Popular Songs

1 吟遊詩人の挨拶(1) A Minstrel's Greeting

Balliol College, Oxford. MS 354, f. 251v

こんにちは。こんにちは、皆さん。

私はやって来ました、

儀式の行われるこの家に。

ここに、私を歓迎してくださる

ご親切な方はいらっしゃいますか。

もしおいでなら、その方がおっしゃることを聴くために

お近くに行きたいと思います。

え、お断りになるのでしょうか。

慈悲深い聖母マリアにかけて、

・・・・(2)

きっとあなたは楽しく歌ってくれるでしょう

こんにちは。

陽気にしてください、旦那様方、

私は一人でやって来ました

皆さんお一人お一人にお聞きするために。

拒むお方はどなたでしょう。

旦那、いかがでしょう。

歌ってください、どうでしょう。

さて、今日ですか、それとも

他の日になさいますか。

こんにちは。

さあ、この方がやってくれるでしょう。

調子を整えています。どうぞ気を付けて。

鼻血を出さないように優しく歌ってください、

身体を傷めないように。

だけど、私の魂を救済してくださった神に誓って

あなたの胸は詰まっているので

咳でよく出してしまわないと

それを取り除くことはできないでしょう。

こんにちは。

旦那、痩せたお顔のあなた、いかがでしょうか。

あなたはテノールもトレブルもその中間も歌えません。

胸をきれいにするまでは声を出さないように、

どうかお願いだ。

あなたのことは免除しましょう、

あなたはお断りです、

これまでにどんな遊びや余興にも

貢献したことはないからね。

こんにちは。

旦那、ふくよかなお顔のあなたはいかがでしょう。

あなたは良いバスのお声をお持ちだと思いますよ、

エールや香料入りワインを一杯飲んでね、

ちょうど私のように。

顔を上げてください、

あなたは鉛のように見えますよ。

毎日毎日いつだって、

パンを食べすぎですよ。

こんにちは。

さて彼が後ろに立っているのが見えますか。

本当に、いまいましい、あなたは不親切だね。

前へ来て、私と一緒に歌いましょうよ、

あなたは歌手と呼ばれてきたのだから。

さあ、恥ずかしがらずに。

とがめられることはないですよ、

あなたには評判があるからさ、

この国で最悪だってね。

こんにちは。

(1) The Oxford Book of Medieval English Verse, Chosen and Edited by Celia and Kenneth Sisam(Oxford: Clarendon Press,1970) では “A Call for a Song”というタイトルが付けられている。

(2) 1行欠損。Sisamは “And her swete child,”と補っている。

(浅川順子 訳)


2 祝宴への招待 その一

Balliol Coll. Oxford MS. 357, f. 223v

さぁ皆で陽気に楽しもうじゃないか

だって今はクリスマスなのだから

誰もこの大広間に入れてはいけない

従者、近習、家扶も

余興を持ってこないのであれば

だって今はクリスマスなのだから

もし歌えない人というのなら

他の余興をもってこさせよう

そうしたらこの宴が楽しくなるのだから

だって今はクリスマスなのだから

もしも何もできないという人がいるなら

もう何もお願いすることはありません

森にお帰りなさい

だって今はクリスマスなのだから

(岡本広毅 訳)


3 祝宴への招待 その二 Invitation to Festivity II

BL. Addit. MS. 14997, f. 44v

さぁ、楽しいクリスマス(1)がやって来ました。

最高に愉快なお祭り騒ぎ。

どこへ行こうとそこらじゅう、

間違いない!飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。

ちょうど使いの者がやって来ました。

あなたの主人からです。新年様。

我々みな陽気にここで

思う存分楽しむようにとのことです。

だからこの場にいるみんなで

思いのままに歌いましょう。

知らないのなら教えましょう。

さぁ、楽しく行きましょう。

つまらなそうにしている輩なんて、

そんな奴はいりません。

溝にでも落ちてしまえばいい。

朝まで服でも乾かしていればいい。

薪を焼べてください、楽しみましょう。

給仕係様、酒はなみなみとついでくださいよ。

仲間同士で乾杯しましょう。

私の歌はこれでおしまい、悩みもどこかへ行ってしまいましたよ。

(1) 現代とは異なり、ここではクリスマス・イブ (12月24日) から公現祭 (1月6日) までの期間を指す。

(貝塚泰幸 訳)


4 心染まぬ吟遊詩人 An Unwilling Minstrel

BL. Sloane MS. 2593, f. 31v

私めがうたいましたなら、あなた様はお責めになり、

気がおかしくなったと思われることでしょう。

ですから嗄れ声ですが短い歌をうたいましょう。

早くお仕舞いにしたほうがよろしいのです。

ではこの陽気な歌にいたしましょう

そうして皆様方をお喜ばせいたしましょう。

誰方もなさらないうちに私めがうたいます、

どうぞ、楽器の調子をあわせてくださいまし。

本当に歌えないのでございます、申すとおり―

思ったように声が出てくれないのでございます。

ですが、調子がよくなりましたとき、

是非またの日にその機会をと存じます。

(多ヶ谷有子 訳)

5 吟遊詩人のおねだり歌 A Minstrel's Begging Song

BL. Sloan MS. 2593, f. 10v

貴(あて)なる皆様、拍手をば。

たくさんの鳥が木にとまっているのを見たんです

鳥たちゃ飛び立ち行っちゃいました

それに私は「ごきげんよう」と言ったんです

カササギの羽根は真っ白で ―

私ゃこれ以上は歌えませんよ、唇がこんなに乾いてます

白鳥の羽根は真っ白で ―

呑めば呑むほど、まともじゃいられません

火に小枝をくべて下され、もっとよく燃えるように

すぐにお酒を飲ませてくだされ、私らがここを発つまえに(1)

(1) 注では、Robbinsは「このナンセンスな詩は最後の行の強調のために特別に作られたのだろう」と述べている。

(原田英子 訳)


6 頼む、もう一杯 A Plea for Another Drink(1)

BL. Addit. MS. 14997, f. 39v

ざっくばらんに言うとなあ、アグネス・テイラー おかみさん、

おれたちゃ楽しみがありそうもねえんだ。

あのな、おかみさん、あんたとこのドアの錠を開けてくれよ。

ああつらい、おれたちゃ一滴の酒もねえんだ!

友よ、たとえおれたちゃ上等のうまいワインのために、

神かけて、よほど借金があるとしても、

一パイントマグじゃあ量は足りねえ。

昔はおれはたらふく飲んだ、今も飲みてえよ。

(1)The Book of Medieval English Verse, Chosen and Edited by Celia and Kenneth Sisam (Oxford: Clarendon Press, 1970)では‟At the Tavern”というタイトルが付けられている。

(笹本長敬 訳)


7 吟遊詩人とその商品 The Minstrel and His Wares

BL. Sloan MS. 2593, f. 26v

われらは足早に過ぎる行商人、

鳥は飛び去る

われらは 猫の皮も

皮財布も、真珠も、銀のボタンも、

女性の顎隠す小さなヴェールも商っておりませんが、

お嬢さん、わたしの商品を買っておくんなさい。

わたしには即席でこしらえたポケットがあって、

中に宝石が20ほどございます。

お嬢さん、もし試しに身に着けてみたら、すぐに

わたしについて来たくなってしまいますよ。

神様がお送りになられたゼリーもございます。

足がないのに立っていられます。

手がございませんのに打つこともできます。

それが何であるか当ててみておくんなさい。

わたしはある粉を売っております。

それが何であるかは教えられないのですが、

それでもって乙女の子宮(はら)が膨れるのです。

わたしはそれをたくさん持っておりますよ。 

(狩野晃一 訳)


8 お気楽な人生 A Carefree Life

MS. Eng. Poet. e. 1 (Sum. Cat. No. 29734), f. 23v

(ああ、ああ、ああ、ああ、

至るところで恋をする。)

この世で一番楽しい人生は

女房のいない若者だ。

いさかい知らずに生きられる

どんな場所に行こうとも。

あらゆる所で好まれる

貴賤を問わずご婦人に

踊りにパイプにホッケー遊び

どんな場所に行こうとも。

旦那のことは気にしない

ボールを追っかけてるうちは

若い男に惚れちまう

どんな場所に行こうとも。

そしてこう言う「じゃあねジャック、

あんたの愛はかばんに詰められ

背中に愛をしょってるの

どんな場所に行こうとも!」

(杉藤久志 訳)


9 亡き恋人への祝杯 A Toast to His Lost Mistress

MS. Rawlinson D. 913, Oxford (Sum. Cat. No. 13679)

この町に、

エールかワインがあるのなら、

私はそれを買おう、

愛しい人のために。

おこがましいにも程がある、

私の愛する人を傷つけようだなんて。

たとえ、その男がノルマンディーの

王子であっても、

復讐をするのだ、

愛しい人のためならば。

そして、私は呪われ、

苦悩した。

愛する人を失った男と

同じように。

貴人であれ、学者であれ、

私には、もうできることはない!

彼女を、恋人だったあの人を、

キリスト様に委ねることの他には。

(玉川明日美 訳)


10 酒宴の歌 A Drinking Song

MS. Arch. Selden B. 26 (Sum. Cat. No. 3340), f. 25r

言は肉となって、

わたしたちの間に宿られた。

喜んで歓迎しておくれ、

お前の仲間に乾杯しよう、

酒を注げ、

さあ、大いに歌おうではないか!

(足立峻一 訳)


11 酒を飲むための輪唱3部 A Three-Part Catch for Drinking

MS. Arch. Selden B. 26, Oxford (Sum. Cat. No. 3340)、f. 32v

バーテンさんよ、もう一杯エールを注いでおくれ、

すぐ飲み終わっちゃったから。

神さんがうまいエールをよこしてくれればなあ。

エール・ステークを飾り付けろ、飾り付けろ、

うまいエールを見つけたぞ!

君は俺のために飲んでくれ、

俺は君のために飲もう。

そして盃(カップ)を回せ。

(狩野晃一 訳)


12 ご馳走 Good Cheer

Trinity College, Dublin, MS. 241, f. 1r

私はここにいて、ここで酒を飲んだ。

さようなら おかみさん、どうもありがとう。

私はここにいて、ご馳走を食べ、

ここでたらふくうまいビールを飲んだ

(武藤麻香 訳)


13 上等なエールを Bring Good Ale

MS. Eng. Poet. e. 1, Oxford (Sum. Cat. No. 29734)

茶色いパンはいらない。籾殻が多いから。

白いパンはいらない。興が乗らないから。

それよりも上等なエールを俺たちに持って来い。

ビーフはいらない、骨が多いから。

上等なエールを持って来い。すぐに飲んでしまうから。

上等なエールを持って来い。

ベーコンはいらない、脂がそぎ落ちているから。

上等なエールを持って来い。たっぷりと。

上等なエールを持って来い。

マトンはいらない、脂肪がほとんどないから。

トライプ*もいらない、あんまりきれいじゃないから。

上等なエールを持って来い。

卵はいらない、殻が面倒だから。

上等なエールを持って来い。他はいらない。

上等なエールを持って来い。

バターはいらない、毛が混じっているから。

小豚の肉はいらない。俺たちをブタにしてしまうから。

上等なエールを持って来い。

ソーセージはいらない、ヤギの血でいっぱいだから。

鹿肉はいらない、何の役にも立たないから。

上等なエールを持って来い。

雄鶏の肉はいらない。大体高くつくから。

アヒルの肉はいらない、池でガーガー鳴いているから。

それよりも、俺たちに上等なエールを持って来い。

*トライプ 「もつ(内臓)」のこと

(本田崇洋 訳)


14 杯一つ残らずなみなみ注ぎなさい(1) Fill Every Glass

Balliol Coll. Oxford MS. 354

さあ、執事よ!さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯になみなみ注(つ)いで、寛大な執事よ、皆に杯を行き渡らせなさい!

寛大な執事よ、よき友(ベラミ)よ、

杯になみなみ注ぎなさい、あふれるほどに、

われら一人残らず飲めるように。

さあに声合わせて、執事よ、さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯になみなみ注いで、執事よ、皆に杯を行き渡らせなさい!

ここにわれら皆のために食べ物がある、

貴種にも下種にもどちらにも。

われらはぜひあの執事を呼ぶ必要があると思う。

さあに声合わせて、執事よ、さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯になみなみ注いで、執事よ、皆に杯を行き渡らせなさい!

われはもう喉がからから、物言えぬ、

食べ物で息が詰まりそう―――

あの執事は居眠りしていると思う。

さあに声合わせて、執事よ、さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯になみなみ注いで、執事よ、[皆に杯を行き渡らせなさい!]

執事よ、執事よ、杯になみなみ注ぎなさい、

さもないとあんたの頭に悪態をあびせてやる!

われらはぜひ鐘を鳴らす必要があると思う。

さあに声合わせて、執事よ、さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯になみなみ注いで、 [執事よ、皆に杯を行き渡らせなさい!]

たとえ執事の名前がウォーター(2)であっても、

われらにもっと早く酒をもって来なければ、

あいつは極悪人になればいいのにと思うだろう。

さあに声合わせて、執事よ、さあ!皆を祝して乾杯(ベヴィス・ア・トゥト)だ!

杯に[なみなみ注いで、執事よ、皆に杯を行き渡らせなさい!]

ココニ終ワル

(笹本長敬 訳)

(1) The Oxford Book of Medieval English Verse, Chosen and Edited by Celia and Kenneth Sisam (Oxford: At the Clarendon Press, 1970)では“Fill the Bowl, Butler”というタイトルになっている。

(2) water: ‘water’と‘Walter’という名のしゃれをあらわす。

15 アイルランドの踊り子

MS. Rawlinson D. 913、Oxford (Sum. Cat. No. 13679)

私はアイルランドの出でございます。

かの汚れなきアイルランド

から参りました。

麗しゅう若様、お願いがございます。

お慈悲をもちまして、

お運びくださいまして、どうぞ

私と踊ってくださいまし、アイルランドで。

(多ヶ谷有子 訳)

16 サンザシの樹 The Hawthorn Tree

MS. Rawlinson D. 913 (Sum. Cat. 13679)

あらゆる種類の樹の中で

あらゆる種類の樹の中で

サンザシの花がいちばん甘い香り

あらゆる種類の樹の中で。

僕の恋人、彼女は当然

僕の恋人、彼女は当然

生き物のなかでいちばんきれい

僕の恋人、彼女が当然。

(原田英子 訳)

17 薔薇の傍で夜を明かして All Night by the Rose

MS. Rawlinson D. 913 (Sum. Cat. No. 13679) [Item 1, j]

夜が明けるまで薔薇の、薔薇の傍で―

朝が来るまで薔薇に寄り添って。

薔薇を盗む勇気などぼくにはなかった。

けれどぼくはその花を連れて行ってしまった。

(貝塚泰幸 訳)

18 荒野(1)の少女 Maiden of the Moor

MS. Rawlinson D. 913 (Sum. Cat. No. 13679) [Item 1, h]

少女は荒野に寝転んでいた―

荒野に寝転んでいた。

七日間ずっと、

七日間ずっと

少女は荒野に寝転んでいた。

荒野に寝転んでいた。

七日間ずっと。そして次の日も。

少女は美味しいものを食べていた。

何を食べていたと思う?

サクラソウと―

サクラソウと―

少女は美味しいものを食べていた。

何を食べていたと思う?

サクラソウとスミレ。

少女は美味しいものを飲んでいた。

何を飲んでいたと思う?

冷たい水―

冷たい水―

少女は美味しいものを飲んでいた。

何を飲んでいたと思う?

水源の冷たい水。

少女は素敵な所に住んでいた。

どのような場所と思う?

赤いバラと―

赤いバラと―

少女は素敵な所に住んでいた。

どのような場所だと思う?

赤いバラとユリの花。

(1) Moor ムア:排水の悪い高原などでヒースやシダなどが生える荒野

(本田崇洋 訳)

19 恋する男の哀願  A Lover's Plea

(楽譜つき)

  Caius Coll. Cambridge, MS. 383

私は歌って浮かれ騒いでいるけれど

好んでしているわけじゃない。

美しく高貴な私の愛する人、

私は心の中であなたに願う、私を憐れんでくださいと、

貴女を見るとき、

私が望むのは貴女だけ。

私は歌って・・・

私たちが一緒になれたなら、

貴女は私の苦悩を和らげてくれるだろう。

私は怯えている、それは役に立たないだろう、

私の心は冷えていく。

私は歌って・・・

私は自分で哀願を公表しよう、

もっとうまくいくように、

自分のことは自分でやるのが一番だ、

ある女性からそう教えられたのだ。

私は歌って・・・

(浅川順子 訳)

20 追放された恋人 The Banished Lover

Huntington MS, EL 1160 (olim Ellesmere MS.), f. 11v.

私は険しい森を進まねばならない。

激しい恐怖に襲われて、

あちらへ、こちらへと彷徨う。

信じていた場所に裏切られ、

全ては、いとしい人のために。

そうして、悪しき計略によって、

私は、至上の幸福の元から追い立てられる。

罪も無く、

戻ってくる確証も無く、

全ては、いとしい人への恐れのために。

寝台は緑の木の下、

枕は生い茂るシダとしよう。

喜びから追い払われた者と同じように。

そして、日ごとに、私は自らの人生から逃れる。

全ては、いとしい人のために。

流れる川から飲み、

木の実を食べよう。

彼女の美しさを思い浮かべるより他に、

私に益を為すものは何もないだろうが。

全ては、いとしい人への愛のために。

(玉川明日美 訳)

21 庭の恋 Love in the Garden

Sloane MS. 2593, f. 11v

ぼくには新しい庭がある、

最近始めたものだ。

そんな庭をこの世の中で

ぼくは他に知らない。

ぼくの庭の真ん中には

梨の木が植わっている。

そしてその木が実をつけるのは

ジョンの梨(1)の他はない。

この町一番の美人が

ぼくにこう懇願してきた、

あなたの梨の木を

私に接ぎ木してください、と。

ぼくがその娘(こ)の望みどおりに

接ぎ木をしたとき、

彼女はエールとワインを

ぼくに注いでくれた。

そしてぼくはその娘(こ)のまさに奥深くに

接ぎ木をした。

そして二十週経ったころには

接ぎ木はその娘(こ)の子宮(おなか)の中で大きくなっていた。

十二ヵ月経ったあの日、

ぼくはその娘(こ)に会った。

彼女はこう言った、この子はロバートの梨なのよ、

ジョンの梨ではなくってね!と。

(1) 「ジョンの梨」はバプテスマのヨハネの祭日(6月24日)までには熟す早稲種の梨で、この詩の最後の2行が人名を使った言葉遊びになっている。

(和治元義博 訳)

22 Careless Love

私が愛したひと、

この国で一番大切なひと、

彼は私にとって見知らぬ客人。

私が悲嘆にくれるとしても何がおかしいでしょうか。

そばにいてほしいとき

[彼は足早に去っていく]。

彼は帰ろうとするときに

一度だってさよならを言おうとしなかった。

彼に逢うたびに

私は声をかけようともせず、逃げ出してしまう。

目で追いながら、心のなかで彼に挨拶をするの。

そんなにも愛に誠実な方を他に知りません。

彼は私の愛おしいひとだから

私の愛しいひと、どうか彼に神の祝福を。

天にまします神にかけて

私は彼だけのもの。

すっかり私は安らいで

イキイキとした屈託のない笑顔を見せる。

彼がやってきて、そばにいてくれると

彼が誠実さがよくわかるの。

私は彼が、彼のことだけが大好き。

ああ、神様。彼に気づいて欲しい。

もし本当にそうなるのなら

心変わりなんて絶対にしないわ。

(貝塚泰幸 訳)

23 forthcoming

24 ずるい書記(ひと) The Wily Clerk

St. John's College, Cambridge, MS. 259, f. 2v

あぁ、親愛なる神様、わたしは何と無価値か、

だってわたしは傷ものの女

ついこの間、ある教会の書記さんにお会いしました

彼のなすことといったら狡くって

彼は耳を傾けておくれといったり

彼の助言を黙っているようにとわたしに頼むのです。

彼が魔法を知っているとわたしは思うんです

そう思うのにはいい理由があるんです

わたしが固くに持っていたものにたいして

わたしには彼の意志を拒むことができなかったんです。

彼とわたしでシーツをかぶってね、

彼のしたいことをさせました。

だけどもう、彼がわたしのガードルを拝むことはないでしょう。

あぁ親愛なる神様、わたしは何と言ったらよいのでしょう。

下男や小姓にいいましょう

わたしは巡礼にいっていたとでも。

いまや、わたしにはもうソノ気がないので

書記さんに弄ばせたりなんかさせないんだから。

(狩野晃一 訳)

25 forthcoming

26 わがサー・ジョン

       Huntington MS. EL 1160 (olim Ellesmere MS.)

ちょっと ちょっと1、わたしはサー・ジョンが好き、そしてどれも好き。

おお、まあ、ほんとに愉快なサー・ジョンたら、

いちゃつきたいと思うたびごとにキスをする。

彼は生まれつきとても感じがよいので、

わたしは彼にいやとは言えないの。

サー・ジョンはわたしが好きなのよ、わたしも彼が好き。

彼を好きになればなるほどますますわたしは好きになれる。

彼は言うのよ、「かわい子ちゃん、さあ、ちゃんとキスしておくれ」――

わたしは彼にいやとは言えないの。

サー・ジョンはわたしに求愛しようとする

自分の喜びのために大層犠牲を払って。

そしてわたしの箱に贈り物を入れてくれた―――

[わたしは彼にいやとは言えないの]

サー・ジョンはわたしのネズミ取りに捕らわれた。

わたしは四六時中彼を喜んで捕えていたい。

彼はほんとにばかばかしくまさぐってわたしの隠し所を購った。

わたしは[彼にいやとは]言えないの。

サー・ジョンはわたしにぴかぴか光る指輪をくれる、

嬉々として試みるために――

他の物を付けて一番上等の毛皮の服をくれる。

[わたしは彼にいやとは言えないの]

(1) noyney: 不詳。呼びかけの言葉か。そう解釈して訳した。

(笹本長敬 訳)

27 ジョリー(陽気な)・ジェンキン

         MS. Sloane 2593, f.34v

「主よ、おお主よ」とジャンキンがアリソンと共に陽気に歌っている。

私(アリスン)がクリスマスの日に出かけた際に、私たちの列の中に

ジョリー・ジェンキンがいることがわかった。彼は陽気な声で、「主よ、憐れみたまえ」と歌っていたからである。

クリスマスの日に、ジェンキンは礼拝を始めた。

そして私はそれは自分にとってためになるものだと思った。彼はとても陽気に「主よ、憐れみたまえ」と言った。

ジャンキンはとても上手にエピストル(1)を読んだ。

そして私はそれは自分にとってためになるものだと思った。私が今まで幸運を持っているように。「主よ、憐れみたまえ」

サンクトゥス(2)の際に、ジェンキンは陽気な調べを歌った。

そして私はそれは自分にとってためになるものだと思った。私は彼の外套の代金を支払った。「主よ、憐れみたまえ」

ジェンキンは一度に100もの調べを歌った。

そして、壺の中のハーブよりも小さくその調べを切り刻んだ。「主よ、憐れみたまえ」

アニュス・デイ(3)の際に、ジャンキンはパークス・ボード(4)を持ち運んだ。

彼は目配せをしたが、一言も発しなかった。そして私の足を踏みつけた。「主よ、憐れみたまえ」

「主をほめたたえよ」、キリストが私を不名誉からお守りくださるのなら。

それは神のおかげ。ああ、私は身重になります!「主よ、憐れみたまえ」

(1) 新約聖書の使徒書簡。ミサ典礼で朗読される抜粋された書簡。

(2) 楽章の聖句。イザヤ書6章3節で預言者イザヤが幻視した天使たちの歌っていた賛歌に基づいている。ミサ典礼における聖歌の一つで、「聖なるかな」という意味。

(3) 平和の賛歌における楽章の聖句。※“Agnus Dei, qui tollis peccata mundi...”(世の罪を除きたもう神の子羊よ)の文句で始まるキリスト教ミサ曲の楽章名。

(4) カトリック教における礼拝の板。中世にあった慣習で、十字架や聖母マリアなどの浮彫板を祭壇前に置き、祭儀の中で宗徒がその浮彫版に接吻をした。

(足立峻一 訳)

28 夏至祭の踊り(1) A Midsummer Day's Dance

Caius College, Cambridge, MS. 383, p. 41

あぁ、あぁ、

不実なことを思わぬ間は、

私に幸運がありますように。

あぁ、あぁ、

私が踊っていられるうちは。(2)

私は夏至祭で率先して踊り始めました。

本当に、細かなステップだったのです。

ジャックという名の聖水の教会書記がやってきました。

そして彼は私を見つめて、私を魅力的だと思ったのです。

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

ジャックという名の聖水の教会書記の青年は

私のために踊りの輪に加わり、

そして私のつま先を軽く踏んで、私にウィンクをしました。

さらに彼は近寄って遠慮しませんでした-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

私には分かりました、ジャックが私のきれいな顔を探るように見つめていることが

彼は私を実に魅力的だと思いました、だから私に幸運がありますように。

私たちの踊りが狭い場所へと行き着いたときに、

ジャックは私に唇を差し出したのです。キスをしたのです-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

ジャックはそれから私の耳に囁きました。

「君は慎重なようだし、秘密も守るね、

君のためにと僕が持っている白い手袋を身につけてくれないか!」

「どうもありがとう、ジャック」それが私の返事でした-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

日暮れのあとにジャックは私と落ち合いました。

「僕が君に約束した手袋のあとにおうちにおいで」

私が彼の部屋に入ると、彼は私を座らせました。

私たちが(3) 寄り添ったときには私は彼の許を去ることができませんでした-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

シーツと毛布が広げられていることが私には分かりました。

本当のことを言うと、それからジャックと私はベッドに入ったのです。

彼は一線を越え、そして跳びはね、決してやめようとはしませんでした。

その夜が一番楽しい夜でした-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

事の終わりに、ジャックは刺激を感じました。

一晩中、彼は私をとどまらせました。

本当に、私は地獄の毛むくじゃらな悪魔に仕えてしまったのです!

その他のちょっとした歓楽については、私はお話したいと思いません-

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

あくる朝、太陽が昇ったばかりの頃に家に戻ったと思います。

イライラして厳しい顔の母に出くわしました。

「言ってごらん、この図々しい娼婦め、どこに行っていたの?

お前のステップと踊りはさぞかし素晴らしかったことでしょうよ!」

私は不実なことなんて考えていなかったのよ。

何度も何度も母は私をひっぱたきました。

できる限り私は秘密を守りましたが、

しまいには私の腰紐は長くなり、お腹がぽっこり膨らみました。

「下手に紡いだ糸はもつれてしまうものだ」-

私は不実なことなんて考えていなかったのに。

(1) Medieval English Lyrics: A Critical Anthology, Chosen and Edited by R. T. Davies (U. S. A.: Northwestern University Press,1963) では “A night with holy-water clerk”というタイトルが付けられている。

(2 始めの5行はリフレインとして各スタンザの終わりに繰り返される。

(3) 写本ではweが欠落している。

(原田英子 訳)

29 下女の休日 The Serving Maid’s Holiday

Caius College, Cambridge MS. 383, p. 41

織ったり、巻いたり、紡いだり、わたしにはできない

今日がお休みだっていう喜びで。

この日をわたしは待ち望んでいたんです

だから糸紡ぎや糸巻きはいたしません

わたしはこんなにも幸せな気分なのです

この大事な休日のことを思うと。

床はちっとも磨いてないし

暖炉の火もおこしていない。

まだ草刈りもしていない

この大事な休日のことを思うと。

香草(ハーブ)を摘んでこなくちゃ、

顎の下(=首)にスカーフを巻かなくちゃ。

ねえジャック、ピンを貸してよ

(髪を)とめなくちゃ、お休みだもの。

もうお昼時なのに

やらなくちゃいけないことはまだ山積み。

ちょっとは靴磨きもしなくちゃね

このお休みに使えるように。

この手桶にミルクを絞らなきゃいけない、

でも手に付いたパン生地は落ちるわね。

こねたときのパン生地が爪に残ったままだわ、

今日というお休みに。

ジャックはわたしを連れ出したいみたい

わたしと戯れたいんじゃないかしら。

奥さまのことなんか怖くはないわ

こんな良い休日はこれまでなかった。

ジャックは私の分の寄付金を払ってくれる

日曜のスコットエール(1)で。

ジャックはわたしの喉をたんと潤してくれる

お休みのたびごとに。

ジャックはわたしの手を取って

わたしを地面に横たえる

だからわたしのお尻は砂だらけ

この大事な休日に。

彼は突き刺し引っこ抜く

それから地面に寝そべる彼の上にわたしは乗っかる。

「神の死かけて、あんたはわたしと好い仲よ、

この大事な休日に」

すぐにわたしのおなかは膨らんだ

教会の鐘と同じくらい大きくね。

だけど奥様にはいえません

お休みの日、わたしに起ったことなど。

(1) 原語はale-schoth ‘scotale: festival with levies for ale’という意味。

(狩野晃一 訳)

31 奥様の寝室で In My Lady’s Chamber

Cambridge Univ. MS. Addit. 5943 (olim. Lord Howard de Walden MS.) Cantelena

奥様、犬たちに代わって――奥様、犬たちに代わって、

どんな殿方も奥様のお部屋(1)でお休みになりませんように。

もっとも、奥様、[犬たちを追い払うために、]

二つの木塊付きの

15インチの探り針(2)をお持ちのお方なら話は別ですが。

[奥様、犬たちを追い払うために、]

奥様の両脚の間で、

これほどいい動きをする、

これほどすてきな木塊に感謝なさいますように。

奥様、鼠どもに代わって――奥様、鼠どもに代わって、

どんな殿方も奥様のお部屋でお休みになりませんように。

もっとも、奥様、鼠どもを追い払うために、

革のノブ付きの

15インチの探り針をお持ちのお方なら話は別ですが。

奥様、鼠どもを追い払うために、

奥様の両膝の下で、

これほど上手く打撃を与える、

これほどすてきなノブに感謝なさいますように。

奥様、蠅どもの代わりに――[奥様、蠅どもの代わりに、]

どんな殿方も奥様の[お部屋]でお休みになりませんように。

もっとも、[奥様、蠅どもを追い払うために、]

[・・・環付きの]

[15インチの探り針をお持ちのお方なら話は別ですが。]

奥様、蠅どもを追い払うために、

奥様の両腿の間で、

これほど巧く揺れ動く、

これほど素敵な環に感謝なさいますように。

(1) hall: 貴婦人の部屋(寝室)と思う。そこで大きい部屋なのだろう。

(2) tent: Robbins編のGlossaryにはsurgical probe (fig. penis)とある。

(笹本長敬 訳)

32 僕のかわい子ちゃん Little Pretty Mopsy(1)

Canterbury Cathedral Christ Church Letters, ii. 173

 「お願いだよ、こっちに来てキスしておくれ、

僕のかわいこちゃん、

お願いだよ、こっちに来てキスしておくれ。」

「ああ、あなたって、そんなにキスが欲しいのかしら?

今はダメよ、私を信じてもよろしくてよ。

だからあなたのお好きなところにお行きなさい。

だって、ぜったい、あなたは私とキスできないもの。」

「そうだ、かわい子ちゃん、もし君が

私にもっと大きなものを求めたとすれば、

それほど君に冷たくせずにおいたろうに。

だから、お願いだよ、こっちに来てキスしておくれ。」

「あなたって、とてもお優しいと思うの

あなたは愛をくれて、気持ちを注いで下さるけど、

あなたの言葉ってなんだか風のよう。

だから今、あなたは私にキスできないの。」

「僕は喋っているだけさ、信じておくれよ。

君は何でも物事を悪くとるんだから。」

「だから私は言っているの、最初に言ったように、

ぜったい、あなたは私とキスできないわ。」

「お願いだから、キスさせて。

今キスできないのならば、

君が死んだらお尻の割れ目にキスさせて。

お願いだよ、君とキスがしたいんだ。」

「はじめに言ったようにそう言いますわ、

けれど、あなたはそれでは狼狽えることはないようですわね、

でもその返答で支払いは済みますのよ

ぜったい、あなたは私とキスすることはないわ。」

「キスが高価なものだってようやくわかったよ。

それに、もし僕が丸一年働いたって

ちっとも近づくことすらできそうにない。

だからさ、お願いだ、こっちに来てキスしておくれ。」

「近寄れもしないってこと、あなたにはお分かりのようですわね、

だってあなたの浅はかな悦びにそんなにすぐ

私が入っていくなんて思わないでほしいわ。

それにぜったい、私とはキスできないし。」

「お願いだってば。こっちに来てキスしておくれよ。

僕のかわいこちゃん、

もし君がキスしてくれなければ,

お願いだから、僕にキスさせておくれ。」

「そうね、キスに関してはためらったりはしませんの、

だから舌でするのならよくってよ、

だけど、もし私のことを下の方で突くようなことがあれば、

ぜったいに、私とはキスはできませんことよ。」

「君が優しいってこと分かったよ。

だから僕の気持ちもきっと分かってくれるだろう。

僕はいつでも君のもの、

君へのキスはいつでも準備万端。」

(1) このキャロルはおよそ1500年ごろのものである。

(狩野晃一 訳)

34 女性礼賛

私はノロジカくらいに軽やかだ

思いを寄せる女性を称える時は。(1)

女性を貶すことは恥である、

というのもその女性とはあなたのお母様なのだから。

私たちの祝福された女性は名誉なのだ

人々が思いを寄せる女性たち全ての中で。

女性とは尊い存在だ―

彼女たちはあなた方のために洗い物をして絞って乾かす。

「ねんねこ、よしよし」あなたに歌う

それなのに、彼女には心配と悲しみばかり

女性は尊い生き物だ

彼女は昼も夜も男性に仕える

そのことに彼女は全力を注ぐ

それなのに、彼女には心配と悲しいことばかり。

(1) この2行はリフレインとしてそれぞれのスタンザのあとに繰り返される。

(原田英子 訳)

35 若い娘の理想 A Young Girl’s Ideal

Sloane MS. 1584

あたしはほんとに運がいい、

トゥロリー、ローリー――

あたしはほんとに運がいい、

トゥロリー、ローリー

下男たちについてあたしはまず話します

トゥロリー、ローリー

だって彼らは品好くスマートに着こなして行くんだもの

トゥロリー、ローリー

食べ物、飲み物、そしていい服なんて

トゥロリー、ローリー

誓ってあたしは全然欲しくない

トゥロリー、ローリー

彼のボンネット(1)はきれいな深紅色

トゥロリー、ローリー

髪は真っ黒、黒玉のよう

トゥロリー、ローリー

彼のダブレット(2)は織目(きめ)の細かいサテン(繻子)織

トゥロリー、ローリー

シャツは出来良く小奇麗に仕上がっている

トゥロリー、ローリー

チュニック(3)、それはとても素敵で丸くふくらんでいる

トゥロリー、ローリー

彼のキスは100ポンドの値打ちする

トゥロリー、ローリー

タイツ(4)はロンドン製の黒い色

トゥロリー、ローリー

彼には欠けているところはありません

トゥロリー、ローリー

彼の顔つき、それはほんとに男らしい

トゥロリー、ローリー

それでは誰でも彼を愛さずにいられない

トゥロリー、ローリー

彼はどこにいようとも、あたしの愛を得て

トゥロリー、ローリー

きっと黄泉路(よみじ)へ旅立って行くでしょう

トゥロリー、ローリー

あたしはほんとに運がいい、

トゥロリー、ローリー――

あたしはほんとに運がいい、

トゥロリー、ローリー

(1) bonet: bonnet. 男子用の縁なし帽、Scotch cap.

(2) dublet: doublet. 15-17世紀に身体にぴったりした男子用上衣(胴衣、ジャケット)。‘doublet and hose’ といえば、昔の男子の典型的な服装で、普段着であり軽装のこと。ダブレットはその一方。

(3) coytt → cote: tunic or kirtle. チュニック。短上着。

(4) hoysse → hoise → hose: a close-fitting garment resembling tights worn by men and boys, joined hose [MED]. (昔男子が着用したタイツのような)長ズボン。(doubletと共に着用した)タイツ、つまり‘doublet and hose’ のもう片方。

(笹本長敬 訳)

38 女性を罵る歌(1)

      Balliol Coll. Oxford, MS 354, f. 250r-

全ての生き物の中で女性が最も素晴らしい、

コノ逆モ然リ。(2)

あなたはあらゆる場所でご覧になるでしょう、

女性が本当に木の上のキジバト(3)だということが。

話す言葉は奔放ではなく、口は堅く、

そして彼女たちの喜びは、そのように振舞おうとすることにあるのです。

女性の貞節は決して破られはしません

彼女たちはとても上品で礼儀正しい

子羊のように柔和で石のように物静かで

性格のひねくれも気難しさもあなたは見つけないのです!

男性は千倍も厄介で

その上、女性を手に入れるためには

彼らがなんと大胆なことか、私は仰天してしまうのです

彼らはとても寛大で優しくそして冷静に見えるのです!

あなたの相談ごとはひとりの女性に話しなさい、

すると彼女はそれを驚くほどきちんと秘密にしておけるのです。

彼女は生きたまま地獄に行ったほうがましなのです、

ご近所にそれを話してしまうくらいなら!

女性によって男性は和解し、

女性に男性が騙されたことは一度も無く、

彼女たちは礼儀正しいグリゼルダ(4)で、

彼女たちはとてもおとなしくて従順なのです。(5)

さて、女性を褒めましょうか、それとも黙っていましょうか、

というのも、彼女たちは決して自らの意志で男性を不機嫌にはしませんから。

彼女たちは怒り方がわからないのです、

というのも私はあえて申しましょう、彼女たちはなにも悪いことを思いつかないのです。

女性がおしゃべり好きで、

夫にぺちゃくちゃとしゃべるとお思いですか?

いいえ、彼女たちはそんなことに関わるくらいなら

見返りを求めずに尽くしたほうがましなのです。

全ての受難者たちが溺死して

そして地上に何も残されないとしても

女性たちは見出されることでしょう、

彼女たちにはこのような美徳がたくさんあるのですから!(6)

彼女たちは宿屋にはいこうと思いませんし、

ましてや酒屋になんて行きません。

というのも、神がご存知のように、彼女たちは心を砕いているのです、

夫たちにそういったことにお金を費やさせるようにと。

もしも、喜んでみずみずしく着飾ったり

カチーフで着飾ったりする、

そんな女性や娘さんがいるとしたら、

あなたは言うでしょう、「彼女たちはうぬぼれている」と。それはひどい言い様です。(7)

ここにて終わる。

(1) R. T. DaviesのMedieval English Lyricsでは、 “What women are not (女性にあてはまらないこと)”というタイトルがつけられている。

(2) 最初の2行はそれぞれのスタンザの後に続くリフレイン。2行目はラテン語の一文となっている。Robbinsは注で「この詩のユーモアは、もちろんそれ ぞれのスタンザの後にくるリフレインの使用だが、この2行がそれぞれのスタンザの意味を完全に変えている」と述べている。

(3) キジバト(turtle -dove)は雌雄が仲睦まじいこと鳥として知られている。鳴き声の「クークー」が動詞 “coo”(愛をささやく)と同音であることから、情愛の深い鳥と連想されている。

(4) グリゼルダ(grysell)は夫が妻の従順 さと忍耐力を試す物語としてペトラルカ、ボッカチオ、チョーサーの作品や歌劇に登場する。口承の物語に遡ると言われており、ペローも童話集にグリゼルダの 物語を収録している。グリゼルダは物語の中で試練を耐え抜いたために、貞淑で従順で我慢強い妻の鏡として中世、ルネサンス期にもてはやされた。

(5) Robbinsは注でこのスタンザの最後の2行(19、20行目)のバリエーションを紹介している。

     ffor by woman was neuer man betraied,

     ffor by women was neuer man bewreyed.

「というのも、男性は決して女性に欺かれず、

女性によって信用を裏切られないのです。」

The Index of Middle English Verse (C. Browne and R. H. Robbins eds, New York, 1943)では、このスタンザ(17~20行目)が欠落している。

(6)  The Index of Middle English Verse (C. Browne and R. H. Robbins eds, New York, 1943)では、このスタンザ(29~32行目)が欠落している。

(7)  The Index of Middle English Verse (C. Browne and R. H. Robbins eds, New York, 1943)では、最後のスタンザが欠落している。

(原田英子 訳)

39 結婚の苦労 The Trials of Marriage

MS, Eng. Poet. e. 1 (Sum. Cat. No. 29734)

なんで、どうして、あんたは妻を娶るときわざと目を閉じたのか?

あんたは決して二度と目を大きく開けて調べるに及ばなかったんだなあ!

夫(男)は妻(女)と結婚する、そのときには夫(男)はわざと目を閉じる、

だがその後で目をかっと見開いて調べまわる、俺には奇妙に思われるなあ!

(笹本長敬 訳)

43 或る恐妻家の嘆き

Sloan MS. 2593, f. 24r-

ホウ!ヘイ!嘘じゃございませんよ、

彼女が「おだまり!」と言う時に口を開こうなんて滅相もない。(1)

お若い男性諸君、私は君たち全員に忠告いたします、

歳をとった妻は君たちに何の得にもならないと。

というのも、我が家にもひとりいるのですから ―

彼女が「おだまり!」と言う時に口を開こうなんてもっての外。

昼に畑仕事から戻ってくると、

欠けた皿に私の食事が盛られているのです。

嫁様にスプーン頂戴なんてお願いする勇気なんてありゃしません ―

もっての外ですよ(彼女が「おだまり!」と言う時には)。

もし私が嫁様にパンをお願いしたら、

彼女はめん棒を取り出して私の頭をかち割って、

ベッドの下へと逃げ込む羽目になるのです ―

もっての外ですよ(彼女が「おだまり!」と言う時には)。

もし私が嫁様に肉をお願いしたら、

彼女は皿で私の頭をかち割るのです。

「小僧、あんたはいぐさ一本ほどの価値もありゃしない!」

もっての外ですよ(彼女が「おだまり!」と言う時には)。

もし私が嫁様にチーズをお願いしたら、

全くもってくつろいだ様子で彼女は言うのです、

「小僧、あんたはお豆半粒分ほどの価値もありゃしない!」

恐れ多くてできゃしませんよ(彼女が「おだまり!」と言う時には)。

(1) この2行はリフレインとしてそれぞれのスタンザのあとに繰り返される。

(原田英子 訳)

44 尻に敷かれた亭主の愚痴、Ⅱ

MS. Eng. poet. e. 1 (Sum. Cat. No. 29734)

心配を追い払え、追い払え、追い払え――

心配を永遠に追い払え!

おれが苦役してあるいは汗水たらしてやっと稼げる分、

女房はそれを全部飲み食いに使うのだ。

そしておれが何か言えばあいつはおれをたたくだろう――

だからおれは悲しくて心が痛む!

おれがあいつのことをこっぴどく何か言えば、

あいつはまるで狂ったようにおれを見て、

おれのフードのあたりを殴るだろう――

[だからおれは]悲しくて[心が痛む!]

あいつが美味い居酒屋へ馬で行くならば、

おれ自身あいつの脇についてすべて小走りで行かねばならぬ。

そしてあいつが飲めばおれは我慢しなければならぬ――

[だからおれは]悲しくて[心が痛む!]

おれがそれはきっとこうなると言えば、

あいつは言う、「あんたは嘘つきよ、しみったれ、本当に!

あんたはあたしをこんなふうにやっつけるつもりでいるの?」

[だからおれは]悲しくて[心が痛む!]

うまく扱わねばならぬこんな女房を持つ人ならば、

信経の中にどんな処罰があるのかきっと知る人である。

願わくは神が彼の苦しみに対して報いを与えられんことを!

[だからおれは]悲しくて[心が痛む!]

(笹本長敬 訳)

45 ぼくの年のいかない妹

Sloane MS. 2593

ぼくには海のはるかかなたに

年のいかない妹がいる、

あの子が送ってくれた

愛のしるしがたくさんある。

あの子はまったく種子なしの

サクランボを送ってくれた、

そしてまったく骨なしの

ハトもそうしてくれた。

あの子はまったく枝なしの

イバラを送ってくれた、

あの子はぼくに思慕の念なく

恋人を愛するように言った。

どんなサクランボも

種子がないはずがない。

そしてただハトだけが

骨がないはずがない。

どんなイバラも

枝がないはずがない。

ぼくは思慕の念なく

恋人を愛せるはずがない。

サクランボが一輪の花だったとき、

そのとき種子はなかった。

ハトが卵だったとき、

そのとき骨はなかった。

イバラが芽を出していなかったとき、

枝はなかった。

少女が恋する人をもつとき、

彼女には思慕の念がない。

(笹本長敬 訳)

47 私の12頭の雄牛

Balliol Coll. Oxford MS. 354 (f. 178v~)

私には美しい茶色の雄牛が12頭いる

雄牛たちは草を食むため町を通っていく

ヘイ、ホー、ヘイ

私の雄牛たちを見なかったかな、可愛い小さな坊や。

私には美しい白色の雄牛が12頭いる

雄牛たちは草を食むため堀を通っていく

ヘイ、ホー、ヘイ

私の雄牛たちを見なかったかな、可愛い小さな坊や。

私には美しい黒色の雄牛が12頭いる

雄牛たちは草を食むため湖を通っていく

ヘイ、ホー、ヘイ

私の雄牛たちを見なかったかな、可愛い小さな坊や。

私には美しい赤色の雄牛が12頭いる

雄牛たちは草を食むため牧草地まで行く

ヘイ、ホー、ヘイ

私の雄牛たちを見なかったかな、可愛い小さな坊や。

終わり。

(浅川順子 訳)

50 柊とアイビー Holly and Ivy

      MS. Eng. poet. e. 1 (Sum. Cat. No. 29734), f. 30r-

柊とアイビーが激しい言い争いをした

誰が勝利を手にするべきか(1)

彼らが向かう土地で

柊は言った「私は快活で見目も良い(2)

私が勝利を手にしようではないか

彼らが(3)向かう土地で」

するとアイビーは答えた。「私はやかましく誇り高いのです。

ですから私が勝利を手にしましょう

彼らが向かう土地で」

今度は柊が返した、ひざまずいて。

「お願いだ、心優しいアイビー、私の名誉を傷つけないでおくれ

我らが向かう土地で」

(1)おそらく、柊を男性、アイビーを女性とみなし、その間で行われている民間に伝わる遊びを示す。

(2)写本では“Iol”となっている。

(3)ChambersとSidgwickは、6行目と9行目の“þei”を“we”としている。ここでは、原文に従って“they”と訳す。

(濵田美里 訳)

54 雄豚の頭のキャロル

MS. Eng. poet. e. I (Sum. Cat. No. 29734), f. 29r-

ポポポポ

赤身を味わえ、他の部位もね。(1)

宴の最初に

雄豚の頭を熱して

そしてマスタードに浸すのです、

そしてお帰りになる前にお歌いくださいな。

ここにいらっしゃる皆さん、ようこそ

とても素晴らしい歓楽をお過ごしくださいませ

そしてとびきりの御馳走をお召し上がりくださいな。

そしてお帰りになる前にお歌いくださいな。

皆々様、ようこそおいでくださいました、

皆さんすぐに(2)お歌いくださいませ

さあ、お開きになる前にお急ぎくださいませ、

そしてお帰りになる前にお歌いくださいな。

(1) この2行はリフレインとしてそれぞれのスタンザのあとに繰り返される。

(2) 写本では、 ‘or ȝe go’に取り消し線を引いたうえで ‘ryth anon’と書き直している。

(原田英子 訳)

60 ペニー銀貨  On Penny

      Caius Coll. Cambridge MS. 261, f. 234r-

使えよ、されば神は与えん。

蓄えよ、されば永遠に嘆かん。

金がなければ、心配もない。

財がなければ、悲しみもない。

行け、ペニー銀貨よ、巡って行け。

(濵田美里 訳)