日本病院薬剤師会 武田泰生 会長との座談会

~これから薬剤師を目指す学生に向けて~

日本病院薬剤師会会長 武田泰生先生と学長との座談会(2023年12月5日)を行い、病院薬剤師の現状と将来の展望についてお話を伺いました。また、最後に薬剤師を目指す学生に向けたエールをいただきました。


参加者:

学長:本日は本学にお越しいただき本当にありがとうございます。先生は、日本病院薬剤師会の会長に就任されてからどれくらいになりますか?

武田先生:昨年(2022年)の6月に前任の木平健治会長のあとを受けて就任しましたので、1年半になります。日本病院薬剤師会の役員としては、10年ほど前から携わっております。

学生に一番伝えたいことは?

学長:現在、薬剤師を取り巻く様々な問題(薬剤師数の問題・受験者数・大学の数の問題)があります。日本病院薬剤師会の会長として、これらの問題も含め全体を見られているわけですが、先生のご講演の中で学生に一番伝えたかったことはどのようなことでしょうか?

武田先生:急速に進む少子高齢化に対応するために、今、日本の医療が大きく変わろうとしています。これから薬剤師を目指す学生さんに、今後求められる薬剤師の職能について、もっとよくしてもらい、薬剤師としてのキャリア形成についてよく考えてもらいたいというのが一番お伝えしたかったことです。これまで薬剤師の業務は調剤が中心で展開されてきましたが、ご存じのように、現在の薬剤師業務は患者さんやチーム医療の一員として対人業務中心での展開が求められています。薬剤師は医師と協働して、薬剤治療管理を率先して進めることが大切です。このことは、働き方改革を求められている医師の業務軽減にも貢献します。このようなことから、ぜひ学生の皆さんには病院から薬剤師としてのキャリアをスタートしてもらいたいと思っています。

学長:少し言いにくいことではありますが、病院薬剤師は薬局と比べて、どうしても業務が大変という印象はあると思います。病院は厳しい環境ではありますが、得られるものはたくさんあると思います。一方で病院薬剤師として働くことはハードルが高いのも事実で、そこはいかがお考えでしょうか?

武田先生:そうですね。今は薬局からキャリアをスタートする学生が増えてきているように感じます。薬剤師の将来を考える目的で、3年前に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が厚生労働省に設置され、多職種が構成員となって、薬剤師の需給、資質向上、そして今後のあるべき姿の3項目について検討しました。その中で、医師会から、病院でチーム医療を経験していない若手の管理薬剤師に外来の患者さんを任せるには不安があるという声が挙がっていました。このことから、学生の皆さんが病院に就職し、病院薬剤師として仕事を続けてもらうことが一番なのですが、そうでなくとも、薬局薬剤師として働く前に、ぜひ病院での経験を積んでほしいと思っています。

薬剤師とAI(人工知能)の関係は

学長:少し話が変わりますが、昨今、様々な分野でAI(人工知能)の活用が進んでいます。AIの台頭で薬剤師の業務が減るといわれていますが、先生は薬剤師とAIの関係についてどうお考えでしょうか?

武田先生:新しい薬が次々に出てくるわけですが、その薬の情報を患者さんの検査値の情報と照らし合わせて解析することはAIでできると思います。AIのラーニング情報は常に更新されるでしょうが、種々の薬の組み合わせのなかで、新しい薬が出てきたときに、常に最新の情報をAIが学習できているのかは計り知れないのではないでしょうか。いかにAIとはいえ、偏った情報から結果がでてくることもあるので、AIの情報のみで患者説明やチームへの情報提供を行う訳にはいかないと思っています。Human beingといいますか、やはり人同士のやりとりや様々な情報源から必要な情報を収集し、薬剤師としての職能を基に、供与する相手に合わせて加工し提供することが重要ではないでしょうか。それはAIではできないことだと思います。

学長: それは大切ですよね。

武田先生:AIはツールとして非常に有用ですが、あくまでも最終判断は薬剤師が責任を持たなくてはいけないですよね。臨床現場では、インターネットやメーカーの情報、検査値などの様々な情報を総合して薬学的に判断し、患者さんや医師へ情報提供します。その中に今後AIというツールがはいり込んでくるという構図は、これまでとあまり変わらないと思います。

薬剤師の地域偏在については

学長: 最近、薬剤師の地域偏在が話題ですが、病院薬剤師の世界でも地域偏在の問題はありますか?

武田先生:地域偏在は非常に大きな問題です。病院薬剤師の方が薬局の薬剤師に比べて極めて深刻な問題になっています。

学長: それはなぜなんですかね?みなさん都会に住みたいのでしょうか?

武田先生:やはりみなさん、都会に住みたいのではないでしょうかね。おそらく、地方の病院や薬局にはなかなかいかないですよ。鹿児島の離島ですと、薬剤師はほとんど来てもらえないので、家や車を提供するなどの条件を提示して一定期間来てもらっているところもあり、そこで3年間働いてお金ためて帰ってきましたという薬剤師の方もいます。それくらいしないと薬剤師はなかなか地方には来てもらえないということだと思います。でも、地方の市町村立の病院薬剤師は公務員に準ずる給料として決まっていて、なかなか上げられないですよね。このように、地方の、特に中小病院は薬剤師が少なくて募集しても来ないのが実情です。この状況は患者さんにとってデメリットになっていると思います。地域に因らず必要な薬物治療管理をしっかりと展開できるよう、地域全体で必要な薬剤師数を確保していくことをしっかりと考えていかないといけないと思っています。

日本病院薬剤師会の施策について

学長: 日本病院薬剤師会会長として、先生が現在進められている施策は何でしょうか?

武田先生:3つの柱があります。その柱をバランスよく高くしていければ、薬剤師として、薬物治療管理を通して医療の質の向上に貢献できると考えています。柱の1つ目は、薬剤師の資質の向上です。Generalistとして研鑽する生涯学習は継続してやらなくてはいけないですし、領域別の専門性も磨かなくてはなりません。2つ目は、職能の拡大です。先にお話ししましたように、病院では、薬剤師は調剤・製剤だけでなくチーム医療や患者対応へとどんどん業務を拡大し、病棟活動を中心に展開してきています。さらに、急性期病院では外来診療へも薬剤師が参画し、医師と協働で薬物治療管理を行うという展開を見せています。ただ、中小病院ではなかなか進んでいない状況があります。そして 3つ目は、 施設の機能に応じて求められる薬剤業務をしっかりと展開できるためのマンパワーの充足が必要です。

学長:それは喫緊の課題ですよね。

武田先生:はい。そもそも日本病院薬剤師会の本来の目的は、会員の皆さんが病院でやりがいと生きがいを持って楽しく働ける、薬剤師としての職能をしっかりと発揮できる、そのような環境をいかにつくっていくか?ということですので、そのためには患者や他職種が求める薬剤業務を十分に展開できるだけのマンパワーが必要です。また、職能の拡大という面では、ただ単に専門性を高めるというのではなくて、薬学部も6年制になり、薬物治療管理において医師との協働を求められていますので、これは私見にはなりますが、医局員同様に薬剤師も学位を取得し、さらに専門性を磨いて、学長が常におっしゃっているような、いわゆるファーマシスト・サイエンティストを目指すことが非常に大事だと思っています。


最後に

学長:本日の講演では学生にそのように言っていただき、エンカレッジしていただいたんですね。この座談会は、主に学生と、本学を目指す高校生に向けたものです。彼らに最後のメッセージを是非お願いします。

武田先生:薬学生の皆さんは薬学的管理や薬学研究を通して医療に貢献したいとの思いから薬学部に進まれたと思います。薬剤師は幅広い職能を持つ職種です。将来、薬剤師として医療現場で活躍される方、一方で基礎・臨床研究者として活躍される方もおられるでしょう。いずれにしても薬剤師は今後も時代に応じて職能を拡大し、求められ続ける職種だと思っています。職を失うことはない職種です。いま、医師不足や医師の働き方改革のなかで、地域特性に合わせた医療と介護の一体型提供体制の構築が求められています。医師のタスク・シフト/シェアを効果的に生産性高く担い地域医療に最も貢献できるのは薬剤師だと思います。だからこそ、薬剤師は生涯を通じて研鑽し、時代に応じて求められる薬物治療管理の職能を発揮していかなければいけないと思っています。チーム医療の一員としての薬物治療管理を率先して担っていくには、まずは病院薬剤師としてその研鑽をスタートさせてほしい。それが将来に向けて薬剤師としての職能を磨く礎になると信じています。だからこそ、病院薬剤師の魅力をぜひ知っていただきたい。そして、薬剤師としての効果的なキャリア形成のために、病院・診療所からスタートするという選択をぜひお考えいただきたいと思っています。

学長: 本日は、貴重なお話を伺うことができました。お忙しい中ありがとうございました。