1.1 概要(§1.1)

FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources、ファイア)は、保健・医療のプロセスに関する情報交換で使用される、一群のリソース(情報素材)を定義します。リソースの特徴は:

  • 最小業務単位 − リソースは、業務の最小単位で切り出され、それ自身で完結した情報交換の対象となっています。
  • 独立性 − リソースの内容は、他のリソースを参照することなく単独で理解できるようになっています。
  • 接続性 − 情報を重複なく再利用できるように、リソースは他のリソースを参照できるようになっています。
  • 簡潔性 − それぞれのリソースは容易に理解でき、実装に特別なツールやインフラを必要としません。(ただし、それらの利用を選択することは可能です。)
  • RESTful対応 − リソースは REpresentational State Transfer (REST) を活用するいわゆる RESTful 環境で利用することができます。
  • 柔軟性 − リソースは、メッセージや SOA アーキテクチャーのような、他の環境でも利用することができ、柔軟に RESTful 環境にインポートしたり、そこからエクスポートしたりできます。
  • 拡張性 − リソースは、相互運用性を損なうことなく、ローカルな要求に対応するために、拡張することができます。
  • Web対応 − 適用可能な限り、データの表現にはオープンなインターネット標準が用いられます。
  • 無償で利用可能 − FHIR は、それ自身オープンな仕様で、知的財産権に縛られることなく、誰もが実装でき、関連する仕様を派生させることができます。

基本となるリソースの定義に加えて、FHIR では、RESTful環境、メッセージ交換、主に人が読む前提での診療文書およびエンタープライズSOAアーキテクチャーにおける、これらのリソースの利用をサポートする軽量な実装フレームワークを定義しています。それぞれの手法にはそれぞれの利点があり、FHIRは、これらの実装手法のうちからひとつを選ぶのに伴う負担をなくし、保健・医療機関が、他の実装手法との相互運用性を犠牲にすることなく、目的にあった情報交換の実装手法を選ぶことができる状況を提供します。

リソースは、簡潔で理解しやすく定義されていますが、徹底した世界中の現場からの要求事項収拾と公式なモデル化プロセスに裏打ちされているため、リソースのコンテンツは安定性・信頼性の高いものとなっています。リソースのコンテンツは堅牢なオントロジーを下敷きに(RDFを含む)計算機処理可能な言語で記述されているので、リソースの定義やコンテンツは、計算機による分析や変換プロセスを通じて、更なる応用が可能です。

FHIRは、さらに、コンフォーマンスのための基盤となるフレームワークとツール群を提供することで、異なる実装環境や保健・医療機関において、リソースの前提条件や利用方法を正式な計算機処理可能な方法で記述することを可能にし、コンフォーマンスと機能定義の両方のフレームワークを活用した計算機による自動処理での相互運用性を実現します。

リソースと、3層からなるサポート階層(実装フレームワーク、定義の完全性、コンフォーマンス・ツール群)が合わさって、保健・医療のデータを軛から解き放ち、フォーマットやセマンティックスの相互変換のハードルで阻まれることなく、必要なところ(病院の基幹業務システム、モバイル診療情報システム、クラウド形式のデーターストレージ、国レベルの保健情報レポジトリ、研究用データベース等々)に滞りなく行き渡る事を可能にします。

他のどんな手法と比べても、FHIRは[実装者の心に、よりいっそう火(ファイア)を点けずにいられないでしょう。](註:[]には、提唱者により、何かFHIR FIREに関する洒落を入れることが義務づけられています。)

FHIRのロードマップ(§1.1.1)

FHIRの仕様書は、入門編、実装編、リソース編の三編からなります。

入門編(§1.1.1.1)

入門編では、リソースを理解し、利用するために必要な、基本的な内容を解説します。

  • FHIRの紹介:FHIR全体の概要、関連情報へのリンクおよびFHIR のライセンスについて
  • ロードマップ:この文章
  • リソース定義のフォーマット:仕様全体に関する説明と、全てのリソースに共通するフォーマットとその記述形式
  • データタイプ:保健・医療全般で繰り返し登場し、リソースで用いられるデータ表現のパターン
  • コードの使用法:FHIRでのコード(コード形式、用語、分類、オントロジー)の扱い方
  • 拡張性:リソースの拡張部分についての説明と、その使用方法に関するルール
  • リソース・プロファイル:リソースの特定のコンテクストでの使用法のプロファイルを使った記述方法

実装編(§1.1.1.2)

実装編では、リソースが様々なコンテクストでどのように使用されるかについて説明します。

  • 実装の概要:リソースおよびスキーマ集や実装サンプルなど参考情報を使用する際の要件
  • REST(HTTP):軽量のHTTPベースの実装手法でのリソースの使用方法の定義
  • メッセージ交換:HL7 v2 に相当する単純な要求/応答によるメッセージベースでの情報交換フレームワーク
  • ドキュメント:人が読めるとともにコンピューター処理もでき、ひとまとまりとして送受信および署名できる、認証された内容を含む診療文書(CDA と同等)
  • エラーと警告:RESTful、メッセージ交換あるいはSOAでの操作が失敗した時、障害が起こった時に、その問題がどのように伝達されるかの記述
  • hDataとの統合:hData RESTful サービスにおけるリソースの使用方法についての説明
  • Atomフィード:一連のリソースをまとめて、バンドルと呼ばれるグループとして、ひとつのXML文書に収めてやり取りするために使用される Atomフィード
  • JSONフォーマット:リソースをJSON形式を使ってシリアライズする方法の説明
  • バリューセット:プロファイルとともにリソースのコンテクストを規定し、他のコンテクストでも使用可能な一群のコードを記述するリソース
  • コンフォーマンス:アプリケーションがどのように FHIR のリソースを使用するか、使用できるか、あるいは使用すべきかを記述するリソース
  • セキュリティ:FHIRを使うにあたってのセキュリティの検討事項についての簡単な議論

リソース編(§1.1.1.3)

リソース編では、リソースの定義を列挙します。

  • リソース一覧:現在定義されているリソースの一覧
  • アルファベット順の各リソース解説

各リソースについて、以下のページが提供されます。

  • コンテンツ:リソースのコンテクストを規定し、シンプルなXMLフォーマットでリソースのコンテンツを定義し、追加情報を記述します。W3Cスキーマやその他の正式定義も提供されます。リソースに関連するイベントや検索基準も記述します。
  • 実例:リソースの使用例を提供します。
  • 形象的定義:他の標準規格やオントロジーへのマッピングも含めたリソースの各要素の完全な形象的定義の一覧表です。
  • 設計メモ:リソースの表面に現れていない点の解説と、リソースが特定の構成方法を採用している理由についての説明で、リソースによっては設計メモのないものもあり、実装者は読む必要のない項目です。
  • プロファイル:標準規格の一部として提供される、リソースのプロファイルの一覧です。プロファイルは、リソースの使用に関わる事項を実例を挙げて説明するためや、標準ブロファイルを要するほど特定の共通した使用方法がリソースにある場合に提供されます。

FHIRのコミュニティー(§1.1.2)

FHIRのコミュニティーは、より広い HL7 のコミュニティーの中にあって、定期的に会合を持ち、その人脈、ノウハウ、過去の標準規格および所属企業・組織の力を活用しています。HL7 は FHIR の管轄者としての権限でその自由な使用を許可し、FHIR のコミュニティーは HL7 の提供するインフラストラクチャーに依拠しています。

FHIR のコミュニティーが利用している主要な HL7 のサービスとしては HL7 WikiFHIR メーリングリストが上げられます。さらに FHIR コミュニティーは HL7 のワークグループミーティングで定期的に実際に顔を合わせています。FHIR の開発を管理する正式なガバナンスの取り決めの文書は(どこにおくべきか未定で、これは懸案事項です。)

FHIR の仕様を記述したウェブページには、それぞれ、より広範なコミュニティーからのインプットを管理する Wiki のページへのリンク Community Input が用意されています。FHIR の仕様をより良くするため是非ともコメントをお願いいたします。

EHR機能モデル(§1.1.3)

EHR機能モデル(EHR Functional Model、EHR-FM)は、電子診療記録(Electric Health Record)システムに含まれる機能の参照リストです。FHIRは医療における情報交換に的を絞って実装されますが、その情報交換の多くはEHRを前提とした文脈で発生します。下表は、FHIRを用いてどのようにEHR-FMに記載された要件を満たすことができるかの一例を簡潔に記述したものです。これはFHIR仕様書を読む際にFHIRの使い方を理解することを助けるためのもので、適切なEHR-FMの実装方法やFHIRの使用方法は、ここに記述されたものに限りません。

EHR機能モデルは、システム間のインタラクションについて、いくつかのモードを記述しています。それぞれは FHIR を用いて幾通りかの違った方法で実装できます。

適切なセキュリティ管理のされた FHIR サーバーと、SecurityEvent および Provenance リソースの厳格な使用とを組み合わせることによって、EHR 機能モデルで定義された以下の重要な記録管理機能を満たすことができます:

  • 生涯にわたる/保管期限を満たす、情報源、原本情報および認証情報を含む、参照および情報交換歴を含む監査証跡
  • デジタル署名を含む記録の正確性と完全性の保証
  • 各時点でのコンテンツを保持した完全な履歴
  • 保存性と永続性

注意:FHIR は、正式な HL7 標準として投票される以前の、現在開発中のドラフト仕様です。

実装者がここで定義されている内容での試験実装を行うことは歓迎されていますが、内容が事前の通知無しで変更される可能性があることを明記して下さい。

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