馬(まー)らいお
安倍政権の横暴はいうまでもなく、家でじっとしていられずデモに行く。大阪で初めて行く安保法案反対のデモで、集合場所のうつぼ公園につくと「SADLの方は右、SEALDsの方は左、アダルトの方は後ろへ進んでください」と若い子が叫んでいた。私は30代であり、このくくりだとアダルトか、、と思ったけれど、後ろの方はなんだかどんよりしている、、前のほうは明るい、、いや、眩しい。でもどちらもなんだか行きづらい、と思って眺めているうちに入るタイミングを失ってしまった。結局並ばずに出発していく人々を見送り、なんとなく入れそうなところに紛れ込んだ。体力的に全部歩くのは無理だったので、最初の方だけ歩いて、後は沿道で皆さんを見送った。
見送っていると、いろんなカラーがある。若者主催だから最初は若く、コールもアップテンポだったりするが、途中で先輩方の渋いコールが聞こえてくる。ジャンベやサックスなど、楽器中心の人たちもいる。けれど、集合場所では挙っていた、色とりどりの組合の旗はデモの最中は下げられていた。主催者の方針らしい。いつも威勢良く降られている赤と黒の旗もたたまれて、棒だけが見えた。そして、おしゃれで、しゅっとした害のなさそうなプラカードだけが目立つ。水色と白、天気のいい日に空に浮かぶ雲のような、青い海にうかぶ穏やかな波のような、そういう観光コマーシャルのようなプラカード。「そうだ、南の島へ行こう」とか書かれているような。英語とおしゃれなロゴのついた、渋谷で売ってるTシャツのイメージ。そういうプラカードばかりになっていた。段ボールにマッキーで文字を書いた手製のプラカードを持つ自分が、なんだか浮いた存在のように思える。
そういえば、その前に京都で参加したSEALs関西のデモでもデモ隊の先頭の方はおしゃれで同じようなプラカードばかり、後ろに行くにつれてだんだんコールは遅くなり、プラカードは多様になり、手製の主張の強い、なんだかいっぱい過剰にメッセージの書いてあるプラカードに、且つ雨対策でサランラップがぐるぐる巻きになっていたりするものを見たりもした。若者たちはラップ調にリズムにのって「安倍はやめろ!」と言っていたのに、後ろにいくにつれて、ゆっくりとドスの聞いた声で「あーべをたーおせー」と黒い空気がただよってくる。そのコントラストが面白かった。
その後、最近のデモでは左翼排除の動きがあって、組合旗などは下げさせられるし、左翼だとわかるとヘイトスピーチがあり、デモ隊に入ることを阻止されるようなこともあると聞いた。だからSEALsがだめだ、とかいうつもりはなく、SEALsというより周りの人々がいろいろやっていることもあるだろうし、その細かい話はここではおいておくとしても、やっぱり管理は行き過ぎるとつらい。けれど連帯したい。だから、行く時に何を持っていこうかと考えた。そういえば、誰か有名そうな画家が今回の運動には、60年安保の時と比べて、芸術の発明が足りないというようなことを言っていた。資本主義的なコマーシャリズムに毒された、しゅっとした代理店的デザインじゃなく、でも主催者にそれは下げてください、と言われないような、それでいて自分に嘘をつかなくてよいような、、
そうだ、馬だ、馬にしよう。とこないだテント芝居を見に行って、演者が馬の頭をふって踊っているのを見て思った。馬といっても、あんまりちゃんとした馬ではなくて、馬だかなんだかわからないような感じで、でもなんか気迫があるような、祈りが乗り移るような。そういうなんだかわからなくて判断できないちょっと不気味なもの、と思ってデモ前に段ボールとはぎれで、せっせと馬の頭をつくった。演劇だ、祭祀だ。
結果、馬をふりながら歩いたらデモ隊の人や外の人、いろんな人が指を指して、だいたい笑ってくれた。取材も受けて、記者になんで馬なんですか、と聞かれ「いや、特に意味はないです、、」と答えたら、隣で同行者が「いや、戦争に巻き込まれるのは人間だけでない、ってことでね」と答えていた。そうか、ぜんぜんそんなこと考えてなかったけど、もうこの馬は私の手を離れて走り出した。そうやって勝手にいろんな人が解釈してくれることで、人波をかけぬけていく本当の馬になった。