞います。


3.次に前後左右斜めの八方に舞います。


4.特に方向は定めずに数種類の技を選択し連続して行います(連続技)。


5.特に技や方向を定めずにひたすら無心で舞います。


<剣の舞、杖の舞>

木刀、杖、居合刀、真剣等を用いて行います。