四段審査論文Ⅳ

「初心者の指導法」

 宮崎合気道会 松元 麻美

 合気道は、老若男女、いつでも誰でも始めることができるものである。ゆったりとした円運動をイメージするだろう。しかし、実際は、日常生活や学校体育などで取り組む現代スポーツにはない動きを伴う全身運動である。そのため、初心者が合気道に取り組むとき、指導するうえで以下の3点に注意して指導を行いたい。

1.安全の確保

 何をおいても注意すべきことは、稽古中の安全を確保することである。安全を確保するためには、まず、受身の習熟である。日常生活の中で受身をするときのように転ぶことはまずなく、誰しも最初は転ぶことに抵抗があり、恐怖心がある。最初は、後ろ反転受身の稽古から行い、しゃがんだ低い姿勢からお尻をつき、背中を丸めてへそを見ながら転ぶことを身に着けさせる。特に、へそを見ながら転ぶことを意識させ、頭を打たないように習慣づけたい。背中を丸めて転ぶことに慣れてきたら後方回転受身、後方回転受身に慣れてきたら前方回転受身というように、段階を踏んで少しずつ転ぶことに対する恐怖心を取り除きながら稽古していけるようにしたい。

 また、周囲の安全の確保も指導する側が注意する点であると考えられる。初心者は個人の稽古に集中するあまり、周囲の人との距離などがつかめなかったり、受身の稽古でも方向が一定しなかったりすることも多い。人や壁などにぶつかって怪我をすることがないように、しっかりと見守りをする必要がある。技の稽古においても、初心者が受け、取りどちらの場合でも、投げ技の後の受身のスペースがあるか、正しい受身の姿勢になっているかなどを指導者側が丁寧に確認しながら稽古をしなければならない。

2.運動量の確保と調整

 合気道を始める理由は様々であるが、運動不足の解消やダイエットなどが理由である人も多いものと考えられる。合気道の動きはゆったりとした円運動で、見た目には激しい運動には見えないが、実際の運動強度は高いものである。特に受身は全身を使うため、思っている以上に体力を要する。初心者との稽古を行う中で、受身の稽古ばかりにならないよう、並行して基本動作(体捌きや打ち方など)の稽古を行い、適度な運動量になるようにする。受身の稽古ばかり多くなると大変疲れるし、基本動作の稽古ばかりになると運動量が少なく感じられる。受身と基本動作の稽古を交互に行う、基本動作を利用した簡単な技の中で受身の稽古をするなどして、気分を変えながら稽古に取り組み、汗をかいて爽快感を感じられる程度の運動量を確保できるようにしたい。

3.「楽しい」気持ち

 合気道を始めたばかりの頃は、慣れない動きや言葉が多いため、「できない」「覚えられない」という気持ちが生まれやすい。そのような中で長く合気道を続けていただくためには、「稽古が楽しい」と思っていただけるようにすることが大切である。初心者であるからといって、受身や基本動作の稽古ばかりでは飽きてしまう。また、同じ人ばかりがずっと指導をしていると、他の稽古者とのコミュニケーションの場が少なくなり、孤立感を感じたりすることもありえることである。そこで、受身や基本動作の稽古の時でも、他の稽古者が相手を変えるときに指導者が入れ替わるなどして、同じ人と1対1での稽古にならないように気をつけたい。また、ある程度の段階で、基本動作を使った簡単な技を稽古しながら他の稽古者の中に混ざって稽古をする時間を設け、早い段階で多くの方とコミュニケーションがとれるようにしたい。その中で様々な技に触れ、他の稽古者との会話が弾むなどして「稽古が楽しい」と感じてもらえるようにしたい。

 初心者の指導を行う上での注意点を上記の通り3点挙げたが、自分自身が指導する際に、この3点がきちんとできているかというと、まだ不十分な点が多いと感じている。これから、多くの方に合気道を長く続けていただくために、今後より精進し、上記3点を意識した丁寧な指導が行えるようにしていきたいと考えている。